ワールド・エンジン・データブック 2019-2020:from inside(4) アメリカ車のデータから見えてきたもの(上):ワールド・エンジン・データブック
- 2019/12/03
- Motor Fan illustrated編集部
世界一の自動車生産国であり、最大の消費地でもあるアメリカだが、日本のマーケットでは少数派もいいところであるためか、アメリカ車についての情報は省みられることが少ない。アメ車は未だに大排気量のV8ばかりだと思っている人すらいるようなのだ。アメ車のエンジンについて書く前に、現在に至るアメリカ車とそのエンジンはどういうものなのか、「略歴」を記しておこうと思う。
TEXT●三浦祥兒(MIURA Shoji)
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日本との比較が分かりやすいかもしれない。
日本は島国故に平野が少なく、国力に余裕がなかった明治から昭和初期に道路網を建設するには負担が大きすぎし、個人の自動車所有など夢の時代が長かった。同時に石油資源を産出しないため、陸上交通機関は石炭と水力(発電)をエネルギー源とした鉄道に重きを置いていた。昭和のはじめ頃には鉄道のほとんどが国有化され、国策として鉄道網が整備されることになる。第二次大戦以前はどんな国でも人の移動は地域が限られ、輸送の主体は貨物であったから、大量輸送に向いた鉄道は発展するのが必然だったのだ。
アメリカでも事情は同じであったけれど、国土の広さが桁違いの彼の地では、鉄道網を建設する資本が莫大になる。また、発展している都市部が太平洋沿岸、特に東海道に集中している日本と違って、各地区に大都市が分散するため、州を跨いで網の目のように鉄道網を敷くのは難しかった。アメリカの政策として、インフラ設備も民間投資に頼ることから、日本のように国有鉄道は存在せず、主に東部の工業地帯や石油石炭生産地を結ぶ限定的な路線以上のものにはなかなか進展しなかった。
街と街の距離が離れているために、鉄道の存在しない地域では日常生活のために移動する距離が勢い長くなり、T型フォードに代表される廉価な大衆車が販売されると、人々はそれに飛びついた。大石油生産国であり、水よりガソリンが安いといわれる環境が拍車をかける。
その内、少量の物資輸送や農作業の目的で、純粋な乗用車ではない「軽トラック」の需要が増していった。軽トラといっても日本とはスケールが違う。1トン以上の荷物を運び、場合によっては荷車を牽引する「ピックアップ・トラック(PUT)」である。
沢村慎太朗氏と編纂した一連の軽トラ取材とそれをまとめた「軽トラの本」に記されているように、人荷両用で荷台がオープンの車両は、過積載が当たり前。軽トラに1トン近く積むのだから、PUTでは数トンになろう。その負荷に打ち勝つためには、低回転で大トルクを生むエンジンが必要であり、8ℓクラスのOHV・V8が適当とされた。日本や欧米ではディーゼルを使うところだが、ターボもコモンレールもない時代のディーゼルエンジンは、同等排気量のガソリンエンジンより低出力で、おまけに重くて高い。ディーゼルの利点は自動車用に限って言えば燃費だけなので、ガソリンが安ければ何も五月蠅くてショボいディーゼルを選ぶ必然性はないのだ。
日本独自であることはもちろん、世界的に見てもユニークな軽トラック。虚飾を排し効率を最優先、コストは極限まで抑えながら機能を最優先する。それを達成するための手段は多岐に渡り、各社/各車の特徴/特長として現れるに至っている。その軽トラックについて、開発者に話を伺い、考察したのが本書である。
アメ車の象徴ともいえるV8エンジンだが、第二次大戦以前は高性能エンジンとされ、キャデラックに代表される高級車に投入された。戦前はマルチシリンダーの定型は定まっておらず、直6や直8(クランクが長い不利をセンターテイクオフで補えばなかなかに優秀なエンジン形式)も多かった。
戦争が終わると「黄金の50s」が到来。デカくて速いV8の天下が訪れる。高級エンジンとしては欧州のように高回転型V12という選択肢もあったはずだが、軽量を求めなければV8の排気量を上げれば済むハナシであり、PUT用にも使えて都合が良い。更なる高性能を求めるユーザーには、GMもフォードも専用のチューニングキットを販売して対応した(現在でもシボレーの公式サイトにはNASCAR仕様の各種チューニングキットがカタログ掲載されている)。それを使えば当時の日欧では考えも付かない500psオーバーがラクに手に入った。この頃からアメリカンV8はベースの仕様から多様化をはじめ、60年代半ば、フォード・マスタングの爆発的ヒットを契機にしたポニーカーブームで頂点に達する。(続く)
今回のアメリカ編はなんだか長くなりそうな予感。その合間、アメリカのエンジンをこちらで予習してはいかがでしょうか。世界中のエンジンを一冊にまとめた決定版、2019年版である。
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