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はすば歯車(helical gear)と遊星歯車機構(planetary gear set)〈基礎からわかる自動車のギヤ講座③〉 トランスミッションに使われる歯車:はすば歯車(helical gear)と遊星歯車機構(planetary gear set)

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横置きMT:縦置きトランスミッションと違って回転の方向を換える必要がないので、乗用車用の横置きMTはファイナルドライブも含めてすべてはすば歯車で構成。平歯車にしないのは、音振性能の観点。逆に、音振の観点からはすば歯車しか使えないのが実状。平歯車はリバースギヤにしか使えない。平歯車とはすば歯車の伝達効率はほとんど変わらず、平歯車の方が、共振点が出やすいのが特徴。共振が出るような状態で使うと、強度的な問題が出てくる。

 歯車(Gear=ギヤ)といえば、Motor Fan illustratedで『歯車屋から見た世界』を連載中の久保愛三博士にご登場願わなければならない。
 久保愛三博士は、京都大学で教授を長く務めたあと、07年に退官。現在は名誉教授でいらっしゃる。公益財団法人応用科学研究所理事長をであると同時にKBGTクボギヤテクノロジーズの代表でもある。歯車の世界的権威である。

 ポルシェ911をこよなく愛し、現在も日本の歯車界を牽引し続ける久保愛三先生に、自動車に使われる歯車についてモータリングライターの世良耕太氏が教えを乞うた。

「博士、自動車の歯車についてやさしく教えてください!」

 これは、Motor Fan illustrated誌に掲載された記事の再編集版である。
 連載第3回(全5回)は、トランスミッションに用いられる歯車について、である。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota)

トランスミッションに使われる「はすば歯車(helical gear)」

 内燃機関の回転数の範囲と、クルマが止まっているときから最高速に達するまでの間は、作業機であるタイヤ駆動部と原動機である内燃機関のトルク・回転速度特性が一致しません。両者の特性を一致させるため、多段の歯車装置が必要になります。大昔のトランスミッションは、ノンシンクロのマニュアルでした。それがシンクロリングの付いた常時噛み合いになり、ステップATが出てきて、DCTやオートメーテッドMT、CVTが出てきて現在に至ります。
 MTの場合はレース用と一般用のクルマでまったく違います。レース用は大前提として、サーキットや時と場合によって簡単にギヤ比を変えたい欲求があります。この欲求を満たすため、ギヤボックスはばらすのに簡単な、車体の最も後部に付けたりします。
 レース用ギヤボックスのもうひとつの条件は、ギヤを簡単に抜き差ししたいこと。そのために平歯車を使います。一番嫌なのは、シンクロを付けることです。大きなトルクを伝えるために、ギヤの側面にごっついドッグを設けます。

はすば歯車(helical gear)

はすば歯車(helical gear)
軸に対して歯筋がねじれている歯車。インボリュートヘリコイドと呼ばれる歯面形状を持つのが一般的。乗用車に用いられる動力伝達用の歯車は、ほとんどがはすば歯車である。その理由は、平歯車と違って歯が少しずつ噛み合っていくため、平歯車に比べて音や振動の面で有利だから。ただし、歯筋が軸に対して傾いているため、回転にともなって軸方向に推力(スラスト)が働き、歯車は軸方向に動こうとする。また、平行度を狂わせるようなモーメントが働く。スラストによる荷重を受け止めるため、平歯車に比べてベアリングが複雑になる。

 一方、乗用車、とくに日本のメーカーの場合は音振に対する要求が厳しいので、平歯車を使うことはまったく不可能で、リバースギヤにしか使えません。前進用はねじれ角がかなり強いはすば歯車にならざるを得ない。レース用は音が出ても関係ないので、利便性を考えて平歯車です。レース用の場合は容積を小さくすることも大事ですが、その点、平歯車は歯幅を薄くすることができるので、容積を小さくできます。

 はすば歯車が音振面で平歯車より有利なのは、重なり噛み合い率が高いからです。平歯車の場合、重なり噛み合い率は1.xで、常に1枚か2枚の歯が噛んでいることになります。一方、最近の乗用車用MTに使うはすば歯車の重なり噛み合い率は5近くあります。4枚か5枚の歯が常に噛んでいるということです。はすばは歯の接触線が斜めになるので、歯面の形状誤差が平均化されます。この効果がものすごく大きく、平歯車に比べて圧倒的に静かになります。

レース用トランスミッション

レース用のトランスミッションに用いるギヤは平歯車が一般的。Xトラックやヒューランド、リカルドといった著名な専業メーカーはすべてイギリスにある。平歯車を使うのは、音振性能を気にする必要がないため。軽量・コンパクト化への欲求にも合致している。レースの現場でギヤの交換がしやすいのも平歯車の利点だが、近年はコスト削減の観点から、イベント中やシーズン中のギヤ比の変更を禁止するカテゴリーが増えている。

トランスミッションに使われる「遊星歯車機構(planetary gear set)」

遊星歯車機構(planetary gear set)

遊星歯車機構(planetary gear set)
サン(太陽)ギヤの周囲に3つ以上のプラネタリー(惑星)ギヤを噛み合わせ、最外周にリングギヤを配した歯車機構。「レオナルド・ダ・ヴィンチの頃からの歴史がある」歯車機構でもある。サンギヤとプラネタリーギヤは、やはり音振性能の観点からはすば歯車を使用。リングギヤは円筒の内側に歯を切った内歯車。サンギヤ、プラネタリーギヤ(を支持するキャリア)、リングギヤの3つの要素を、多板ブレーキや多板クラッチの締結要素で固定することによって、それぞれのギヤの固定/入力/出力の機能を切り替える。

 ATのプラネタリーにはプラネタリーならではの難しいところがずいぶんあります。ただし、自動車用は音振以外が問題になることはありません。音振が問題になるか、強度が問題になるかは経済状況の関数で決まります。社会が豊かなときは壊れないのは当たり前で、快適かどうかの側面から音振が重要視されます。経済状況が悪くなると、動いてくれることが大前提。音振はどうでもよく、どんなときでも信頼を持って動いてくれることが重要になります。

 歯車は必ず軸にベアリングが要るのですが、そのベアリングをどこに設置するかに「ミッション屋」のノウハウが詰まっています。トランスミッションを現実に装置として動かしたとき、難しさの過半はベアリングです。

メルセデス・ベンツの9速AT、9G-Tronic:ステップATの多段化が進んでいるが、多段にすればするほどクラッチやブレーキといった締結要素が増えてドラッグは増える。大きく重く高くもなる。実用上は6段で充分という議論がある一方で、10段が出てきてもいる。「多段化している最大の理由は、一般ユーザーが多段を支持しているから。小さくて軽い方がいいという見識がある一方で、それが成り立つかどうかはお客あっての話なので難しい。

私が993型ポルシェ911を愛する理由:歯車の権威・久保愛三教授のポルシェ911カレラ

久保愛三博士は京都大学で教授を長く務めたあと、2007年に退官。現在は京都大学名誉教授でいらっしゃる。公益財団法人応用科...

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