内燃機関超基礎講座 | ポート噴射は直噴の下位デバイスではない。日産のデュアルインジェクターから考える、「適材適所の必要性」
- 2020/10/01
- Motor Fan illustrated編集部
現代のガソリンエンジンの燃料供給システムは大きくわけて、「筒内燃料直接噴射=DI」と「ポート噴射=PFI」がある。DIとPFIを併用するシステムもある。コストの面からPFIよりDIが上位にあると考えがちだが、本当にそうだろうか? 日産のデュアルインジェクターで考えてみる。
その昔は、気化器(キャブレター)による燃料供給方式がガソリンエンジンでは唯一の方法だった。空気の流れに燃料の「霧」を乗せ、空気と燃料の混合気をシリンダーに導くという方法だった。現在の視点で見れば、過渡にすべて追従してくれるキャブレターは、本当に正確な燃料制御さえ可能なら、もっとも優秀な燃料供給システムであるとも言える。周辺技術の進歩によってキャブレターに可能性が開けてきたことは、2輪車が証明している。しかし、電子制御がクルマに入り始めた80年代初頭には、キャブレターは「古い技術」という烙印を押されてしまった。代わって登場したのは、小さなノズルからスプレーのように燃料を噴くインジェクター方式。吸気ポート内の、吸気バルブに近いところで燃料を噴く方式である。
現在も、このPFI(ポート・フューエル・インジェクション)は主流である。燃料制御の技術が進み、より正確に「適量を最適タイミングで」噴射できるようになり、燃費の向上をもたらした。吸気2バルブによる4バルブが大多数を占める現在では、2本ある吸気ポートに燃料を噴射するため、噴霧が2方向に分かれるタイプのインジェクターが普及している。
ただし、欠点もある。吸気バルブの傘に向かって噴射するため、吸気ポートの壁面やバルブの裏面に燃料が付着してしまうことだ。排気ガス中の酸素濃度はセンサーが常に監視しており、燃焼ごとにその結果は燃料供給にフィードバックされるが、壁面に付着した燃料が、どのようなタイミングでどれくらいの量が燃焼室に入ってゆくかは予測が難しい。結局は「結果」からフィードバックするしかない。
この欠点を補うために、ディーゼルエンジンのような筒内直噴というDI(ダイレクト・インジェクション)方式が生まれたが、同時にPFIの改良も進められている。インジェクターの改良、燃料噴射圧のアップ、制御の緻密化など、アプローチはさまざまである。また、トヨタはPFIとDIを併用する方式を使用している。
そんななかで、日産はインジェクターを2本つかい、2つある吸気バルブごとにポート内噴射を行なうデュアルインジェクター方式を開発した。この方式をよく観察すると、PFIによるDI領域への挑戦というテーマが見えてくる。
従来は1本で噴いていたものを2本にすれば流量に余裕ができる。燃料の噴霧粒径を小さくして空気と混ざりやすくし、燃焼ごとに正確な混合気供給を行なうという発想だ。ただし、燃料粒径を細かくすると貫徹力が弱くなる。粒径と貫徹力のバランスからインジェクターの仕様は決められた。日産は「平均粒径で従来の半分」と言うが、粒径分布がどの程度なのかは不明。ツブが小さいほうが気化が早い。燃圧は通常の0.3~0.35barだという。
日産のデュアルインジェクターは、噴射ノズルが2本になったということで片付けてしまうと、真意を見失う。おそらく、発想としては2つある吸気バルブ/吸気ポートにそれぞれインジェクターを置くことだったのではないだろうか。つまり、現状では燃焼室手前で合流して1本にまとまるサイアミーズ型の吸気ポートをいずれはやめ、独立ポートにする。そうなれば、片弁休止や片弁ごとの可変動弁制御と同時に、ポートごとの燃料供給制御ができる。スワールとタンブルを自在につくり出したり、直噴でなければできない圧縮行程噴射へのチャレンジも可能になるのでは、と思う。
「なぜ直噴にしないのか」と考えれば、ひとつはコストだろう。VWなど欧州勢は、直噴化にあたって燃焼解析をやり直し、部品も新規に設計した。大量生産でコスト吸収するにしても、このシステムが絶対に受け入れられるという確信がなければ踏み切れなかっただろう。日本の場合、ユーザーは欧州ほど燃料コストにはシビアではない。デュアルインジェクターは、そういう市場に向けて「効率」を訴求するソフトランディング策だと思う。
ストイキ直噴の効果は、気化潜熱や燃料制御というプロセスよりもドライバビリティという結果にあると筆者は思う。PFIがそれを追いかけ、いままでにはない「味」を出してくれるなら、将来の選択肢は広がる。燃料噴射の2大政党時代は来るか?
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