【初試乗】アストンマーティンDB11 V8 メルセデスAMGの心臓を与えられた新世代グランドツアラー。
- 2017/09/27
- GENROQ編集部 野口 優
アストンマーティンの美しきボディに、メルセデスAMG製のV8エンジンを搭載するDB11。そのコンセプトもV12搭載車とは違い、"スポーツGT”という絶妙なポジションにあると主張する。とはいえ、このコラボレーションは今回が初だ。それだけにそのフィーリングは謎に包まれているのも事実。 スペイン・バレンシアで初ドライブした印象をお伝えしよう。
REPORT◎野口 優(Masaru NOGUCHI)
見た目はV12搭載車とほぼ同じ。
アストンマーティンの伝統を今に受け継ぐ、DBシリーズ。その最新作「DB11」はV型12気筒ツインターボを搭載しているが、これに加え、メルセデスAMG製V型8気筒ツインターボユニットを積むモデルが追加された。かねてから公表されていたとはいえ、“アストンマーティンにAMG?”という組み合わせに違和感を覚えなかったかといえば、嘘になる。その真相を確かめようと、日本上陸を前にスペインはバレンシアにてそのステアリングを握る機会を得たのでご報告しよう。
元来、DBシリーズというのは、“GT=グランドツアラー”というコンセプトで造られるアストンマーティンの代名詞的存在だ。エレガントなボディを纏い、優雅にドライブする2+2シーターモデルとして受け継がれてきた。それがこのV8に関しては、そのコンセプトを“スポーツGT”として位置づけし、同社にとって新しいキャラクターを与えているのが特徴だ。つまり、V12に対してV8は“活発な走り”をウリにしている。その核となるのが、AMG製V8ツインターボエンジン。排気量は4ℓ、最高出力は510ps、最大トルクも675Nmと、V12仕様の5.2ℓ、608ps&700Nmと比較すると見劣りするが、しかし、決してそう思わせない”狙い”を設けているのがアストンマーティンの巧みなところだろう。
AMG製V8ツインターボは、単なる移植ではない。
このV8ツインターボユニット、一見するとAMG GT Sに搭載されるものと同一だと思われがちだが、DB11に積まれるエンジンは、ウエットサンプ仕様。GT Sはドライサンプ式だから、どちらかといえばC63 Sのエンジンに近い。実際、C63 Sのスペックには、510ps&700Nmという数値が並ぶ。DB11 V8と比較するとトルクこそ劣るものの、パワーは同じだ。とはいえ、こんな数値は、あくまでも基準的に受け止めるべきで、アストンマーティンは、何もこのV8エンジンをそのまま移植したわけではない。吸排気系を見直し、ECUのソフトウェアも書き換え、スロットルレスポンスも含めてすべてのプログラミングを変更している。しかも同じウエットサンプでも、そのシステム自体を造り直して低重心化できるようスリム化を図った。
もちろん、V8エンジンを搭載したことによる軽量化に伴い、全体のバランスを見直す必要があることからシャシー関連も改良している。ダンパーとスプリング、サスペンションブッシュにジオメトリー、そしてアンチロールバーまで変更し、その上で電子制御による足まわりのセッティングを最適化するためにESPも含めて専用のソフトウェアを開発した。
歴代のDBシリーズに対する敬意を感じる。
バレンシアで試乗したコースは、一般道から高速道路、そしてワインディングまで含めて約400kmを走行した。そこで得られた印象は、まず“これで十分”ということ。V12が見せた、息の長い加速こそ薄れてはいるものの、V8に置き換えられたからといって大きな不満など見られなかった。かえって一般道ではノーズが軽くなったことで軽快に走る。こういった街中ではノーマルモードで走行することがほとんどだから、V8のほうが扱いも楽だ。私の経験では、V12ならこうは行かない。V12も乗りにくいとは思わないが、一度でもV8と比べてしまうと、その軽快感からくる扱いやすさこそ重要だろう、と思ってしまう。それにスタートダッシュもV8の方が好印象。ターボ効果もあって実に好ましい。
今度はハイウエイに乗り高速域を試してみると、さすがにここはV12を望みたくなる——と思いきや、このV8ツインターボは、アストンマーティンの開発陣が独自の味付けをしたとあって、AMG GT Sのような凶暴さは影を潜め、DBの名に恥じないGTらしい心地よい加速を見せた。しかも前後重量バランスが49対51に仕上げられているから、200km/hを超える領域でも乗り味は快適だ。これはノーマルモードでもスポーツモードでも同じ。わずかにスポーツモードの方が引き締まった印象だが、それでも不快感など微塵もない。さすが、開発陣がこのV8モデルを製作するにあたり、ZF製8速オートマチック・トランスミッションをトランスアクスル式に変更しただけのことはある。さらにいうなら、よくぞこのバランスに仕上げたと思わせるほど、GTを貫いている。本来ならリヤ寄りの荷重にしてトラクション性能を引き出すことも可能だったはず。そこを敢えてこの前後バランスに仕上げたというのだから歴代のDBシリーズに対する敬意を感じずにはいられなかった。
スポーツ・プラス・モードは激変!
そしてワインディング。ここまで好印象が続くと期待が増しそうだが、しかし、DBシリーズのコンセプトは、基本“GT”である。峠道など全開で攻められるようには造られてはいない、はず。それでも開発陣がこのV8に与えた使命が“スポーツGT”であることを意識すれば、“もしかしたら”という想像も膨らむ。即ち、スポーツとGTの双方を狙った意味を試すのは、もはやこういったワインディングでこそ真価を発揮する。
そう思いながら“それなり”のペースで走り始めると、スポーツカーで得られるような高揚感や、曲がることに対する快感などは、それほどでもないという印象。ターンインするにも機敏に動くわけでもないし、コーナーを脱出するにも俊敏に立ち上がるわけでもない。それにGTというコンセプトから比較的長いホイールベースに設定されているため、例えハードに攻めてもクイックに曲がるようなこともなかった。しかし……。これはスポーツモードまでの話だ。
今度はスポーツ・プラス・モードに変更すると、全体的に引き締まり具合が増し、ハンドリングの印象が大幅に変化した。センター付近からして重めの設定になり、路面との対話がリアルに伝わってくる。スロットルレスポンスも鋭い! 機敏かつ俊敏な反応が得られるようになった。パドルによるシフトもオートマチック・トランスミッションとは思えないほど素早い。さすがにDCTのようには行かないが、それでも遅くはない。それに中間トルクのパンチ力も褒めるに値するほど図太い印象だ。だからコーナー出口では、一瞬ESPが介入するところまで攻めることができた。V12ならここまで追い込むことは不可能。そして、ここまで軽快には飛ばせないのは事実である。
”GT以上スポーツ未満”という絶妙な狙い。
それでもリアルスポーツカー的かというと、それは違う。かといってGTに終始するかというと、それも違う。つまり、コンセプト通り、これこそ“スポーツGT”なのだと納得してしまった。さらに分かりやすく言うならば、“GT以上、スポーツ未満”である。実に絶妙なところを狙ってきた1台だ。もし、本当のGTが欲しいならV12のDB11を選ぶべきで、もっとスポーツ性能を望むならヴァンキッシュS、もしくはV12&V8ヴァンテージを選択すべきだと、アストンマーティンは言いたいのだろう。だから、これこそちょうど良い“アストンマーティン”なのかもしれない。
そして最後に。敢えていうならライバルは、フェラーリGTC4ルッソやベントレー・コンチネンタルGT(いずれもV12とV8をラインアップする)あたりだが、これまで私が得た経験から言わせてもらうと、アストンマーティン自体、この両社の中間的な“性格”であることを付け加えたい。要するに、フェラーリはGTでもスポーツ志向が強く、ベントレーはスポーツを強調してもGTに終始する。ということを思うと、アストンマーティンDB11のV8が如何に絶妙なところを狙っているかが分かるはずだ。メルセデスAMG製のパワーユニットを手に入れたことは、確かに正解だと思う。
SPECIFICATIONS
アストンマーティンDB11(V8)
■ボディサイズ:全長4750×全幅1950×全高1290㎜ ホイールベース:2805㎜ ■車両重量:1705㎏ 前後重量配分:49/51 ■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 総排気量:3982cc ボア×ストローク:83×92㎜ 圧縮比:10.5 最高出力:375kW(510ps)/6000rpm 最大トルク:675Nm/2000〜5000rpm ■トランスミッション:8速AT ■駆動方式:RWD ■サスペンション形式:Fダブルウイッシュボーン Rマルチリンク ■ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ(リム幅):F255/40ZR20(9J) R295/35ZR20(11J) ■環境性能(EU複合) CO2排出量:230g/km 燃料消費量:9.9ℓ/100km
問い合わせ/アストンマーティン・ジャパン・リミテッド ☎︎03-5797-7281
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