スバルファンだからこそ伝えたいWRX STI大奮闘の舞台裏【ニュルブルクリンク24時間レース2018】
- 2018/05/19
- HYPER REV編集部 雪岡直樹
2018年のニュルブルクリンク24時間レースが終わりました。スバル/STIチームは既報の通り、SP3Tクラスでクラス優勝という結果を勝ち得ました。昨年の突然の出火からのリタイアという衝撃的な出来事から、今年は見事クラス優勝へと返り咲いたことで、スバル/STIチームとともに、スバルファンの笑顔も取り戻すことができました。本当に良かったと思います。
ただ、その戦い方と結果に対し、果たして現状の「歓喜の優勝」のままで良いのでしょうか。来年以降のスバル/STIチームのニュルブルクリンク24時間レースへのチャレンジで、もっと強い戦いを期待するひとりのスバルファンとしても、いまいちど冷静に分析してみたいと思います。
2018年のニュルブルクリンク24時間レースは、総合62位SP3Tクラス1位と言う結果でした。目標としていたクラス優勝を果たしています。
しかし総合順位はリタイアを除けば過去最低の順位となりました。本格的にスバル/STIとして参加した2008年からのデータを振り返ってみます。
2008年 総合57位 SP6 クラス5位
2009年 総合33位 SP3Tクラス5位
2010年 総合24位 SP3Tクラス4位
2011年 総合21位 SP3Tクラス1位
2012年 総合28位 SP3Tクラス1位
2013年 総合26位 SP3Tクラス2位
2014年 総合32位 SP3Tクラス4位
2015年 総合18位 SP3Tクラス1位
2016年 総合20位 SP3Tクラス1位
2017年 リタイア リタイア
2018年 総合62位 SP3Tクラス1位
2014年のニュル24時間レースから、現行のVAB型WRX STIをベースとしたモデルが投入されました。エンジンは戦うスバルの象徴とも言えるEJ20型のエンジンです。EJ20という型式の通り、排気量は2000ccのままです。WRCで幾度の勝利をもたらし、今なお進化し、国内ではSUPER GTでBRZに搭載され、最小排気量ながら大排気量エンジンと同等に戦うスバル唯一無二の戦うパワーユニットを搭載しています。
ボディは当初よりワイドフェンダーや大型リアスポイラーなどを装着し、VAB型WRX STIの面影はあるものの、それ以前のGRB型やGVB型のWRX STIに比べ、だいぶレースカー然としたスタイルになっています。2015年モデルからは左ハンドル仕様へと変わりました。ボディは大型化していますが、カーボンを多用し徹底した軽量化が施されています。それにより安定した順位を得てきたことは結果が証明しています。
しかしライバルのマシンに対して速すぎたのか不明ですが、2016年にはレギュレーション変更で吸気リストラクターの径を小さくされ、パワーダウンしています。それでも軽量化やAWDの特性を活かした結果、SP3Tクラス2連覇を達成しました。多少のハンデも技術と性能、チームの力で連覇を達成したのです。
2017年は3連覇を目指してさらなるパワーアップや軽量化、各部の最適化を徹底したことで上位を安定して走っていましたが、他車に衝突されボディにダメージを受けるも、必死の修復によりガムテープまみれになりながらも復活しましたが、突然のエンジンからの出火で初のリタイアを喫してしまいました。
これら10年の戦いを経て、2018年のニュルブルクリンク24時間レースを再考してみましょう。
まず予選1回目のナイトセッションは予選1位で無事に切り抜けました。予選2回目、わずか3周でパワーステアリングのオイルリークが発生してタイムを出せないまま終わってしまいます。決勝ではスタートして2時間後に再びパワーステアリング系のトラブルで長いピットインを喫してしまいます。
辰己総監督によれば、「(同じパワーステアリング系のトラブルだが)前日起きたトラブルとは違う部分で、いざ2時間走ってトラブルが出てしまった。原因は不明」とのことでした。
さらに6時間後には排気音量規制を指摘されてピットイン。マフラーを交換してこの時はほとんどロスなくコースに復帰しています。しかしこの排気音量規制は4月に行われたQFレースの時にも指摘されていた部分です。もちろん決勝レースに向けての車検時にはちゃんと対策が施され、無事に車検を通過していただけに、レース途中で排気音量規制を指摘されるのはチームのみんな誰もが不思議に感じていた模様でした。EJ20が奏でる排気音は他車に比べてそんなに大きいとはコースサイドにいても感じられ無い、むしろ他車の方が音は大きいだろうと思える車種もあったように感じられました。
一方、夜半から降り始めた雨でコースはウェットコンディションとなり、WRX STIはスバル・AWDの真骨頂を発揮してくれました。安定した走りで、夜間の雨という最悪の状況でも、GT3マシンを上回るタイムで走り抜けました。
しかしそう簡単に事は進まないのがニュルブルクリンク24時間レースなのでしょう。ゴールまで3時間を切ろうというタイミングで濃霧により赤旗中断となります。一向に晴れる気配が見えないため、ひょっとしたらこのままレース終了か? といった、どこか緊張感が切れたような時間が現場を支配しました。また、この雨がWRX STIに大きな影響を及ぼしているとは誰も想像していませんでした。
約2時間弱の中断を経て、再度全車がグリッドに整列して再スタートが切られました。WRX STIも順調に走り始めますが、残り1時間を切ったところで突然のエンジントラブルが発生しました。およそ1周25kmにもおよぶコースの最初の部分、グランプリコースをショートカットしてピットに帰ってこられる部分でストップしてしまったのです。
最悪な状況でもこのストップした場所が幸いし、WRX STIはピットロードに姿を表しました。もしノルドシュライフェに出て、ピットまで10km地点といったエリアで止まってしまっていたら……これまでの苦労が全て無になっていたことでしょう。
運はまだ味方していました。
迅速なエンジニアのトラブルシューティングとメカニックの決死の修復により、残り20分前にコース復帰します。グランプリコースでチェックすると、残り時間は15分を切りました。WRX STIは果敢に25kmのコースに挑んでいきました。チェッカーが振られる少し前にホームストレートを通過したので、もう1周まわり実質2周回ってのチェッカーフラッグを受けて、クラス優勝を手にしました。
ここからは少し厳しい現実をあえて書こうと思います。
今回の結果はクラス優勝ですが、ライバルの存在はどうだったのでしょう。
今年のSP3Tクラスは全4台がエントリーしていました。(ちなみにクラスエントリーは最小で1台のクラスから最大で29台のクラスとばらつきが激しくあります)
1回目の予選でWRX STIに次ぐタイムを出していたAUDI TTは2回目の予選で大クラッシュ。決勝には出走できませんでした。ライバルは94号車フォルクスワーゲンゴルフ7 TCR、92号車オペルアストラの2台となりました。一時はスバルのピットインで順位を奪われますが、快走しているうちに順位を奪い返します。
それもそのはずです。2位になったゴルフ7 TCRはファステストラップが9:52.498。一方のWRX STIは9:10.316。もともと9分切りを目指す目標で作られたWRX STIの敵ではありません。
今年のスバルは自らが敵である、ということは明白でした。
予選・決勝と2度起きてしまったパワーステアリング系のトラブルは、パーツの問題なのか装着する際の問題なのか原因を究明しなくてはいけないでしょう。エンジンストップも電気系トラブルが原因と言われています。これは赤旗中断中に雨ざらしになったマシンに水が溜まり、電気系のトラブルを引き起こしたのではないかとされています。もし赤旗中断で、ピットレーンに待機させなければならなかったマシンにカバーをしっかり掛けていれば防げたトラブルかもしれません。逆を言えば、雨が溜まり電気系のトラブルを引き起こす原因になりうるという新たな知見を得ることができたとも言えます。
来年のマシンにはぜひとも対処してほしいところです。
辰己総監督は「何年経っても何回来ても、毎回新たな発見がある」とおっしゃいます。スバルは市販車ベースのマシンでニュルブルクリンク24時間レースに戦いを挑んでいます。耐久性や操作性、信頼性など市販車のベースの良さがあってのニュルブルクリンク24時間レースです。『ユーザーが乗っているWRX STIはやっぱりすごいんだぞ。と思ってほしいからこそスペシャルなマシンにしたくない』との思いがあると聞きました。
市販のWRXならば、どんなに雨に降られようが台風であろうがエンジンが止まるようなトラブルは起きることはまずありません。ニュル参戦マシンも、2時間弱雨に振られたことでエンジンが止まるようなことが無いようなレースマシン作りを行っていただきたいと切に願うばかりです。
スバルユーザーに夢と希望、そして心を揺さぶる感動を与えてえくれるニュルブルクリンク24時間レース。過酷な状況に挑むWRX STIを見ると、その姿はスバルファンならずとも純粋に応援したくなります。現地に行く応援ツアーのファンの皆様や中継を見ているファンが、24時間のなかで多少冷や冷やするシーンがあっても良いかもしれませんが、10回以上参戦し続けているスバル/STIチームらしく、ライバルが消えようとも、強い、盤石のレースを見ていたいと思えた今年のニュルブルクリンク24時間レースでした。
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