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寝たきりの人が動けた! 漕ぐクルマ椅子「コギー」の秘密に迫る 【モーターファン 自転車部】

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「足で漕ぐ」クルマ椅子、それがTESS(テス)が開発したCOGY(コギー)だ。足の動かせない人が使うのがクルマ椅子だが、それだけが常識ではないことをコギーは教えてくれる。病床から起きられなかった人が、このコギーを使うことによって自分の意思で移動できるようになる。そんな驚きの光景がここにはある。そんなコギーについて紹介しよう。
【モーターファン 自転車部】では自転車と名のつくものとともに、自分で漕ぐものに注目しモビリティ再発見として紹介して行く。車だけじゃないモビリティの世界、その楽しさをもっと広く見てみよう。

原始反射による本能が足を動かす

このクルマ椅子は、歩けない人が移動するためのものだという。
ではなぜ、動かない足で漕げるのか? 
人は生まれた時に脳の司令とは別に、本能として行なえる反応をいくつか備えている。「原始反射」と呼ばれるこの動作のなかに、「歩行反射」というものがある。新生児から数ヶ月で消えるといわれる反射だが、足の裏が床に触れ、もう一方の足を前に移動させることによって反射的に次の足を出して歩行しようとする反応だ。

この反応は司令として出されるものではなく、本能として備えたもの。解剖学の世界では、古くから知られていたものだった。おそらく人間の2足歩行という特別な動作実行の上で、サブシステムとして必要不可欠なメカニズムなのだろう。

この「歩行反射」という能力の発見は、当初、医療に活かすべく研究が始まったが、やがてリハビリでの可能性にも注目された。そこで生まれたのが、足漕ぎ式クルマ椅子「コギー」だ。コギーのペダルは、500ccのペットボトル1本分程度のわずかな力で動く。その動きは反対側の足を置くペダルに刺激として伝わり、次のペダルを押す動作が生まれるというものだ。

クルマ椅子の前に足を固定して漕ぐペダル。大きな前輪を駆動する。向きを変えるのは小さな後輪1つ。基本構成はこれだけ、このクルマ椅子は手で動かすのではなく、足で漕ぐ。

零戦の操舵システムと同じ構造!?

基本的なレイアウトは、大きな前輪2輪とハンドルを兼ねた後輪1輪の3輪スタイル。転倒防止に前と後ろ左右にキャスターがつく。ペダルの動力は、右前輪に伝わり推進力となる。片輪だけに伝わるのは、操舵用の後輪を切ったときの小回り性を高めるためで、右輪駆動により左回りが得意だ。しかし、子供用(SSサイズ) だけは、デファレンシャルギヤが採用され、前輪の両輪を駆動する。子供は感覚的にどちらにも動きたいので、できるだけ自由に動けるようにしたという。

左上)わずかな力で動くペダル。人間が本能として持つ歩行反射によって、反対の足を前に出して進む。 右上)ブレーキとハンドル。左右に回すことで操舵する。 左下)後輪は進む方向を定める。前輪を軸にぐるっと小回りを効かせることができる。

そして、向きを変える後輪はレバー式のハンドルを切ることで、繋がれたワイヤの力が後輪を動かす。この構造は零戦の操舵システムと同様とのこと。後輪で向気を決めることで、自転できるほどの小回りをすると同時に、片輪駆動であってもまっすぐ移動できる要ともなっている。

本当に動かせるのか? 

コギーのホームページで動画が紹介されているが、ここには障害や事故で下半身が動かなくなった人たちのコギーに初めて乗る、そのトライアルの様子が収録されている。参加しているのは事故から3年歩けていない人や、脳性麻痺で生まれてから歩いたことがない人など。しかし、コギーに乗り何度かペダルを踏み込んでみることで、クルマ椅子を動かすことができるようになる。

この記事を書くにあたり開発・製造を手がけたテスの代表取締役の鈴木堅之(すずきけんじ)さんに取材をさせていただき、ホームページに掲載されていない動画も多く拝見することができた。
その中で強く感じたのは、利用者の顔色の変化だ。乗ってみる前は、できないんじゃないか、といういぶかしがる顔。それが、ペダルを踏み出せた途端に、満面の笑顔に変わる。

コギーのホームページでは、足を動かせなかった人が実際に乗ってみる動画も掲載される。ここに紹介されている方たちは皆、当初は足を動かすことができなかったが、コギーを使うことによって自らの力で動けるようになった。

コギーのホームページ

課題は「自分にはできない」と思ってしまうことの払拭

画期的とも言えるクルマ椅子なのだが、課題となるのは認知度の低さだという。また、「本能で動かせる」ということに積極的にトライしてもらえない点も大きい。
鈴木さんは言う。
「私たちはこれをリハビリの道具として開発したつもりだったのですが、実はこれを使うことに大きな意義があったのです」

施設で寝たきりで起きることもできなかった高齢のおばあさんは、コギーと出会いリハビリをすることで、病室内をクルマ椅子で移動できるようになった。洗顔など身の回りのことのいくつかは自分でできるようになり、そして驚くべきことに、施設での重い介助暮らしの必要がなくなり、自宅に戻ることができたという。
自らの意志によって移動するということは、生活する上で極めて重要なことだ。しかしそれ以上に、自らの意思で動くことが、人にとってどれだけの活力を与えてくれるのか、その尊さを教えてもらうことができた。
とりわけ、寝たきりになってしまう家族がいる家庭にとって、歩くことは諦められてしまうことが多い。しかし、無理だと決めつけずにトライしてみることで、開ける未来があるのだと実感した。

COGYホームページより

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