速度25km/hの自動運転ミニバス・GO!! そして、ホンダ・レジェンドのレベル3が「2020年度中」に発売される意味
- 2020/12/10
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牧野 茂雄
その一方で、いわゆる「自動運転」に向けた動きが日本でもあった。さきごろホンダは、2020年度中に発売する「レジェンド」にレベル3の自動運転機能であるトラフィックジャムパイロット(TJP)を搭載すると発表した。国土交通省は世界に先駆けてレベル3実用化への法整備を行ない、それに合わせるかのようにホンダは年度内(まるでお役所?)の発売を宣言した。
国交省と自動車業界の間には、暗黙の了解のように「お役所さんありがとう」を行動で示す慣習がある。その昔、スズキが「ツイン」を発売したのも、国交省の呼びかけでコミューター構想に参加しておきながら何も市販しないのは申し訳ないという理由があった。ホンダが「年度内」にレベル3機能を市販するのも、制度設計を迅速に行なってくれた国交省へのお礼だろうか。
それはさておき、レベル3は「自動運転システム作動中」にはすべての運転タスクをシステムが行なう。いわゆる「運転にかかわる監視、対応の主体」はシステムである。システムが運転している間ならドライバーはスマートフォンでゲームをやっていても構わない。ただし、レベル3は「システムが作動継続困難な場合は運転者が取って代わる」ことになっている。
ホンダのTJPは、その名の通りトラフィックジャム=交通渋滞のときに作動する。自動車専用道路の走行中(好天に限られる)に約30km/h未満になるとシステム運転(自動運転とはいいたくないのでこの表現に)に切り替えることが可能だ。ただし片側1車線の高速道路やサービスエリア、料金所、あるいは高速道路内に急カーブがある場合、システム運転は行なわれない
渋滞が解消され、車速が上がるとシステム運転機能は解除される。その手前でシステム側がドライバーに運転の引き継ぎを要請する。もし、ドライバーがこれに反応せず定められた行動を10秒以内に取らない場合はシステムが車両を停止させるそうだ。
国交省は2020年度内に日本の高速道路に「レベル3市販車」を走らせたいと考えてきた。だから法整備を急いだ。アメリカでも人間が運転操作を行なわない自律運行製品に関する米国国家規格協会(ANSI)と米国保険業者安全試験所(UL)の共同規格であるANSI/UL4600が発効した。これはレベル4の自動運転や無人で動く農業機械、工場のメンテナンスなどを行なうロボット、ドローンなどの無人航空機の安全性を評価するための指針である。
日本は一般公道上に自動運転車を走らせるための法整備を急いだ。いつもなら抵抗勢力となる警察庁も全面的に協力した。2019年12月に警察庁は、自動車運転中のスマホなど携帯電話の操作・閲覧について罰則を強化したが、2020年4月にそのなかからレベル3自動運転中について携帯電話使用禁止の適用を除外した。つまり、レベル3実用化に向けた法整備は「国家プロジェクト」としての結束力で行なわれた。となれば、どこか自動車メーカーが行動で示さないと……というのは筆者の邪推である。
車両運動の専門家に訊くと「せいぜい車速40km/hまでなら完全自動運転はできる」と言う。車両諸元の設定の仕方によっては40km/hもパーキングスピードである。要するに、後輪の横滑り角を考えなければならないような領域では自動運転はまだ無理、そんな領域には踏み込みたくないということだ。
そもそも、何のために自動運転が必要なのか。筆者は公共交通機関未整備の穴を安全性の犠牲なしで埋めることが第一の理由だと考える。第二は「認知判断能力と身体機能が衰えてもクルマに乗り続けたいと考える人を助ける」こと。前者の場合は低速でもいいから完全システム運転が望ましい。後者の場合は現在のADAS(高度運転支援システム)をさらに進めた先の、運転主体はドライバーという世界で構わない。ドライバーの突然の機能低下を検知するためのモニターシステムが必須だが、すでにこの分野の開発は進んでいる。
境町の例は、公共交通機関の密度が著しく希薄な地域に、何とか「日常の足」を確保したいという目的であり、これは非常に理にかなっている。近距離移動を安全にこなせる「運転代行ロボット」を雇う。ただし当面は必ず人を同乗させる。いずれは完全システム運転と遠隔操作による緊急事態対応ができるようになるだろう。
特定の企業のビジネスを後押しするつもりはないが、「ARMA」 の運用について境町から委託を受けているボードリーは、日常に起きるさまざまなことがらとその対応をまとめ、広く日本各地に展開できるオートノマス・ミニバス運用ノウハウを蓄積すべきだ。この手のシステムを必要としている地域は日本中あちこちにある。
ドイツで訊くと「アウトバーンの渋滞がかったるいから自動運転がほしい」「工事中エリアに差し掛かるときの車線合流(コンストラクション・ガイド)を自動にしてくれればありがたい」との答えが多い。そしてアメリカもヨーロッパも「クルマの運転はずっと続けたい」というニーズが非常に多い。これはADASの延長線上で可能な機能であり、システム任せにするにしても「限られた条件のなか」で構わない。
日本は歩行者、自転車、バイク、乗用車、トラック・バスがつねに混合交通のなかにいる。これは米国ではありえない。歩行者と自転車はクルマとは分離されている。欧州は日本と似たような状況だが、平均の人口密度が日本よりも低く交通の過密度も平均的に低い。その意味では、日本の自動車交通は条件が過酷だ。しかしこれは、歩行者と自転車にとって「厳しい」条件でもある。
日本独自の交通環境の中にどうテクノロジーを注いてゆくか。これは外国の例のコピーではできないし、外国の真似をする必要もない。日本人が、試行錯誤の中で手段を確立しなければならない。その意味で、茨城県境町の決断は良い意味での前例に思える。
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