スタートアップにPHEVは作れない。ではエンジンがないBEVならIT企業が作れるのか? | 電動化は自動車産業を変えるか・前編
- 2021/01/19
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牧野 茂雄
筆者は2006年7月にテスラ・ロードスターのプロトタイプが発表された時からずっと、テスラをウォッチしてきた。当初は2007年10月の納車開始予定だったが、実際の発売は2008年3月にずれ込んだ。ボディ骨格はロータス・エリーゼでありパーツも一部流用されていた。その上にCFRP製ボディシェルを載せていた。バッテリーは汎用型の18650を6831本搭載し、電動モーターは三相交流式で、これにマグナ・インターナショナル製の2速変速機を組み合わせていた。
モーターの制御は、最初の頃は他社からライセンス購入していたが、最終的にはライセンスによらない自社制御に切り替えた。ひとつの「ひな型」をベースに、自社の要件を入れ、特許を回避した制御を構築したようだ。駆動系開発では外部のエンジニアリング会社も使ったと関係者からは聞いている。そして、電池については2010年1月にパナソニックと提携した。この関係はいまでも続いいている。そして、パナソノックとの提携の4か月後にはトヨタと業務提携する。
テスラがファブレス(生産を他社に委託する製造業)企業にならずにすんだ最大の理由は、トヨタからNUMMI(ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング)を譲り受けたことだ。この工場はもともとGMのフレモント工場として開設され、その後にトヨタとGMの合弁工場となりNUMMIを名乗った。しかしGMの経営破綻でGM側の所有権が放棄され、トヨタは工場の設備ごとテスラに51億円で譲渡した。通常、年産30万台規模の工場を建設するには800〜1000億円ほどかかるが、テスラは格安で手に入れたことになる。
いっぽう、一時期世界中のメディアがもてはやした中国のBEVスタートアップ企業は、そのほとんどが姿を消した。残ったのはごく一部だ。合計10億ドル以上の赤字を出しながらもNIO(蔚来汽車)は持ち直し、Xiaopen(小鵬汽車)は広州汽車との提携できちんとしたBEVメーカーになったが、BMWと日産の元中国法人幹部が設立したBYTON(南京知行新能源汽車)は、中国版テスラともてはやされたものの量産開始前に経営が行き詰まり、しばらく事業停止していた。2021年になって日本のシャープを買収した鴻海(ホンハイ)と提携し2022年から量産を開始する道筋を得たが、実際に生産が始まるまでは何とも言えない。
上記3社を含めた合計7社ほどが残ったが、ほかに80社以上あった中国BEVスタートアップ企業はことごとく姿を消した。そもそも最初から「設計図とは言えないデジタル画像と壮大なプラン」だけしか持っていない企業が多く、仮に投資家から資金を集められたとしてもBEVの量産までには山あり谷ありだろうと思われる企業ばかりだった。結局、BEVスタートアップ企業への投資を推奨していた中国政府が見捨てたため、投資家からも見放された。
いま、BEVに興味を抱いているIT系企業は、もちろんこれらの実態がほとんどなかったスタートアップ企業とはまったく違う。アマゾン、グーグル、百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)といった有名企業が多い。資金は豊富だ。しかし、自動車を設計し、開発し、量産するという事業への参入には覚悟がいる。その話を次回に。
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