日産フーガ | 大排気量マルチシリンダーNAエンジンを搭載したFRセダンという、古き良きクルマの味を新車で堪能する最後のチャンス モデル末期の日産フーガ370GTタイプSは“買い”か“待ち”か?まごうことなき日産のスポーツセダン。絶滅が危惧される今こそ“買い”だ!
- 2021/07/01
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遠藤正賢
どれほど技術が進化しても、法規や市場環境の変化など様々な要因が影響するため、最新のモデルが最良とは限らないのが、クルマの面白い所。さりとてモデル末期のクルマは、熟成が進んでいるとはいえ、その後現れる新型車で劇的に進化する可能性を考慮すると、実際に購入するのはなかなか勇気がいる。
そこで、近々の販売終了またはフルモデルチェンジが確実視されている、モデル末期の車種をピックアップ。その車種がいま“買い”か“待ち”かを検証する。
今回採り上げるのは、日産の高級ミドルラージFRセダン「フーガ」のスポーティグレード「370GTタイプS」。日産本社のある横浜市内から成田空港までの往復約300kmを、高速道路を中心として試乗した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、日産自動車
セドリック/グロリアの後継モデルとして初代フーガが誕生したのは2004年10月。その5年後、2009年11月にフルモデルチェンジして現行モデルの二代目にスイッチしたが、11年半が経過した今なお世代交代の時を迎えていない。それどころか、主力市場の北米では2019年モデルを最後としてすでに販売を終了している。従って、日本でもいつ販売を終了してもおかしくない状況だ。
そんな二代目フーガに筆者が試乗するのは、「ハイブリッド」が追加された2010年末以来だが、およそ10年ぶりに対面すると、今回のテスト車両が専用バンパーを装着するタイプSということを差し引いてもなお、「随分厳つくなったなあ」とため息をつかずにはいられない。
2015年2月のビッグマイナーチェンジで前後のバンパー・グリルのみならず灯火類やトランクリッドまで大幅に変更されたことで、全体的に厚みが増して押し出しは強くなったものの、デビュー当初の流麗なプロポーションが少なからず損なわれてしまい、悪い意味で「親父セダン」らしくなったことに一抹の寂しさを覚える。
そして運転席のドアを開けると、見るからに背もたれの小さいフロントシートが目に入り、実際に座るとやはり小さ過ぎることに、再び大きなため息を漏らしてしまう。身長176cm・座高90cmの筆者が座ると、肩甲骨が背もたれから完全にはみ出るのだ。そのうえ座面も小ぶりで、太股から膝裏にかけてのフィット感に乏しいことにも失望を禁じ得ない。
では後席はというと、頭上こそ全く余裕はないものの足元の空間は広く、シートサイズも申し分なし。また、このフーガをベースとして、ホイールベースを150mm延長したシーマのように頭頂部がルーフライニングに当たることも、逆にホイールベースを50mm、全幅を25mm、全高を60mm縮小したスカイラインのように身体を捻る姿勢を強要されることもない。日産製FRセダンの現行モデルでは最も快適な後席と言えるだろう。
9インチのゴルフバッグ4個を積載できるというトランクルームは絶対的な容積こそ大きいものの、サスペンションやホイールハウスなどの凹凸が多く、奥がすぼまった形状になっているうえ、後席はアームレストしか倒れないため、背の高いものや面積の広いものを運ぶのは不得意。アウトドアなどのレジャー用途には不向きなようだ。
気を取り直して運転席に戻ると、ナビ画面の小ささとスイッチ類の多さに設計年次の古さを感じるものの、実用上は問題なし。見栄えは良いものの直感的に操作しづらいうえ画面の光が常に目障りな昨今の大型タッチパネル式ディスプレイよりも、むしろ好感が持てるというものだ。
いざエンジンを始動し、日産本社の地下駐車場を出ようとステアリングを切ると、ズシリと重い操舵感に少なからず驚かされる。それだけではない。アクセルもブレーキも、また低速域の乗り心地も、いわゆる「親父セダン」から想像される、むやみやたらと軽い操作感、当たりは柔らかいがフワフワと落ち着かない挙動とは真逆の重厚なタッチだ。その一方で過剰なクイックさはなく、走る・曲がる・止まるのいずれもがリニアで扱いやすくセットアップされている。
そして公道へ出て首都高速道路に乗ると、その走る・曲がる・止まるがどれも余裕に満ちていることに気付かされる。
吸気バルブの作動角とリフト量を制御する「VVEL」を採用し333psと363Nmを発するVQ37VHR型3.7L V6ガソリンエンジンと7速ATは、アクセル操作に即応して必要なだけのトルクを供給してくれる。さらに深く踏み込めば、レブリミット7500rpmまで吹け上がるのはまるで一瞬の出来事だ。
なお、フーガにはSNOW・ECO・STANDARD・SPORTの4種類からなる「ドライブモードセレクター」が全車標準装備されているが、SNOWとECOはダル、SPORTは敏感に過ぎるため、氷雪路やワインディングを走らない限りは常時STANDARDが良いだろう。
また、245/40R20 95Wタイヤに合わせた「スポーツチューンドサスペンション」に4WAS(4輪アクティブステア)も加えられたタイプS専用の足回りは、全長5m弱・車重1800kg弱の巨体をスポーツカーさながらのコーナリングマシンに変貌させている。絶対的なグリップ性能が高く、ロールの量・スピードとも程良く抑えられており、かつ直進性も申し分なし。そのため高速域でも安心感は絶大だ。
そして、フロント4ポット・リヤ2ポットのアルミ製対向ピストンキャリパーを備えた、これまたタイプS専用の高性能ブレーキシステムは、絶対的な制動力のみならずコントロール性も高い。今回のテストでは下りのワインディングなどブレーキに過酷な道を長時間走ってはいないものの、7速ATのマニュアルモードを駆使してエンジンブレーキを適切に使用すれば、短時間でフェードすることはないと思われる。
しかし、それらの代償というべきか、荒れた路面でのロードノイズは大きく、突き上げもピークこそ抑えられているものの明確に重い。そして街乗り燃費は劣悪だ。アップダウンの激しい曲がりくねった道が続く元町商店街から根岸競馬場付近までの市街地を走行した際は、WLTC市街地モード燃費5.4km/Lをさらに下回る4.4km/Lを記録した。
一方、みなとみらい~成田空港間の高速道路では、WLTC高速道路モード燃費11.1km/Lを上回る11.8km/Lをマーク。走り方や走行ステージによって燃費が大きく左右される傾向が強いのは間違いないだろう。
そう、これはまごうことなき、日産のスポーツセダンだ。親父臭く古くさい内外装の仕立てに筆者はすっかり先入観を植え付けられてしまっていたが、その走りは「親父セダン」の対極に位置する。歴代のGT-RやフェアレディZ、スカイライン、あるいは初代および二代目プリメーラなどの、良くも悪くも男臭い日産製スポーツモデルと共通の世界がそこにある。
さて、6月12日付けの日本経済新聞で、スカイラインに加えフーガとシーマを含むセダンの新型車開発中止が主要取引先に通達されたと報じられたが、同月15日のノートオーラ発表会で日産の星野朝子副社長は「先週末に日本経済新聞でスカイライン開発中止と、日産の象徴、開発に幕というような記事が報道されたが、そのような意思決定をした事実は一切ない。日産自動車は決してスカイラインを諦めない」とコメントしている。
だが、このコメントを深読みすると、スカイラインの新型が開発されているという事実もなく、フーガやシーマ、その他セダンの開発中止はすでに決定されていると解釈することもできる。いやむしろ、日産製セダンを日本のユーザーが新車で購入できる期間は残り短い、と解釈するのが自然だ。
「モデル末期の日産フーガ370GTタイプSは“買い”か“待ち”か?」、この問いに対する答えは無論“買い”だ。インターフェイスの設計の古さとフロントシートの小ささ、燃費の悪さこそ目に付くものの、それらは視力が良く、体格が小柄で、経済的に余裕がある人には、致命的な欠点とはならないだろう。
また、日産の動向以前に、大排気量マルチシリンダーNAエンジンを搭載したFRセダンという存在自体が、全世界的に絶滅危惧種となっている。古き良きクルマの味を新車で堪能するなら今をおいて他にない。
■日産フーガ370GTタイプS(FR)
全長×全幅×全高:4980×1845×1500mm
ホイールベース:2900mm
車両重量:1770kg
エンジン形式:V型6気筒DOHC
総排気量:3696cc
最高出力:245kW(333ps)/7000rpm
最大トルク:363Nm/5200rpm
トランスミッション:7速AT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:245/40R20 95W
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:8.7km/L
市街地モード燃費:5.4km/L
郊外モード燃費:9.4km/L
高速道路モード燃費:11.1km/L
車両価格:595万5400円
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