ネッソのデザインから見る、ヒュンダイの思い 2019年最も売れた燃料電池車ヒュンダイ・ネッソに乗ってみた
- 2020/11/01
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CAR STYLING編集部 松永 大演
ヒュンダイの乗用車販売部門がはるか以前に日本から撤退してしまったことで、韓国のブランド、ヒュンダイは隣の国であるにもかかわらず遠い存在となっている。しかし、実は日本に驚きの車が存在していた。それが、2018年のCES (ラスベガス /1月)で発表された燃料電池車のNEXO =ネッソだ。しかも、希望すれば誰でもが利用できるという、その希少車に試乗してみた。(撮影:福永 貴夫 / 松永大演)
Anyca(エニカ)で誰でも借りられる希少な燃料電池車(FCV)
今回その機会を得たのは、Anyca=エニカというカーシェアリングサービスに、ヒュンダイがネッソを登録していたことによるものだ。このエニカとは、個人が自分の車を登録して、その車を借りることができるという、実にユニークなシェアリングサービスだ。通常のレンタカーでもシェアリングでも、基本は車の大きさでクラス分けがなされ、料金が決まるのみ。実際にはカテゴリーを希望するだけで、車種の指名はできない。
しかしこのエニカは、この車が借りたいという希望に応えてくれるもの。車種として新型車はもちろんだが、様々な輸入車や旧車、クラシックカーまで揃っている。当然、個人所有となるので、貸し出せる場所が特定されるが、その逆をいえば自分の住んでいる近所からも探すことができる。また旅行先で、好みの車を選んで借りるということもできる。
現在では、企業や一部の自動車ディーラーなども参加している。企業にとっては稼働しない週末に利用してもらうこともできるし、自動車ディーラーであれば、新型車のより深いアピールも可能となる。
実際の予約から借り受けまではスマホのアプリによって行なえるので、アプリをダウンロードして登録さえしてしまえば、予約からカードによる支払いまで手軽なのも魅力だ。また、オーナー(貸主)とのチャットによって、事前の受取り場所の確認もできるし、使用中にわからないことは確認することもできる。
トヨタ・ミライ、ホンダ・クラリティFUEL CELLより大きな水素タンクを装備
そして今回の注目のモデルがヒュンダイ・ネッソ。FCV=燃料電池車ということになるが、その基本は電気自動車。通常はバッテリーにためた電気で動くものだが、FCVは水素と空気の反応によって発生した電気で電動モーターを動かす。圧縮水素タンクは3本で、トータル156.6ℓ。トヨタ・ミライが122.4ℓ (2本)、ホンダ・クラリティFUEL CELLが141ℓ(2本)全車使用圧力は70MPaとなる。メーカー公称による一充填走行距離は、ネッソが約820km、ミライが約650km、クラリティFUEL CELLが約750kmとなっている。
ミライは割と使うチャンスがあったことから、経験的にいうと高速道路も含めて普通に走っても安心な距離は450km程度といったところ。まだ距離は伸ばせせるが、現在、都内でも水素ステーションの数が少なかったり、営業時間の制限もあることから、それくらい走ったところで東京に戻っていれば不安がないというイメージだ。
そのため、御殿場など1泊の取材に追随する足としては、無給で東京に戻るのはちょっとアドベンチャーな気持ちにさせられることもある。名古屋取材であれば、現地の水素ステーションを必ず確認して、予約しておく必要がある。その観点からすれば、2割増し以上のネッソのタンクは、大変魅力的だ。
シートポジションに関しても大きく異なる。ミライはセダンスタイルではあるが、フロアとアイポイントは高く、乗り込むとSUVのような見え方になる。ネッソはもっと高いが、最初からSUVと宣言しているように、極めて見晴らしがいい。そしてクラリティは、そこから比べるとまるでスポーツカーのように低い。
ここにパッケージの考え方の違いが出ており、ミライはパワーコントロールユニットと駆動モーターをボンネットに。FCスタックなどの制御ユニットをフロント床下に、水素タンク(大)をリヤシート下に配置。その背後に駆動用バッテリー、水素タンク(小)をあしらうという、床下を均一に利用する考え方。
クラリティは、FCスタックを含めたパワートレーンをボンネットに配置し、駆動用バッテリーを運転席下、水素タンク(小)をリヤシート下、水素タンク(大)をリヤシート背後に配置する、重心を下げる考え方。
そしてネッソは、FCシステムをフロントに、水素タンク(小)を2つリヤシート下に、駆動用バッテリーをリヤサスペンション上に、水素タンク(大)を荷室下に配置。SUVであるために居住空間は広いが、もっと全高の低い車種でも使えそうな、汎用性の高いパッケージに見える。
3車で異なったFCVに対する思い 流れる水から生まれる形
デザインについては、FCVというクルマは未来をその形で表現するべきという、重い使命を持たされている。当然、EVということで、内燃機関とは異なるパッケージも表現したいという、その苦心の跡がミライにもクラリティにも見えるように思う。
ミライはデザインテーマが「知恵をカタチに」ということで、社会的存在としてもその機能を示す造形を強く意識しているという。また、ボディサイドの造形としてはティアドロップ型の水をイメージさせるものとなっている。
クラリティのデザインテーマは“Bold & Aero”ということで、堂々とした存在感と空力に裏付けられた先進性をキーワードとしている。新しい技術を象徴するような、斬新でユニークといったことはもはや必要なく、究極の普遍性という狙いを持ってデザイン開発された。
そしてネッソのデザインテーマとなっているのは、河川や海の丸い石とのこと。水流や摩耗によって、硬い石の角が削られ滑らかになっていくダイナミズムをボディ造形として表現したもの。FCVという、水を生み出す動力源にふさわしいアイデアともいえる。
通常は空気の流れを形にするということはよく行なわれるが、水の流れというのは奇抜でもある。エアフローとウォーターフローの違いは、流体の密度感とともに周囲の圧の強さに現れているように思う。空気以上に圧の高い部分、あるいは流れの速い部分の風化が顕著な形と見ることができる。さらに流れに抗する、あるいは抵抗を低減するための造形として、より前傾するクラウチングスタイルや魚に習ったような後方に向けて絞りこむ造形も特徴となる。
これらの結果として、基本骨格がより明確になる効果があるようだ。その周囲が削ぎ落とされるが、流水という作用によってアスリートのシェイプアップをイメージ能登は異なる自然の摂理で生まれた形として、非常にスタティック(静的)な佇まいとなっていることも魅力だ。
ボディカラーも、アースカラーと呼ばれる自然由来のカラーを意識し、ホワイトクリーム、コクーンシルバー、カッパーメタリック(ブラウン)、チタニウムグレー、ダスクブルーなどが用意される。
2019年の販売台数はFCV中でトップの実力
インテリアで印象的なのは、ブリッジタイプのセンターコンソールだ。センターラスターとセンターコンソールを一体化したもので、ハンドリーチの近さと面積の大きさが特徴となる。操作系パネルとして縦方向の長さが取れることから、スイッチ一つ一つを大きくすることができる。
メーターパネルはワイドな液晶パネルを2つ装備。運転席前のメータークラスターは7インチ、センターのマルチメディアスクリーンは12.3インチ仕様を採用。このモニターのコンビによって、およそ軽く両手を広げたほどの幅がカラーディスプレイで満たされる。
現在、日本では販売されていない参考モデルであるにもかかわらず、右ハンドル仕様であることも驚きだが、それ以上にレバーは左がワイパー系、右がウインカー&ライト系と、欧州の規格とは異なり日本の流儀にしたがっている点も興味深い。ちなみに欧州では左側レバーがウインカーと規定されており、右ハンドルの英国でも左ウインカーとなるが、日本仕様でも変更の義務はないのだが、ネッソではそれをあえて変更しているのだ。またマルチメディアスクリーンの表記はすべて日本語。いつでも販売できるほどの仕様となっている。
今回、極めて希少なモデルの解説を行ってきたが、トヨタは東京モーターショーで出品された2代目ミライがまもなく登場する。また、クラリティはFCVに加えてプラグイン・ハイブリッドがラインナップされ、プラットフォームのマルチパワーソース化が想定されていたことがわかった。
日本勢がこれまで、SUV的スタイルで多くの試作や先代モデルを登場させながら、セダンスタイルに落とし込んできた経緯がある。対するヒュンダイはSUVで商品性を追求する形をとっている。日本がまだ公的機関などでの使用を中心としながらも個人ユースへの食指も伸ばし始めているのに対して、ネッソはパーソナルユースを多く意識しているように見える。
韓国では2030年までにFCVを85万台までに普及させることを目標にしており、日本が以前に設定した2030年までの普及目標の80万台を上回る意気込みだ。
ネッソは2019年の世界販売台数において、FCVの中でトップを記録した。このネッソの登場を皮切りに、これからの10年、より魅力的なFCVの開発競争が展開されることになるだろう。その中で、極めて良いマイルストーンとなったのがネッソだと言えるのではないだろうか。
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