新春スペシャル エンジン博士 畑村耕一「2017年パワートレーンの重大ニュース」① 『日本のエンジン技術の危機が迫っている』畑村耕一「2017年パワートレーンの重大ニュース」①
- 2018/01/01
- Motor Fan illustrated編集部
マツダでミラーサイクル・エンジン開発を主導したエンジン博士の畑村耕一博士(エンジンコンサルタント、畑村エンジン開発事務所主宰)が、2018年のスタートにあたり、「2017年パワートレーンの重大ニュース」を寄稿してくださった。パワートレーンの現在と未来について、プロの見方を聞いてみよう。5回シリーズの第1回をお届けする。
2017年のモーターファン・イラストレイテッド誌の「博士のエンジン手帖」と「図解特集」を開いてみた。このなかから、自動車用パワートレーンの3大ニュースを筆者の思いで取り上げると、
(1)EVフィーバー
(2)シリーズハイブリッド
(3)SKYACTIV-X
になるだろう。
なんといっても欧州発の電動フィーバーをマスコミが大々的に取り上げ、エンジンはなくなるという風潮が生まれ始めていることがトップの重大ニュースだ。2016年に「エンジンはなくならない」という単行本(『図解 自動車エンジンの技術』ナツメ社刊)を出した筆者としては聞き捨てならない事態だ。
続いて、将来のパワートレーンのふたつの方向がe-POWERとSKYACTIV-Xによって示されたことだろう。ストロングハイブリッドの将来を示したe-POWERと、マイルドハイブリッドの進むべき方向を示したSKYACTIV-Xの思想と技術は、注目に値する。
以下、それぞれについて具体的に解説することにする。
「EVフィーバー」に火を着けたのは日欧の技術戦争
なぜ、EVフィーバーが起きているのか。背景には、日欧のパワートレーン技術競争がある。
80年代の日本の自動車メーカーは、欧州に追いつけ追い越せで、目茶苦茶頑張った。90年代に入って日本が勝ちだした。1993年にマツダでミラーサイクルをやった。世界初の過給ダウンサイジングガソリンエンジンだ。その後、96年に三菱が世界初の成層リーンバーンエンジンであるGDIを出し、97年には日産がNeo Diを、98年にトヨタがD-4を出した。ところが、NOx規制に対応するためにリーンバーン領域が減っていき、効果がほとんどなくなってやめてしまった。リーンバーンが終わった日本は、ハイブリッドに向かった。
この頃、トヨタ生産方式がどんどん入ってきて、QC活動で日本のエンジンの品質はどんどん上がった。この頃の欧州のエンジンはガタガタで、完全に日本が勝っていた。どうしようもないから、欧州は一斉にディーゼルエンジンに走り、次第にディーゼルエンジンが定着していった。ディーゼルに比べてガソリンエンジンは走りが悪くて売れなくなったので、過給するようになった。それが、過給ダウンサイジングで、2005年頃に出てきて、一気に広まった。一方、ディーゼルは高過給に向かった。
過給ダウンサイジングの領域で日本は追い越されたというか、欧州が一気に先に進んだ。その波はアメリカにも及び、アメリカは排気量を下げるだけでなく、気筒数を減らしてコストを下げることにも取り組んだ。そうして、世界中で全面展開が始まった。日本のメーカーも仕方なく過給ダウンサイジングに取り組み、2014年頃からようやく出してきた。否定的だったマツダも2016年に出した。ひととおり出そろったところで、VWはミラーサイクルを入れてライトサイジングにしてきた。従来のモード走行よりも負荷の高い領域で燃費計測を行なうWLTPに対応するためだ。
ディーゼルの技術はどんどん進み、08年にはBMEPが29barに到達(メルセデス・ベンツOM651)。いまや30bar(無過給の4倍)を超えるエンジンもある。ディーゼルで欧州は頑張ったが、VWの不正が発覚した。実走行エミッションが測れるようになった結果、不正ソフトが入っていることが明るみに出た。それだけでなく、他のディーゼルも、不正はしてなくても、実走行では規制値の何倍ものNOxを排出していることがわかった。
これでディーゼルは完全に信頼を失った。
そこで欧州メーカと政府は、充電によるEV走行は二酸化炭素を排出しないとみなす合理性のない規制を作って、PHEVをどんどん送り出す土壌を整備した。EV走行距離が長くなるほど見かけ上の燃費値が良好になるからくりで、50kmEV走行ができると燃費値は3倍になる。規制を満たすのが目的だから、エンジンとモーターのお互いのいいところを使い、弱いところを補う日本のようなハイブリッドではなく、単にエンジンとモーターが載っているだけのデュアルパワートレーンと呼んだ方が似合っている。規制を満たすだけなので、それで十分と割切ってるのか、燃費は日本のハイブリッドほど良くないし、充電走行したら火力発電所からたくさんのCO2排出量を排出する。
欧州は日本のハイブリッドに勝ち目がないので、非合理的な規制を作ってPHEVを普及させようとしている。VW問題が一企業の不正なら、この取り組みは国を挙げての不正と言いたいくらいのものだ。
一方、日本では、ハイブリッド技術が着実に進んだ。エンジンの領域ではマツダのSKYAKTIVが出てきて、ガソリンは実用燃費で過給ダウンサイジングを抜き、ディーゼルは排ガス規制とコストで欧州に勝った。2019年には世界初のHCCIガソリンエンジンが出てくる。
日本と欧州の研究開発体制の違いを山越えに例えると、90年代に日本に負けた欧州は共同してトンネル(技術開発)を掘った。AVLやFEVに頼んで過給ダウンサイジングやディーゼルを開発し、日本に差をつけた。そこで、勝ったと思ったらディーゼルがずっこけた。各社独自に専用の登山道で山越え(技術開発)をしていた日本のメーカーは、2010年代に入り欧州に触発されて共同トンネル掘りに近いことを始めた。欧州の場合、頼りにしてきた研究所が大企業になってしまって革新的なトンネルが掘れなくなってきた。研究所任せだった欧州の自動車メーカーは開発力を失いつつある。現時点での技術力は日本が勝っている。だが、政治的にはどうか……。
このような状況のなかで、新型リーフのような使いやすいEVが出てきた。アメリカのメーカーからも、欧州のメーカーからも今後どんどん使いやすいEVが出てくる。フランスやイギリス、ノルウェーなど、欧州各国の政府はエンジン車を締め出す動きを見せている。ハイブリッドも含めて禁止されるかどうかはあやふやなところがあるが、「自動車の主流はEVで、エンジン車はいずれなくなる」という風潮が生まれ始めている。日本にもそのムードが誇張されて伝播して来ているようだ。
欧州は技術で日本に負けたのを取り返そうと、苦し紛れにEVを打ち出しいているのにすぎない。中国のEV政策も同様に自国産業の保護が目的だ。この流れを放っておいたら、家電のように中国企業の独壇場になり、日本は失業者であふれることになるかもしれない。このようなムードがはびこると、エンジンの研究を志す技術者がいなくなる。企業の中でもエンジンから電動車両部門への異動が起こるだろう。日本のエンジン技術の危機が迫っている。
(その2に続く)
『もう電気自動車リーフの出番はなくなった』畑村耕一「2017年パワートレーンの重大ニュース」② 日産ノートe-POWER
SKYACTIV-X どうしてマツダだけがHCCIを実用化できるようになったか 畑村耕一「2017年パワートレーンの重大ニュース」③
『電気自動車は本当に地球にやさしいか』畑村耕一「2017年パワートレーンの重大ニュース」④
『2050年を見据えた2030年までのパワートレーンの進むべき道』畑村耕一「2017年パワートレーンの重大ニュース」最終回
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