業界注目のリチウムキャパシタの開発裏話
量産開始間近 ジェイテクト「高耐熱リチウムイオンキャパシタは、化粧品開発のノウハウが生きていた!
- 2019/08/13
- Motor Fan illustrated編集部
リチウムイオンバッテリーほどのエネルギー密度はないものの、充放電の反応の良さで蓄電デバイスとして使われているキャパシタ。ジェイテクトが開発した高耐熱リチウムイオンキャパシタは、キャパシタの可能性を一気に高める画期的な新製品として注目を浴びている。MFi本誌(vol.154 回生特集)では、その優れた特性を解説しているが、この製品の開発の裏側には、エンジニアの経歴からくる斬新な発想があった。
TEXT:高根英幸(Hideyuki TAKANE)
一昨年、ジェイテクトが開発に成功した画期的な高耐熱リチウムイオンキャパシタは、今年5月から生産ラインが立ち上がり、10月からはいよいよ本格的な量産体制に入る。
「ようやくリチウムイオンキャパシタが、蓄電デバイスの選択肢として考えてもらえるようになりました」
そう語るのは開発エンジニアのジェイテクト・BR蓄電デバイス事業室の、三尾巧美氏である。
ジェイテクトが開発した「高耐熱リチウムイオンキャパシタ」は、課題のあった耐熱性に対して、その名のとおり、車載に搭載するために要求される適用環境温度を独自技術により、-40℃から85℃まで広げた(従来のリチウムイオンキャパシタは、-20℃~60℃が一般的)。さらには出力する上限電圧を制限することで、105℃でも使用が可能となった。
高温環境、低温環境のいずれも使用できる適用環境温度の広さが、自動車業界のみならず、工作機械、建設機械などさまざまな領域で注目を浴び、その用途も補助電源、予備電源、発電装置の機能安定化といったニーズに、その可能性を見出そうとしている。
これまでキャパシタを手がけてきたメーカーはいくつもあり、リチウムイオンキャパシタもそうした専門メーカーがいち早く製品化を実現している。ところが、従来のEDLC(電気二重層キャパシタ)と比べエネルギー密度は高いものの、使用できる温度帯が狭いため、搭載できる環境が限られてしまい、コスト高もあって、なかなか普及していかなかった。
そのため開発や生産から撤退したメーカーも多く、その結果、リチウムイオンキャパシタは、EDLCと競合してしまう存在となり、国内で生産していたメーカーは、現在では3社程度まで減ってしまった現状がある。
では、どうしてキャパシタの開発では後発であるジェイテクトが、他社に先駆けて高耐熱リチウムイオンキャパシタを開発できたのだろうか?
その答えは、開発に携わった三尾氏の変わった(?)経歴にあった。
「新卒でジェイテクトに入社したんですが、私は元々、大学で化粧品などの化学分野を専攻していたんです。ゼミの教授の紹介で弊社に入ることになったんですが、入社後は鋼材、非鉄金属と素材の開発から、電子基板の設計など、専門外のことをやっていました」
そんな三尾さんがキャパシタを開発することになる経緯は、ジェイテクトの工作機械部門、豊田工機がリチウムイオンバッテリーを製作する機械を開発するのが発端だった。
「エンジン部品を作る工作機械の需要は将来縮小する可能性が高いので、これからは電気電子関連の部品を作れる機械を作ろうという方向性になったんです。バッテリーメーカーは巨大な規模でバッテリーを量産しています。ウチの規模では勝負にならない。じゃあ、キャパシタを作ろう、ということになりました」
それが2009年、今から10年前のことだ。ようやく三尾氏は、大学で化学を学んだことが生かせる環境となった。
開発成功の決め手は、実は化粧品業界のノウハウにあったのだとか。
「化粧品の開発では、肌トラブルを防ぐために素材の相性を数値化して組み合わせて判断するようになっています。人種などによっても合う素材も異なるため、素材の組み合わせをマッピングして可視化するんです。今回のキャパシタの開発にも、それを応用しました。温度域を下げるのは電解液を凍らないようにすることで対応できます。高温域は使う素材の組み合わせをいろいろ変えて試すことで広げることができました。しかし、すべての組み合わせをひとつひとつ試していたら、時間がいくらあっても足りません。そこで素材の特性をそれぞれのパラメーターで数値化し、可能性の高そうな組み合わせをマッピングで見つけることにしました」
それによって開発のスピードアップが図れ、使用温度帯を広げる素材の組み合せを見つけることができたのだという。パラメーターは素材ごとに異なるため、単純に同じパラメーターを使っている訳ではないそうだ。同社では、この開発手法について現在、特許を申請中だ。
新技術や相反条件を両立させるブレイクスルーの実現。それには、正攻法で取り組むだけでなく、異なる方向からのアプローチが思いも寄らぬ結果を導くことがあるという好例だ。