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サスペンション・ウォッチング | スバル・レガシィ(BM/BR型)剛性と軽量化のジレンマ

  • 2020/08/26
  • Motor Fan illustrated編集部
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大型化著しいと盛んに言われたBM/BR型5代目レガシィ。しかし「大きく重く」は回避、ライバル勢に対して計量に仕上がっているのが特徴である。
STORY:國政久郎(KUNIMASA Hisao) TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)

 BM/BR型レガシィは、フルモデルチェンジを機にフロントセクションを一新。従来はビーム型クロスメンバーだったものを、スバルとしては初のクレードル形状サブフレームに変更した。これによってエンジンマウントの横方向スパンと、そこからトランスミッションマウントまでのスパンが拡大されたことで、対NV性能を向上。前後方向にメンバーが増えたことで衝突安全性能の面でも有利になり、操縦性安定性の面ではサスペンション取付剛性向上と、ステアリング操作の応答性向上を目指したとしている。

 しかし、デビュー直後に試乗した際には、その効能は特に体感できるレベルではなかった。そこで各部の板厚なども確認しながら構造をチェックしていくと、どうも構造的に横方向の入力をしっかり受け止められないように思える。たとえば、サブフレームの要所に追加されている横方向のメンバー。いかにも強そうに見えるのだが、その板厚や構造、留め方などをチェックすると、剛性確保の面で疑問が生じる。

 もちろん、CAE解析などで入念に検討し、必要十分な強度・剛性は確保できていると判断しているのだろうが、クルマを作り上げていく過程には、思わぬ落とし穴が潜んでいる。たとえば、設計図面では十分な強度・剛性を確保していたものが、生産図面に落とし込む際に設備の都合などからスポイルされてしまうケースは少なくない。

 もうひとつ気になったのは車両重量だ。5代目レガシィは、セダンの最軽量グレードで1440kg、最も重い2.5GTのAT車でも1510kgに仕上がっている。現代のDセグメント、そして4WD車としては、かなり軽量と評価できる数値である。
 たとえば欧州で直接のライバルとなるだろう車種のひとつ、AUDI A4 2.0 TFSI quattroは、7速Sトロニック搭載車で1680kg。この違いをどう評価するべきか。両方の実車を細部に渡って観察した身からすると、レガシィが170kgも軽量であることを、手放しで賞賛する気にはなれないのだ。

 もちろん、軽量化は非常に重要な事柄だし、諸元表に明記して誇れる要素でもある。しかし、そのために犠牲にしてしまったものはないのか? ボディサイズが大きくなったにもかかわらず、重くならない理由を考えてみたい。

サブフレーム

 従来は横方向の幅広クロスメンバーを採用していた。「ボックス構造を採用し、前後方向のフレームを不要としながら同等の横剛性を確保している」と説明されていたが、BM/BR型からクレードル形状(もしくは井桁型)のサブフレームを採用。全体的な構成はメルセデス・ベンツやBMW3シリーズに近いものとなっている。採用の目的は「走りの更なる向上と、快適性、環境性能、衝突安全性の高いレベルでの融合」と説明されている。

 ステアリングのパワーアシストは国内仕様は全車EPS。制御の内容が変更されたようだが、センター付近の剛性が少々心もとない。また、状況によってトルク変動が大きく、滑らかさに欠ける印象もある。もう一歩の煮詰めを期待したい。

フロントサスペンション

 フロントサスペンションは、水平対向エンジンを縦置きし、センターデフを配するパワーパッケージゆえ、アッパーアームの配置が困難なこともあってか、形式はマクファーソン・ストラットを踏襲。ただし、構造は刷新した。たとえばロワーアーム車体側取付点の前後方向スパンが長く取られているのは、クレードル構造サブフレーム採用で得られた利点のひとつだろう。

 しかし、そのピボット部の支え方が、直に力を受け止められる構造になっておらず、特に横方向の力にはまったく対応できないように見える。正直なところ、なぜ、このような構造としたのか、その意図が理解できない。

 ダンパーのサプライヤーはKYB。18インチホイールを装着する「Sパッケージ」仕様のみ、倒立式のビルシュタイン製を採用する。ロワーアームについては、試乗したアウトバックはスチールのプレス品を溶接で組立てたものを装着。グレードによってはアルミ鍛造品となる。前後方向の取り付け位置スパンが大きめに設定されているのが目立つところ。アンチロールバーは中空構造で径はやや太目。リンクのピボットはハブキャリアに設定する。

 クロスメンバーはプレススチールの溶接構造。エンジンマウントのスパンを拡大、特に横方向に大きく広げることで、エンジンのローリングモーメントを低減させ、操縦性安定性の向上を図っている。

リヤサスペンション

 リヤサスペンションは、3代目インプレッサから採用したマルチリンク構成。アッパーアームの車体側ピボットがゴムブッシュで、軸方向を前後で微妙に変えている点が特徴。ハブ側ボールジョイントの上下動の軌跡が斜めに動く。ストロークにともなってかなり大きく動くはずだ。

 他に気になるのは、トレーリングリンクの短さと取付角。ストロークするとホイールベースが変動し、タイヤに回転ムラが生じそうだ。また、ロワーアームのハブ側ピボットがハブセンターからオフセットした位置にあるので、荷重を受けると必ず回転方向にモーメントが生じる。この力を受けて、各リンクブッシュがたわみ、ショックストロークにならない揺れが生じる。

 ダンパーユニットのアッパーマウント部は入力一体型。ロワー側のピボットをロワーアーム上のハブ寄りに設定した構造上、レバー比が大きめになるので、その分、入力効率は低下する。あえてこのような構成とした意図はどこにあるのだろう? 

 ロワーリンクはコの字断面で、全体は舟型形状のプレス品にピボット部を溶接。ダンパーのロワーマウントとアンチロールバーリンクのピボットが設けられている。一方のアッパーアームは車体中心部からハブ側に向けて、3D形状で湾曲した構成。車体側ピボットは、前側と後側でマウント軸方向を微妙にずらすことで、ストロークに対するキャンバー変化とトー変化の関係を最適化している。トレーリングリンクはコの字断面に成形されたプレス品にピボット部を溶接した構造。CAE解析によって、重量と強度・剛性のバランス最適化を意図した構造だ。

 アンチロールバーは中空構造で径は細め。リンクピボット位置からレバー比が大きく、入力効率は0.7程度と推測。あえて効きをマイルドにする意図からの構成か?

 クロスメンバーは、フロント同様のプレススチールの溶接構造。リヤサスペンションユニット全体を低く抑えることに加え、全体をひとつのモジュール化することで、車体へ組付ける際の工程簡易化を図った設計。インプレッサからトライベッカまでの重量と、FWD&4WDに対応するための工夫が盛り込まれている。

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