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急速充電ステーションの課題——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第67弾

  • 2021/05/22
  • Motor Fan illustrated編集部
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(PHOTO:PORSCHE)

 電気自動車(EV)を普及させる上での課題のひとつが、急速充電ステーションの拡充。それにはふたつの阻害要因を克服する必要がある。ひとつは、グリッドに与える負荷変動の大きさをどうするか。もうひとつは、急速充電ステーションを単独のビジネスとして軌道に乗せることができるかどうかだ。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)

 前者については、本シリーズ第50弾で少々、触れているが、出力250kW級の急速充電機を1台、稼働させると、そのグリッド(送電網)には一般家庭70軒が契約電力目一杯まで使用したのと同じだけの電力負荷がかかる。それが何基も不規則に稼働したのでは、発電量の調整が追いつかなくなり、周波数を安定させるために、特定の地域を停電させる必要が生じる。となれば、送電網あたりに設置できる急速充電器の数は、負荷変動への対応能力で決まってしまい、ガソリンスタンドのような数は設置できないということだ。

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 ところがこれには、解決策がある。急速充電スタンドに、電力ストレージを併設しておけば良いのである。電力ストレージとは、平たく言えば「大容量蓄電池」のことだ。

 たとえば出力1MWの蓄電システムを併設しておけば、250kW級の急速充電器を4基同時に稼働させても、送電網から電気をもらう必要はなくなる。蓄電システムへの充電は、電力需要の少ない夜間や、発電量の安定しない再生可能エネルギー(風力や太陽光)を利用して行えば良い。EVが普及して自宅充電が増えると、現在のように夜間の電力需要が少ないままかどうかはわからないので、恐らく後者を利用することになると思うが、むしろこれは再生可能エネルギーの利用拡大には好都合でもある。

 たとえばテスラは、南オーストラリアで100MWの蓄電設備を運用している。これは再生可能エネルギーの利用促進と、災害に対する送電インフラの耐力強化を目的としたものだが、これの縮小版を各充電スタンドに併設するか、同等の設備をグリッドごとに配備するかのいずれかで、急速充電器の負荷変動には対応できるようになる。

teslaのMegapack(PHOTO:TESLA)

 むしろ厄介なのは後者の“急速充電スタンドをビジネスとしてどう成立させるか?”という問題である。

 EVは家庭で充電できるので、自宅に駐車場のあるユーザーなら、家庭での充電をベースに運用するはずで、まずエネルギーチャージのニーズが激減する。すべての乗用車がEVに入れ替わったとしても、利用率は少なめに見積もって60%ぐらいは減ることになるだろう(数字は山勘で、具体的な根拠はない)。すなわち、現在のガソリンスタンドの40%の回転率で採算が合う価格設定にする必要がある。

 ならばいくらにするべきか、と考えて、まず参考にしなければならないのが、家庭用の電気料金。現状では基本料金を含めて、30円/1kWhぐらいだから、これより大幅に高いようではますます需要は減ってしまう。ポイントは「急速」という部分に、どれだけ付加価値を認めてもらえるか、ということになる。

(PHOTO:DAIMLER)

 ちなみに現状では、急速充電器の使用料は従量制ではなく時間単位で、利用価格は“日本充電サービス”の例では15円/分。日産自動車の“プレミアム40”というプランで250円/10分。仮に充電器出力を50kWとして、充電ロスを考えずに単純計算したとすると、1kWh単価は前者が18円、後者が30円。事業所用の電力料金は家庭用より安いとはいえ、利益を上げられる販売価格にはならないだろう(50kW充電器で月200回稼働するとの仮定で、原価は42.4円/kWhという試算が東京電力から出されている)。

 単価が赤字なら、売り上げが増えるほど赤字は膨らむばかりで、行政の補助金やメーカーの投資がなければ運用していくのは不可能だ。補助金の原資は税金だし、メーカーの投資は車両販売価格に転嫁するしかないから、結局のところユーザーの負担になる。ならば急速充電スタンドの販売単価を採算の合うレベルに設定すれば……高すぎて利用者が減り、やはり採算が合わない、ということになりはしないか。

日産は英国で産官学によるV2Gによる電力グリッドの負荷削減効果を実証実験中(PHOTO:NISSAN)

 実際、14年3月には、社団法人次世代自動車振興センターが「電気代のみで収益を得るビジネスモデルは成立困難」との報告書を出している。これを打開するために、出光興産とデルタ電子が他業種と組み合わせたビジネスモデルの実証店舗“Delta EV Charging Station”を横浜に開設したが、「充電さえできれば」というユーザーは、併設施設にお金は落とすまい。しかも、併設施設の採算が見込める程度の人口密度がなければ成立しないから、そうあちこちに開設するわけにもいかず、賃貸駐車場を利用しているユーザーの利便性は、内燃機関に較べて大きく後退してしまう。

 EVを普及させて脱内燃機関を実現するには、この問題に対する明快な回答を、そろそろ提示する必要があるのではないか。

出光興産とデルタ電子

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