バンプストッパーの話——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第65弾
- 2021/03/09
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安藤 眞

前回に引き続き、サスペンションの性能を裏で支える地味な部品のお話をしよう。バンプストッパーラバーだ。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
サスペンションはストローク量に限界がある。その理由は、ダンパーの長さだったり、タイヤや駆動系とボディの干渉だったり、サスペンションリンクそのものの干渉だったりといろいろあるが、金属部品が干渉してしまったら大きなショックが生じるし、入力が大きければ部品の破損にもつながってしまう。そうならないよう、構造的に頑丈な場所を選んで“当てゴム”を付けておき、緩衝しながらストローク量を制限するようにしたのが、バンプストッパーの始まりである。
取り付けられている場所はクルマによってさまざまだが、乗用車の場合、コイルスプリングと同軸に設置されている例が多い。コイルスプリングは車重を支えているため、車体側もサス側も支持構造が頑丈だからだ。ストラット式サスのように、ダンパーとコイルを同軸配置している場合には、ダンパーの軸を通すように配置されることがほとんどである。

もともとは部品同士の干渉を防ぐために設けられたバンプストッパーだが、ただの当てゴムでは、どうしても“底突き感”が出てしまう。そこで、タッチし始めは柔らかく、ストロークするにつれてばね定数が立ち上がる特性となるよう、形状や材質が工夫されるようになった。
かつて僕が担当していた車型は、リーフスプリングにリジッドアクスルというリヤサスペンションだったが、バンプストッパーは8の字型をしていた。アクスルが当たると、まず8の字の空隙が潰れてばね定数を穏やかに立ち上げる。ストロークが大きくなって空隙がなくなると、ゴムそのものが圧縮されて大入力を受け止める、という仕組みである(残念ながら、僕が考案したものではない)。
近年は素材そのものも、ゴムから発泡ウレタンに変えるケースが増えてきている。発泡ウレタンのほうがコストは高いが、添加物の配合や発泡度合いによるばね定数のチューニング自由度が高く、ばね定数自体もソフトな設定にできるからだ。

こうした特性を利用して、バンプストッパーをただの“当てゴム”ではなく、ヘルパースプリングとして活用しようという事例も出てきている。たとえば日産キックスは、リヤのバンプストッパータッチを早めることで、加速時のスクォート(リヤサスの沈み込み)抑制に利用しているし、レクサスISはバンプストッパーのばね定数を低く設定し、旋回時にストッパータッチによるばね定数の急変を抑え、限界特性を穏やかにするという使いかたをしている。
チューニングの肝は「当たったことに気付かせない」ということなので、“上手く作るほど気付いてもらえない”という悲しい立場にあるのが、バンプストッパーという部品である。
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