自動運転「レベル」の正しい理解のしかた——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第66弾
- 2021/03/22
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安藤 眞
ホンダ・レジェンドに搭載されたHonda Sensing Eliteが、世界で初めて「自動運転レベル3」に認定された。システムについてはあちこちで報道されているのでそちらに任せるとして、この機会に「自動運転レベル」についての誤解を解いておきたいと思う。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
自動運転は、その達成度合いに応じて“0”から“5”までのレベル分けが行われている「ように見える」。カッコ付きで書いたのは、実際にはそうではないからだ。では、どこが実態と違うのかというと、数字は同一直線上に並んだ等級付けではなく、途中で意味合いが変わっている、ということだ。
話をややこしくしているのが、まず「0〜2までは同一直線状」ということ。“0”は何の運転支援も行われない状態、“1”は、前後または左右どちらかの動きをクルマが制御するする仕掛けが付いていること。具体的に言うと、追従型のクルーズコントロールか操舵介入式レーンキープアシストのどちらかが付いていれば“1”に該当する。“2”は、その両方が付いていれば定義は満足できる。ここまでは、「支援機能がどれくらい付いているか」という評価基準で等級が上がる。
ところが“3”になると、評価基準が「機能の多寡」ではなくなる。たとえばHonda Sensing Eliteには、渋滞時に操舵と速度調整をクルマに任せられる“トラフィックジャムパイロット”が付いているが、同じ機能は“Elite”になる前にレジェンドに搭載されていたHonda Sensingにも付いているし、マツダのi-ACTIVSENSEや日産のプロパイロットにも付いている。ところが、Honda Sensing Eliteだけ自動運転レベル3で、その他はレベル2に止まっている。どこが違うのかと言えば、「安全を担保する信頼性」であり、ここが2と3を分ける判断基準そのものだ。
レベル2までは「自動運転」ではなく「運転支援」だから(これも話をややこしくしている要因)、たとえハンズフリーできるものであっても、安全を確認したり危険回避したりする責任はドライバーにある。当然、すべての道路交通法を遵守する責任はドライバーに生じる。
一方でレベル3は、「自動運転システムが引き起こす事故であって合理的に予見される防止可能な事故が起こらない」という条件を満たすことができれば、運転(※1)をシステムに任せることができ、一部の道路交通法遵守義務から解放される。ここが大きな違いだ。
※1:行政用語上の「運転」とは、事故を起こした際の被害者救護義務や、同乗者にシートベルトの着用をさせる義務なども含まれるため、厳密に言えばクルマの運行を制御するだけの“操縦”というべき。
具体的に適用が除外される法律は、道路交通法第71条五の五(※2)。いわゆる「ながら運転禁止違反」で、レベル3に認定されたシステムの稼働中は、スマホの操作や映画の視聴が許されるようになる。
それを達成するためには、関連装置の二重化によるロバスト性の担保に加え、起こりうる事象を網羅した膨大な数のシミュレーションと実路走行試験が必要になり、開発の難易度は飛躍的に高まるのだが、ユーザー目線からすれば、“2”と“3”の違いは「ながら運転が検挙対称になるか否か」にすぎない。
※2:https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/shinsei-todokede/jouhou/dourokoutsuho.pdf
また、レベル3は「条件付き自動運転」とも呼ばれているが、これも誤解を招きやすい表現だ。
“条件”のひとつは、使用できるエリアや走行環境(Operational Design Domain=ODD)のことを指す。Honda Sensing Elite の場合、「高速道路や自動車専用道で渋滞に遭遇した際、速度が約30km/hを下回ったときに作動が開始され、約50km/hを上回ると解除される」というODDが設定されている。というのも、この範囲でのみ「自動運転システムが引き起こす事故であって合理的に予見される防止可能な事故が起こらない」ということの検証が完了しているからだ。
となると、今後はODDの範囲を拡大し、「高速道路の全速度域」や「一般道を含めた全ての国道」へと広めていけば、やがては「自動運転レベル4」に到達できるようなイメージがあるが、そうでないから、ややこしい。
自動運転レベル3にはもうひとつの“条件”があって、これが外されるか否かが、レベル4にステップアップできるかどうかのカギを握っている。それは「システムはギブアップすることがある」ことを許容するか否かだ。
たとえばHonda Sensing Eliteは、2台の光学カメラと5台のミリ波レーダー、5台のLiDARセンサーで周辺監視を行っているが、光学カメラは濃霧や逆光に弱いし、電磁波は豪雨や豪雪には弱いため、極端な悪条件が重なると周辺監視が不可能になる。だから、そうなる10秒以上前からドライバーに交代要請(Take Over Request=TOR)を行えば、ギブアップしても良いことになっている。
これを禁じるのがレベル4であり、使用できるエリアや走行環境の拡大は問われない。すなわちHonda Sensing Eliteのように「高速道路本線上の渋滞限定」であっても、「TORなしで走り続けられます」と証明できれば、レベル4に認定される可能性がある。逆に言えば、どれだけODDを広げても、TORがある間は、レベル4には認定されない。
レベル3は「ODDは設定しなければいけないが(制限)、TORはしても良い(許容)」、レベル4は「ODDは設定しても良いけれど(許容)、TORはしてはいけない(制限)」というように、同じ項目に対して制限と許容の関係が逆になっているのが、ややこしさに拍車をかけている。
しかも「TORしない」ことを担保するには、ハードウェアのアプローチ方法も変える必要がある。レーダー波や赤外線の物理特性は変えることができないから、これらの性能がどれほど進歩しても、検出限界がなくなることはない(実用上問題ないことが裏付けられるところまでは行く可能性はある)。
となると、TORせずに走り続けるには、車載カメラやセンサーで完結する自律方式ではなく、道路側に設置されたインフラとやりとりすることで走行を制御する“インフラ協調方式”を採用せざるを得なくなる。
逆に言えば、ミリ波レーダーやLiDARなどは不要になる可能性もあり、システムとしてはまったく別の形になる。やり方によっては、レベル3の要件を満たすより、レベル4のほうが技術的難易度が下がることもあるだろう。
クルマの形態としても、個人が所有するマイカーではなく、特定の地域内で使用するシェアカーやコミュニティバスなど公共交通機関が主になると考えられる。すなわちレベル4は3の延長線上にあるのではなく、使う技術もアプローチ方法も異なる「別のクルマ」になる可能性が高い。
さらに話をややこしくしているのが、「レベル4には2種類が想定されている」ということ。上記のように、ODDの外に出ないタイプのほか、「高速道路上はレベル4走行するが、一般道はレベル2以下の運転となる」というものだ。代表的なのが物流トラックや高速バスだが、一般道に降りる手前でTORが行われる以上、レベル3にグレーディングしたほうが適切のようにも思えるし、システム稼働中のセカンダリータスク(運転以外の行為)をどこまで認めるかも、ODDの外に出ないタイプとは異なる対応が必要になる。
レベル4の上にはレベル5があるが、これは「TORせずODDもない」のが条件。平易に言えば、「いつでもどこでも自由に行ける無人運転」だ。
ただし、これが実現可能かといえば、僕は「無理だ」と考えている。インフラ協調型でエリアを限定しないとなると、滅多にクルマが通らない林道にもインフラ整備をする必要があるし、自律型で成立させようとしても、そういう地域まで高精度3D地図データの更新をし続けなければならなり、採算が合うとは考えにくいからだ。
ともあれ、こうして見てきてわかるのは、「自動運転の“等級”を上げるために要求されるモノサシ」が、0→2までは「機能の多寡」、2→3は「安全担保の裏付け度合い」、3→4は「TORの可否」、4→5は「ODDの有無」と変わっており、同一直線状にないこと。すなわち「レベル○」という序列の付けかたが適切ではなく、それが誤解を生む元になっている。
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