内燃機関超基礎講座 | エンジンマウントの仕組み。揺れをどこでどれだけ抑えるか。
- 2020/10/26
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牧野 茂雄
エンジンマウントの役割は「支持」「防振」「制振」の3つだと言われる。しかし、巧妙な仕掛けのマウントは車両運動性能とドライブフィールを確実に向上させる。同時に、エンジン気筒数削減やエンジン構造の簡素化にも貢献する。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
エンジンマウントの役割は「支持」「防振」「制振」の3点に大別される。良くできたエンジンマウントは、単に振動をボディに伝えないだけでなく車両運動性能や操舵フィールの向上にも寄与する。しかし、日本ではエンジンマウントの重要性が見過ごされてきた。見直しは始まったばかりだ。
上のイラストは、日産のFF系直4エンジン搭載車に採用されているペンデュラム(振り子)マウントだ。V6エンジン横置き用の6点式は、前後マウントとロール慣性主軸上の左右マウントの十字配置に高低差を大きく取ったトルクロッド2本という組み合わせなのに対し、2.5ℓまでの直4エンジン横置きFFモデル用は4点式だ。重たいV6を支える6点式はコストのかかった凝った構造で、しかも前後マウントは負圧切り替え式だったが、4点式は直4エンジンに最適化しコストを抑えながらも効果をねらった構造である。
フロントサイドメンバー上に、車両右側はエンジンブロック上端を、左側はトランスミッションを、パワーユニットの回転軸上で押さえるようマウントを配置し、エンジン/トランスミッションを吊り下げる。この2点では、エンジンブロック下方が、おもに前後に揺れてしまうため、回転軸から離れたサブフレーム位置で下方を1点、トルクロッドで押さえている。これによりエンジンが振り子のように揺れてしまうのを規制している。さらに、右側上部マウントの近傍にトルクロッドを追加して4点留めとし、加減速と左右ロールによるエンジン位置の変化を規制している。3点式よりもコストはかかるが、エンジンシェイクとアイドル振動の両方を低減する工夫が施されている。
【左写真2点】上はエンジン側。下のボディ側のパーツは金属の塊ではなく防振ゴムを内蔵している。エンジン重量が真上から入る位置であり、サイドメンバーへの固定だけでなくマウントからウデを出してボディインナーの丈夫な部分に留めている。
【右写真】右側上部のトルクロッド。ボディ側は横置き、エンジン側は縦置きの配置。ソリッドマウントはエンジンシェイク(ロスファクター大)とアイドル振動(低バネ)の両立が難しく、設計には勘所がある。
【上写真】エンジンブロック下部のトルクロッド。エンジン側のブラケットにウデを延ばして支える構造だが、内部のゴムの形状、硬度、厚み、揺れを許容するストロークの設定などはノウハウのかたまりである。
【下写真】左マウントは小さくて薄いが、内部構造は凝っている。上のイラストでオレンジ色に塗られたエンジン側ブラケットとセットになる。丸い台座の下側に、大きく厚く断面が連続変化するゴムがある。
現在、ペンデュラム方式はエンジン横置きFFでの主流のひとつであり、単純にクロスメンバー上の3点もしくは4点のマウントのスパンだけで揺れを抑える従来の方式からはどんどん進化している。エンジン内部にバランサーシャフトを配置して振動を低減する方法との併用で、クルマ全体としての振動・騒音を低減する例もある。今後はエンジンの排気量ダウンサイジングが気筒数の減少を伴って行なわれるようになると予想され、気筒当たり500ccの2気筒、3気筒エンジンで、しかもバランサーシャフトなしというケースは当然出てくるだろう。その場合には、エンジンマウントに過大な要求が突き付けられる。日本車の場合、マウントは「柔らかく」「とにかくカドまる」という設計が見受けられるが、これからのダウンサイジング時代、あるいはEV用の重たい電動モーターをマウントする要求に応える時代では、従来の設計方法を白紙に戻し、プラットフォームとセットで運動性優先の姿勢でマウント方法の最適化を図る必要があるはずだ。
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