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内燃機関超基礎講座 | 意外な理由から生まれたスロットル・バイ・ワイヤー:ホンダNSX

  • 2021/06/02
  • Motor Fan illustrated編集部
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自動車におけるバイ・ワイヤー技術は、スロットル制御から始まった。だが、最初期のスロットル・バイ・ワイヤーは、本来の目的とは違った理由で採用された。まったくの偶然から生まれたバイ・ワイヤー技術の背景を辿ってみよう。

市販車初のスロットル・バイ・ワイヤー(=ドライブ・バイ・ワイヤーDBW)は、いすゞのNAVi5搭載車だった。DBW自体は1970年代の初頭、GMがマスキー法による排ガス対策のために研究開発を行なっていたのだが、実際に採用されたのはエンジン制御のためではなく、トランスミッション制御のためだった。80年代には電子制御インジェクションの普及率も上がってはいたものの、それをコントロールする目的でDBWが一般化することはなく、次にDBWが世に現れるのは95年のNSXまで待たねばならない(開発は80年代後半から)。

なぜNSXにDBWが採用されたのか、その理由をホンダの技術陣に尋ねたところ、驚くべき答えが返ってきた。それはエンジンの搭載位置の問題だったのだ。ミッドシップのNSXでは当然エンジンは車体後部に搭載されており、スロットルペダルからワイヤーを引き回すには、長いワイヤーと多くのリンクを設けなければならない。右ハンドルが主体のNSXでは、センタートンネルまでの距離の分、条件はさらに悪くなる。すると、摺動抵抗で必然的にペダル操作力は重く、渋くなる。FFばかりのホンダ車では問題にならなかったネガがクローズアップされた。それを回避するために、ホンダ内製のDBWが採用された、というのが真相だったのだ。エンジン制御要件ではなく、ボディ構造要件での採用だったわけだ。

1995年のマイナーチェンジで採用されたNSXのDBW。ミッドシップ・レイアウトでスロットルワイヤーを取回すことの難しさが図からもわかる。91年デビューのビートでも同じ理由で、スロットル操作が重くなる現象に見舞われた。そのため、DBWの採用を検討したというが、NSXの数分の一という価格のビートにはコスト面のハードルが高すぎ、採用は見送られた。

生産台数からいって、ほとんどワンオフに近い代物であり、当然サプライヤーからのアッセンブリー供給など期待できないから、ケーブル式から大幅なコスト増は避けられない。1000万円の高価格車だから可能だった策であり、ペダルの操作力の問題だけなら、一般のFF車に使う必要はないし、価格の面からも現実ではない。実際の市販化に際しては同時にトラクション・コントロールも組み込まれたが、これまた当時はハイエンドで高コストな技術。かくしてDBWは誕生したあとすぐに、しばしの眠りにつくことになった。

NSX用のC30A。ミッドシップ搭載というだけでケーブルの取り回しは煩雑になる上に、NSXはV6エンジンなのでツインスロットルとなり、操作力を重くする要因が増える。
1995NSXのTCS作動フェイズ。トラクション・コントロールシステムもDBWの採用により実現した。それまでのTCSは、エンジン出力を絞るのに点火カット、さらには強制的なスロットル固定等を用いていたため、荒っぽい制御しかできなかったが、DBWで緻密な出力制御が可能になり、限界時にシビアな挙動を示しやすいミッドシップ車にイージードライブ化をもたらした。

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