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「ほぼ」ステア・バイ・ワイヤーのVDSの威力 ハムスターでも大型トラックを操舵できるパワステ:VOLVO TRUCKS FH

  • 2019/06/16
  • Motor Fan illustrated編集部
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ボルボトラックのセミトラクター「FH」が大幅な改良を受けた。狙いはドライバーの負担軽減。そのメリットを体感できる試乗会が開催された。イージーな操作感はどのように創出されているのか。
TEXT&PHOTO:萬澤龍太(MFi) FIGURE:VOLVO TRUCKS

 トラックの運転手を確保するのが難しいのは、世界で共通した悩みのようだ。ドライバーの運転環境を改善するために各ブランドはさまざまな工夫を車両に凝らし、高付加価値を備えるトラックとして印象付けている。ボルボ・トラックのセミトレーラーであるFHは2018年末に新型となり、内外装に大きな変更は受けていないものの、メカニズムに唯一無二と言えるふたつの特長を備えてきた。ひとつがVDS(ボルボ・ダイナミック・ステアリング)、もうひとつが変速機「I-シフト」のDCT化である。

右ハンドル仕様なので、VDSの肝となるアクチュエータはメインフレーム右側に備わる。ステアリングシステム自体はボール&ナット式で、アシスト装置はステアリングホイール側の電動式(上部のアルミ製筐体)と減速機側の油圧式(下部のスチール製筐体)のハイブリッド構造としている。油圧式本体の奥から下に伸びるのがピットマンアームとリレーロッド。右のナックルに接続される。

 VDSとは、広義のステア・バイ・ワイヤーと捉えていただければ理解しやすいだろうか。ステアリングホイール側の中間シャフトと、パワーアシストギヤボックス内のシャフトが剛結されずにある程度の遊びを許容する構造とすることで、タイヤからの入力をステアリングホイールに伝達しない。こうすることで轍の進入時や悪路走行時にハンドルを取られることはなく、高速走行時には横風などの外乱を受けても直進し続けるという車両挙動を実現した。

 VDSの威力を試すために、テストコースでは3つのメニューを用意。ひとつは車両停止時の据え切り、ふたつ目は凹凸路の極低速走行、三つ目は微速後進である。一般的な油圧式EPSでは、車両停止時の据え切りには結構な操舵トルクが必要だ。それに対してVDS装着車は電動パーキングブレーキを解除すると作動し始め、誇張なしに指一本でステアリングを操作できるようになる。凹凸路はおよそ十数センチのかまぼこ状のゴム板を左右交互に並べたコースで、そこを10km/hの微速で手放し、あるいは指一本の保舵で走行するというもの。路面の入力を受けてキャビンは派手に左右に振られはするものの、クルマはなぜか直進を続ける。最後の後進では「ゆっくりバックしてみてください」とインストラクターに促されて試すものの、何も起こらずに完了。いったい何だったのかと訝るが、じつはセミトレーラーの後進というのは、重量物を牽引している構造ということもあり、まっすぐ進むというのは相当に難しいということが判明。VDSの恩恵に与れた。

VDSアクチュエータの構造。電動側と油圧側をつなぐ「トーションバー」という部品を介して操舵を制御。ねじれを感知すると前輪の動きと逆向きのトルクをモーターが発生させ、ステアリングホイールへの影響を抑え込む仕組み。
おそらく本システムを示す特許文書(右図面)によれば、ステアリングホイール側の中間シャフトと油圧側のシャフトを繋いでいるのはゴムなどの柔らかい部品。そこで5~20度のねじれを許容する構造とすることで実存結合構造とし、擬似的なステア・バイ・ワイヤーを実現した。FHのVDSでは7度の設定になっている。 Method and arrangement for an electrical steering system (US9555824B2)

 つまり、クルマの挙動で最優先されるのはステアリングホイールからの入力。外乱を受けても、剛結されていないシャフトのおかげで無用な反力は受けない。ドライバーが直進で保舵しているなら、システムは何が何でもクルマをまっすぐ走らせるのだ。

 操舵トルクの軽さを表現するために、本国チームは「ハムスター・スタント」なる動画を公開。ステアリングホイールに円形のケージをくくりつけ、その中にニンジンで誘導するハムスターを走らせることでトラックを右へ左へ走らせ、九十九折りの悪路を走破するというプログラムで、見事完走している。

VDSの効能を示すためのデモンストレーション:ハムスター・スタント。ステアリングにハムスターが走るためのケージを設置し、「彼」をその中で走らせる力だけで巨大なトレーラーが操舵できるということを訴求した。ヒヤヒヤするシーンもありながら、無事に決められたコースを走破している。

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