祝!ノーベル化学賞受賞!——そもそもリチウムイオンバッテリーってなんだ?
- 2019/10/10
- Motor Fan illustrated編集部
旭化成・名誉フェローの吉野彰氏が、ノ=ベル化学賞を受賞された。リチウムイオンバッテリーの開発の功績によるもの。おめでとうございます。
現代社会において必要不可欠な蓄電装置となっているリチウムイオンバッテリー。そもそもほかの蓄電装置とは何が異なるのか、どのような性質を持つものなのか。あらためて振り返ってみよう。
電気は、作ったら作った分だけ即座に使うことが前提のエネルギーである。あとで使うことを考えるならばためることを考えなければならない。ため方は様々、それぞれに得手不得手がある。それらの特質を考えてみる。
それぞれの手段に備わる長所と短所を、適材適所で使い分ける
自動車の蓄電装置として現在実用化されているのは、鉛酸型、ニッケル水素型、リチウムイオン型などの二次電池、あるいはキャパシターに代表される電気素子である。電気はためるために直流でなければならない。よって、交流発電機が主流である現代の自動車の場合、これらの蓄電装置を働かせるためには必ず、交流を直流に変換するための整流器(レクティファイア)、ならびに交流発電機の回転変動によって変化する発生電圧を平滑化するための調圧器(レギュレーター)を伴わなければならない。
これらの蓄電装置のうち、圧倒的主流を占めるのは鉛酸型、つまり鉛バッテリーである。生産コストの面から有利で技術的蓄積も豊富、そして何よりスターターモーターを作動させるための大電流を一気に流せる特質が理由としてあげられる。自動車の黎明期には電気を要するのは点火装置のみだったが、灯火類が電灯となり、警報装置も電化され、空調、ラジオ、スターターモーター……と電気負荷は増加していったことから、6Vのシステム電圧は1960年代初頭に12V化を果たし、現在に至っている。電圧が2倍になれば、同電力であれば単純に計算して電流値は半分となり、ハーネス径や重量を抑えることができるのがメリットのひとつである。近年の自動車は燃費向上の観点から充電制御がなされ、鉛バッテリーに対する要求はさらに増している状況だ。
いっぽうで、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)における駆動用モーターのための電源としては、鉛バッテリーでは心もとない。下に掲載する表にあるようにエネルギー密度や重量あたり電力という視点では、鉛バッテリーではどうしても力不足。EV登場前夜にはコスト面から有利な鉛バッテリーを必要な分だけ搭載した車も存在したが、車両体積のほとんどが電池、車重も尋常ではなく──という状態になってしまった。
そこで、HEVやEVの販売価格を常識的な範囲に収め、かつキャビン容積をきちんと確保できる手段として、ニッケル水素/リチウムイオンの二次電池が登場する。前者における本格的な搭載事例は、やはり1997年に登場したトヨタ・プリウスだろう。後者は2014年現在ではHEV/EV用バッテリーとしてはもっとも優れた手段のひとつであり、各社の競争も非常に激しい。半面、鉛バッテリーに比べてエネルギー密度には非常に優れるものの、希土類を用いることにより高コストを余儀なくされること、充電制御が非常に難しく高度な技術を要することなどの面も併せ持ち、これからの課題も多い。
放電性能だけでなく、回生による充電受け入れ性能に優れていることも、現代の蓄電装置には必要だ。エンジン車では熱に変換して捨ててしまっている制動エネルギーを、モーター回生によってエネルギーを回収することこそ、HEV/EVの存在意義とも言えるからである。ブレーキペダルを踏んだときにモーター回生を用いることで制動力を生み出し、徐々にブレーキ液圧を高めていく協調回生ブレーキのみならず、アクセルペダルを戻したときにもすかさず回生のチャンスをうかがうのが現代の技術。ストップ&ゴーが多い走行状況では非常に頻繁な回生が行なわれる。高価な二次電池を小容量で用いて回生に対応するシステムも現れ始めたが、同等の充放電性能を有するキャパシターが登場を果たし、着目されている。長期間の蓄電に向いていない、重量あたりのエネルギー密度に乏しいというデメリットはあるものの、フルハイブリッドに比べて簡易で安価なシステムを組めるのが特徴である。
良質でコストに優れ、燃費低減にも寄与できる電源としての蓄電池の技術革新はとどまることを知らない状況だ。HEV/EVの著しい性能飛躍の鍵となるのはモーターよりもむしろバッテリーの技術であり、だからこそ世界各国のメーカーがしのぎを削る。そのいっぽうで、完全停止状態から走行スタンバイ状態にするためのシステム電圧は依然として12V系であり、鉛バッテリーへの期待は増しこそすれ、減ることは考えられない。
古来、自動車の生命線は電気であったが、100余年を経ても状況はまったく変わっていないのである。
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