踏力コントロール型を採用したMAZDA3のブレーキ、その特質とは
- 2020/01/05
- Motor Fan illustrated編集部
MAZDA3には踏力コントロール型のブレーキが採用されている。どちらかというとペダルストローク(踏み込み量)に反応するように制動力が立ち上がる一般的なブレーキに対し、踏力コントロール型ではペダルを踏みつける力の強弱に比例するかたちで制動力が引き出される。欧州車に多いと言われる踏力コントロール型だが、これらの間にはどのような違いがあるのだろうか。
TEXT:髙橋一平(TAKAHASHI Ippey)
踏力コントロール型の最たるものが、倍力装置(ブレーキブースター)を持たないレーシングカーのそれだが、市販車においては踏力コントロール型か否かにメカニズム的な差異はない。「〜型」という表現から誤解しがちだが、これらはブレーキフィールを仕上げる際の味付けの違いであり傾向と思って間違いない。両者の間には明確な境界線はないのだ。
そしてブレーキの味付けは、ブレーキブースターのサイズや仕様、マスタシリンダー径とキャリパーのピストン径の関係、ペダルの剛性、油圧配管の内径や材質、そしてブレーキディスクおよびパッドの材質などといった、さまざまな要素の組み合わせと、そのさじ加減から生み出されるわけだが、レーシングカーのブレーキが倍力装置を持たないように、基本的には力を増幅させる効果を抑えると“踏力コントロール型”の傾向が強まる。
棒などを使ったテコの原理を実際に体験したことがあればわかると思うが、その効果を高めようと(大きな力を得ようと)、支点から力点(基となる力を加えるところ)までを長くとると、作用点で大きな力が得られるいっぽう、棒のたわみによりが手応えは掴みにくくなる。自動車のブレーキに用いられる油圧システムは、いわば油圧の原理を用いたテコである。そう考えれば両者の違いもイメージしやすいのではないだろうか。ちなみにチューニング手法として知られる、ブレーキホースのメッシュ化、これは前述のテコで言うなら棒の剛性を高めることにあたる。(メッシュホースへの変更により)ペダルのタッチが硬くソリッドな印象に変化するのはこのためだ。
マツダによればブレーキフィールの作り込みにおいて、最も大きい影響があり、また設計自由度が高いのがブレーキブースターだという。MAZDA3ではペダルの踏み始めにおいて、ブースターによるアシスト力が急峻に立ち上がらないように工夫が凝らされているとのことで、これが踏力コントロール型の味付けを生み出す主な要因のひとつとなっているようだ。一般にブースターによるアシスト力の始点には、スイッチのように“ゼロイチ”状態で立ち上がる(ジャンプアップする)部分が存在するのだが、MAZDA3ではこの部分を“なます”カタチとして、アシスト力の立ち上がりを滑らかな曲線としている。
カギのひとつとなったのは、ブレーキブースターを作動させるうえでのトリガー的な役目を果たす、プランジャーと呼ばれる部品の形状。このプランジャーがリアクションディスクと呼ばれる部品に接触し、(リアクションディスクを)押し込むことで、アシスト力が立ち上がり、その力(アシスト倍率)はリアクションディスク全体の面積と両者が接触する部分の面積の比率で決まるのだが、プランジャーが押しつけられる力(=ペダル踏力)に比例して、接触部の面積が拡大するようになっており、アシスト力が滑らかに立ち上がる仕組みだ。
実際に乗ってみると、ブレーキの効き始めから先のペダルストロークが短めの、踏力コントロール型の典型といえる操作感。筆者が最初にブレーキペダルを踏み込んだ時の第一印象は、「思ったより止まらない」だったのだが、止まらない、制動力が足りないと思えば、人間は自然とペダルを踏み足すもので、そこから先はきちんと制動力が立ち上がる。もちろん制動力に不足はないし、踏力にリニアに反応するためにコントロールしやすい。停止寸前で踏力を抜いていくときでも、リニアリティが維持されており、(停止寸前で)フロントが伸び上がってくるサスペンションの動きに容易に(ブレーキを抜く動作を)同調させることができる。
しかし、これは筆者の好みの問題なのかもしれないのだが、ブレーキパッドがディスクに接触したときのバイト感(食いつき感)が、ごく初期のわずかな部分ではあるが控えめに感じられるところがあり、なかなか慣れることができなかった。コーナーが連続するワインディングを流すように走る場面では、すぐに順応できるのだが、それもブレーキをしばらく使わない区間が続くと、感覚がリセットされてしまう。よほど筆者がダメなフツーのブレーキに骨の髄まで慣らされてしまっているのか…… とはいえ、職業柄さまざまなクルマに乗る機会があり、そのなかには踏力コントロール型のものも少なからずあるのだが、正直あまり意識させられた記憶もない。思えば、ギヤ比が大きくとられたステアリングでも、試乗開始後初めての曲がり角で一瞬面食らったのだが、これは本当に一瞬だけで、曲がらないと思って切り足すことですぐに解決。むしろその後はベタ惚れになったくらいだ。
と、ここまでは通常のエンジン(ガソリン/ディーゼル)を搭載するモデルの印象で、SKYACTIV-X搭載モデルの印象は若干異なる。というのもこちらはM Hybrid(24Vマイルドハイブリッドシステム)による協調回生が行われるため、ブレーキがバイワイヤ式となっているのだ。
マツダによれば両者の間でブレーキフィールに差が生じないよう、通常モデルのコンベンショナルなブレーキに合わせるカタチで、バイワイヤ式ブレーキの制御システムを仕上げたという。確かに、実際の試乗で両者を乗り換えても大きな差は感じられず、狙い通りとなっていることが確認できたのだが、わずかではあるが違いもあった。これも筆者の主観によるところが大きいものの、SKYACTIV-Xのバイワイヤ式のほうが、ブレーキの効き始めから先のストロークが若干長め、初期のバイト感もわずかながら強めの印象。コントロール性という意味でもこちらの方が筆者の好みに合うものだった。
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