内燃機関超基礎講座 | ホンダ初の直噴ターボユニット:WRC/WTCC用[HR-412E]
- 2021/05/04
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世良耕太
ホンダは2011年、F1エンジンの開発を行なっていた若手エンジニアを中心に、「高効率レースエンジン」を研究する目的で直噴ターボの開発を始めた。WTCCに参戦することが決まったのは、2012年2月。レース経験の豊富なホンダにとってさえ、未知の技術領域が待ち構えていた。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:山上博也/Honda
2008年のF1撤退後、ホンダはどのような形でモータースポーツとの関わりをつづけていくか、模索していた。量産エンジンもレーシングエンジンもターボと直噴技術で高効率化を狙う流れにあるのを感じ取ったホンダは、「高効率エンジン」をテーマに開発をスタートさせることにした。そう考えて世界を見渡してみるとき、狙いに合致したのが、FIAの「スーパー2000キット変形」で規定される、1.6ℓ・直4直噴ターボだった。WRCとWTCCに展開可能なユニットである。
ターボラグの解消を図るアンチラグシステム(ALS)は、ホンダが初めて取り組む技術だ。スカベンジポンプは当初、バランサーシャフトと同軸にし、クランク回転数の2倍で回す設計だったが、フリクションが増えてうま味が感じられず、実戦エンジンではコンベンショナルな形態にした。
冷却水の流量を確保するためにはウォータージャケット内の圧損を低くする必要があり、シリンダーヘッドは4気筒を並列で流れるレイアウトとした。エンジン圧損は水流量100ℓ/分で50kPa以下だという。シリンダーブロックに挿入するライナーは冷却水が直接接するウェットライナー。電動ウォーターポンプを駆動する必要があることもあり、大容量(140A)のオルタネーターを使う。
エンジンは25度まで後傾させることが認められているため、規定いっぱいで設計。傾いた結果スペースが生まれたため、2次バランサーシャフトの搭載位置をクランクケース下部に移動させた。損失につながるため、レーシングエンジンでバランサーシャフトを採用するのは異例だが、振動によって発生する各種トラブルの回避を優先。実戦エンジンを短期間で完成させるため、あえて採用した。
■ HR-412E 主要諸元
搭載角度 後傾25度
シリンダー数 直列4気筒
ボア×ストローク 81×77.4mm
排気量 1595.4cc
ボアピッチ 94.4mm
ブロックデッキ高 210mm
メインジャーナル径 55mm
クランクピン径 46mm
コンプレッションハイト 32.1mm
ピストンピン径 22mm
コンロッド長 138.6mm
カムジャーナル径 29mm
バルブ挟み角(In/Ex) 10度/10度
バルブリフト量(In/Ex) 12mm/10.5mm
バルブステム径 6mm
バルブ径(In/Ex) 30.2mm/29.2mm
スロットルボア径 50mm
インテークチャンバー容量 10.06ℓ
インタークーラーコアサイズ 555×210×68mm
ターボチャージャー GARRETT GTR2560R
電動ウォーターポンプタービン径 45.5mm
高圧燃料ポンプリフト 4mm×3山カム/カム軸駆動
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