718ボクスターGTS×BMW Z4 M40i比較試乗記 ポルシェ718ボクスターとBMW Z4を乗り較べ! 魅力的なスポーツカー2台どちらを選ぶ?
- 2019/07/17
- GENROQ編集部
同じオープン2シーターでありながらまったく異なる性格を持つ2台。ミッドとフロントに積まれるエンジンは確かに異なるがそれぞれに抗えない魅力を持っているのは事実だ。スポーツ性能に限らない日常性や社会性も含めて多角的に考察する。
REPORT◉塩見 智(SHIOMI Satoshi)
PHOTO◉神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
※本記事は『GENROQ』2019年7月号の記事を再編集・再構成したものです。
純粋にクルマを速く走らせるのが目的ならば、一番の重量物であるエンジンが車両の中央付近にあり、慣性モーメントが小さく、加速時に駆動輪に荷重がかかりやすいミッドシップ車のほうがフロントエンジン車より理想的なレイアウトと言える。どちらが操って楽しいかという話は、また別の実に奥が深いテーマとして存在するが、そうではなくもう少し次元の低い話を許してもらうならば、フロントエンジン車のほうが絶対的な安心感を抱ける。
これはおそらく過去の運転経験に起因するものであり、単に私がフロントエンジン車にしか親しんでこなかったということだろう。とにかくミッドシップ車よりもフロントエンジン車のほうが、どうしたって気負いなく運転することができるのだ。ミッドシップは、そうと聞いただけで気負ってしまう。
言い換えると、リヤエンジン車およびミッドシップ車を運転するのは私にとって非日常体験であり、ハレの日の行事であり、ワクワクする体験だ。今回、718ボクスターGTSの運転席に座ってみて、あらためてそのことをひしひし感じた。
ボクスターのドライビングポジションを合わせ、エンジンを始動する。ステアリング、3つのペダル、シフトレバー、細かいところではウインカーレバーとワイパーレバーなど、このクルマのすべての操作系は遊びが少なく、カッチリとしている。精度の高さを感じさせるこうした点も、多くの人が感じるポルシェの満足感のひとつのはずだ。
山道を走らせる。低いボクサーサウンドを轟かせる2.5ℓ水平対向4気筒ターボエンジンは、どの回転域でも力感に満ちている。2速や3速で確かめるようにアクセルを踏み込むと、踏み込む量や速さに忠実に反応する。ターボらしさはほぼ感じず、6気筒自然吸気時代を思い出させるフィーリングだ。
加速が鋭いのは、365㎰と420Nmという絶対的な力強さに加え、重いエンジンが後輪を押さえつけながら加速するからでもある。まるでトラクションの鬼。そして旋回時には自分とその背後のエンジンを軸としてひらりひらりと向きを変えてくれる。ミッドシップの真骨頂だ。まるで718が「911の廉価版ではない!」と叫んでいるようだ。
ただ曲がりやすさは回りやすさだ。時折雨が降っていたこともあり、下りのコーナー進入時にはヒリヒリとした緊張感が伴った。実際の限界はまだまだ先にあるはずだが、ヨーモーメントの小ささをそこそこのペースでもはっきり感じられるため、もしかして限界はすぐそこ? とも思えてくるのだ。血眼になって飛ばさずとも刺激的なのは、ミッドシップの功罪だろう。
ボクスター同様、10秒もかからない短時間で、しかも走行しながら開閉が可能なZ4のソフトトップを、雨が降りやんだタイミングで開け放った。開放感がある。ソフトトップ越しに聴く直6サウンドも上品で悪くないが、やはりオープンにして直接聴くほうが耳に心地よい。ただボクスターよりも澄んだ音質で、音量もずっとおとなしい。
Z4のスタイリングはロー&ワイド。ボンネットが長く、乗員が後ろのほうに位置する古典的かつ教科書的なスポーツカーのプロポーションをもつ。ビューティというよりビースト系のフロントマスクは先行車のルームミラー越しに見ると、なかなかの迫力だ。ボンネットにもボディサイドにも前後バンパーにもさまざまなキャラクターラインが入っており、やや要素が多くガチャガチャしているようにも見える。ツルンとしたボクスターと並べるとよけいに。
340㎰、500Nmの3ℓ直6エンジンはおそろしく滑らかによどみなく回転していくがゆえに、かえって力強さを感じにくいこともある。ラグジュアリーサルーンに多い、スピードメーターを見て初めて「こんなに出てたのか!?」と驚かされるタイプだ。
ただし走行モードでスポーツプラスを選べば話は別。一気に獰猛な音とレスポンスを発揮する。最もおとなしいエコプロモードとスポーツプラスモードの性格の差は、ボクスターのノーマルモードとスポーツプラスモードの差よりも大きい。
スポーツプラスモードを選ぶとどちらもカミソリのような切れ味になるが、ボクスターがノーマルでもいわゆる“旦那仕様”にはならないのに対し、Z4でエコプロモードやコンフォートモードを選ぶと、かなりおとなしい性格となる。
その振れ幅はスポーツカーとして小さいほうがよいのか大きいほうがよいのか。それは考え方次第だが、しびれる刺激を味わうなら大昔のスポーツカーでも可能だが、時には安楽に過ごしたいという希望は現代のスポーツカーでしかかなえられないことを考えると、より現代のプロダクトらしいのはZ4のほうだろう。
Z4で街中をしばらく走らせてわずかに違和感を抱いた。左足のスペースが窮屈というほどではないが、右足と左右対称に近い姿勢をとるのが難しいのだ。フットレストはきちんと設置されている。3ペダルのボクスターのほうが両足の自然な姿勢をとることができた。長い直6をできるだけ後ろに搭載した結果、トランスミッションが手前へ食い込んできた影響だろうか。目くじらを立てるほどではないが、今回のZ4は右ハンドルの国のメーカーとコラボレーションしたモデルだ。それを考えるとちょっとだけ不満だ。
違いはあれど、それぞれに満足度の高い2台。世間にはもっと高価なスポーツカーも安価なスポーツカーもあるが、価格に対する性能と満足度の高さでいえば、1038万円の718ボクスターGTSと835万円のZ4 M40iは、あえて安っぽいがわかりやすい表現を使うとすれば“コスパ”が高い。自分のものにして毎日使うなら、冒頭に長々書いた理由からより安心できるZ4だろうか。ポルシェに憧れを抱きつつ。
Porsche 718 Boxster GTS
ポルシェ718ボクスターGTS
■ボディスペック
全長(㎜):4385
全幅(㎜):1800
全高(㎜):1270
ホイールベース(㎜):2475
トレッド Ⓕ/Ⓡ(㎜):1527/1535
車両重量(㎏) (EU):1400
■パワートレイン
エンジンタイプ:水平対向4気筒DOHC24バルブ+ターボ
総排気量(㏄):2497
ボア×ストローク(㎜):102×76.4
圧縮比:9.5
最高出力:269kW(365㎰)/6500rpm
最大トルク:420Nm(42.8㎏m)/1900~5500rpm
■トランスミッション
タイプ:6速MT
■シャシー
駆動方式:RWD
サスペンション フロント:マクファーソンストラット
サスペンション リヤ:マクファーソンストラット
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ
フロント(リム径):235/35ZR20(8J)
リヤ(リム径):265/35ZR20(10J)
■パフォーマンス
最高速度(㎞/h):290
0→100㎞/h加速(秒):4.6
■環境性能
燃料消費率(ℓ/100㎞:EU複合):9.0
CO2排出量(g/㎞:NEDC複合):205
■車両本体価格(税込) (万円):1038
BMW Z4 M40i
BMW Z4 M40i
■ボディスペック
全長(㎜):4335
全幅(㎜):1865
全高(㎜):1305
ホイールベース(㎜):2470
トレッド Ⓕ/Ⓡ(㎜):1595/1590
車両重量(㎏) (EU):1570
■パワートレイン
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ
総排気量(㏄):2997
ボア×ストローク(㎜):94.6×82
圧縮比:11.0
最高出力:250kW(340㎰)/5000rpm
最大トルク:500Nm(51.0㎏m)/1600~4500rpm
■トランスミッション
タイプ:8速AT
■シャシー
駆動方式:RWD
サスペンション フロント:マクファーソンストラット
サスペンション リヤ:5リンク
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ
フロント(リム径):235/35ZR19(9J)
リヤ(リム径):275/35ZR19(10J)
■パフォーマンス
最高速度(㎞/h):250(電子制御作動)
0→100㎞/h加速(秒):4.5
■環境性能
燃料消費率(ℓ/100㎞:EU複合):7.4〜7.1
CO2排出量(g/㎞:NEDC複合):168〜162
■車両本体価格(税込) (万円):835
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