マツダのクルマづくりの本質が「運転する楽しさをより多くの人に提供すること」なら、ロータリーエンジンはなくしてはならない ロータリーエンジンの可能性⑨
- 2020/04/25
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世良耕太
ロータリーエンジンは原理的に熱効率を上げるには難しいという宿命がある。だからいまは姿を消しているわけだが、モーターのように回るフィールは一度味わったら病みつきになる。RX-8に300kmほど乗って、次期ロータリーエンジン搭載車のあり方をモータリングライターの世良耕太氏が考えた。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
ロータリーエンジンがあってこそのRX-8
マツダRX-8に載っているエンジンが「ロータリーでなかったとしたら」と想像してみた。レシプロエンジンが載っていたとしたら(そもそもパッケージングが成立しないが)、魅力は半減したことだろう。ロータリーエンジンがあってこそのRX-8だ。エンジン始動時からロータリーエンジンの主張が始まる。
ステアリングコラムの右脇にある突起をひねると(カードキーなので差し込みはない)、レシプロエンジンとは明らかに異なる独特の音を立てて、RENESISの愛称を持つ13B-MSP型、総排気量654cc×2の縦置き2ローター・ロータリーエンジンは目覚める。RENESISは(ターボ過給は行なわず)自然吸気で、最高出力は235ps(173kW)/8200rpm、最大トルクは216Nm/5500rpmだ。
ロータリーは振動面で有利というのが定説だが、振動は「ない」と言ったらウソになり、確かに「ある」。直列4気筒エンジンを積むロードスターほどではないにしても、アイドリング中のRX-8のシフトノブは、ブルブルと小刻みに震えている。レシプロエンジンのようなピストンの往復運動に起因する振動はないが、クランクの回転運動にともなう振動は発生する。ただし、ロータリーは偏心量が小さいのに加え、2ローターの場合はお互いにその振動を打ち消し合うので、レシプロに対して有利だ。
計算は省くが、4サイクルエンジンがクランクシャフト2回転(720度)で1回爆発するのに対し、ロータリーエンジンは1行程でクランクシャフトが3回転(1080度)し、ローターの3辺で各行程が同時進行しているので、3回爆発する。つまり、4サイクルエンジンの倍の爆発回数が得られるため、回転はスムーズだ。2ローターは爆発間隔が密になるので、さらにスムーズになる。ロータリーエンジンの気持ち良さの一因は、まさにここにある。
ロータリーエンジンの回転フィーリングは「モーターのように回る」と形容されるが、スムーズなのはモーターと同じでも、ロータリーエンジンの場合は燃焼にともなう鼓動をともなったスムーズさだ。これが、一度味わったら病みつきになる理由だろう。市街地を周囲の流れに合わせて走っているだけでも、スムーズな回転フィーリングと、密な鼓動を感じさせる乾いたサウンドのシンクロを浴びるだけで幸せな気分になる。
スターティングトルクも充分にあり、アクセルを煽ることなくクラッチを戻すだけでスムーズに発進する。高い回転数まで引っ張って次の段に受け渡す必要はなく、ショートシフト気味に次の段につないでも、ストレスなく加速する。しかも、レスポンスがいい。アクセルペダルを踏み込めば、即座に加速感という答えを返してくれるし、そのまま踏み続けていると、官能的なサウンドを発しながら伸びやかに加速していく。8500rpmから始まるレッドゾーンはダテではなく、高回転まで滑らかに回るし、リニアに力を発生する。レシプロエンジンにはない「味」だし、スポーツ走行との相性がいい。
市街地から高速道路まで、日常的な走行において気を遣う場面は一切ないし、スポーティに走ろうと思えばドライバーの意志に忠実に応えてくれる。こんなに素晴らしいエンジンはないと思う一方で、生き延びることができず、生産中止に追い込まれた理由にも見当がつく。燃費が悪い。
307.1km走った時点で指定の無鉛プレミアムガソリンを給油した。高速道路の走行は約3割(約90km)であり、給油量は42.38ℓだった。燃費は7.2km/ ℓだ。気持ち良さの代償として受け入れるかどうかは受け止め手の気持ち次第だが、燃費基準をクリアしないとペナルティを科される自動車メーカーにとっては、気持ちの問題では済まされない。10・15モード燃費は9.4km/ ℓである。RX-8が発売されたのと同じ03年にデビューした2代目プリウスの10・15モード燃費は35.5km/ ℓだった。
ロータリーエンジンが熱効率を高める(燃費を向上させる)には原理的に限界がある。燃焼室が偏平で細長い形状をしているため、燃焼速度が遅く、燃焼サイクルの効率は低下してしまう。また、燃焼室の表面積が大きく、冷却損失が大きい。シールの線が長く、ガスの漏れが多い。リーン燃焼にしたりHCCIにしたりといった改善策は考えられるが、ロータリーエンジンがその構造上本質的に抱える弱点の解決にはならない。
それは承知していても、この世からなくしてしまうのは余りにも惜しい。マツダのクルマづくりの本質が「運転する楽しさをより多くの人に提供すること」とするなら、ロータリーエンジンはなくしてはならないと、切に願う。発電専用のエンジンとして復活させるなど、有名歌手をAIで復活させるようなもので、冒涜ですらあると個人的には思う(ファンはそういう復活を望んでいるのか? 運転して楽しいか?)。
もちろん、最新の技術を駆使して燃費性能と排ガス性能を高め、法規制をクリアするだけの性能を確保する必要はある。それ以上はコストとのバランスで、同じコストを別のエンジンに費やしたほうが企業平均燃費は向上するなら、その方面に費やすべきだと思う。運転する楽しさと引き換えに払う代償は、ロータリーエンジンを愛するユーザーが負担すればいい。それでも、ロータリーエンジンが「ない」世の中よりは、「ある」世の中のほうが幸せだ。
※次回は、「RENESISに至る技術課題と改善手法」をお送りします。お楽しみに。
マツダ ロータリーエンジン 13B-RENESISに至る技術課題と改善手法 ロータリーエンジンの可能性⑩
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