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ロータリーエンジンは「主流になれなかったエンジン」ではない ロータリーエンジンの可能性 最終回

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バンケル型ロータリーエンジンの完成がNSUから発表されたのは1959年だった。
この発明に対し、日本からは34社、世界中では100社以上から技術提携の申し込みが殺到した。
その8年後、マツダはRE搭載モデル「コスモスポーツ」を発売する。
しかし、70年代半ばまでにほとんどの自動車メーカーがRE開発を中止してしまった。
ヴァンケル型ロータリーエンジン(RE)の完成がNSUから発表されたのは1959年だった。この発明に対し、日本からは34社、世界中では100社以上から技術提携の申し込みが殺到した。その8年後、マツダはRE搭載モデル「コスモスポーツ」を発売する。しかし、1970年代半ばまでにほとんどの自動車メーカーがRE開発を中止してしまった。もし、マツダ以外の数社が実用型REを完成させていたとしたら、REの進歩はライバル同士の切磋琢磨によって加速されていたかもしれない。

TEXT :牧野茂雄(Sigeo MAKINO)
PHOTO:瀬谷正弘アーカイブス(Masahiro SEYA Archives)

 幸か不幸か、マツダは世界で唯一の自動車用ロータリーエンジン(RE)メーカーになってしまった。現在、市販車用REの生産は中断されているが、レンジエクステンダーEV(電気自動車)用発電エンジンとしてREを使うことが2年前に発表されている。REが消えてしまったわけではない。

 ひとつ思うことは、もし、マツダにREでのライバルが存在したならば、そこに競争が生まれ、RE進化の速度はマツダ独占のケースより速まっていただろうということだ。切磋琢磨は工業製品にとって不可欠である。一時はトヨタもGMもREの実用化を目指した。しかし、結局は途中で投げ出してしまった。REを「開発に巨費を費やすほどのエンジンではない」と判断した自動車メーカーは多かった。

 しかし、マツダはREをモノにした。最初のRE開発に携わった47人のエンジニア諸氏の苦労話は、過去にも幾度となく世の中に紹介されたので、あらためて紹介する必要はないだろう。マツダがまだ東洋工業という社名だった時代の「四十七士の物語」は、あまりにも有名だ。「夢のエンジン」ともてはやされたヴァンケル型REのライセンスを購入したのは、東洋工業のオーナー社長だった松田恒次氏だ。1961年(昭和36年)のことである。創業者で初代社長だった松田重次郎氏の長男であり、社長が自らプロジェクトの先頭に立ち、巨額の開発費を投じるという経営判断を下したことが、何が何でもREを実用化するという決意の大前提だったように思う。ちなみに、恒次氏は広島東洋カープの初代オーナーでもあった。

マツダの研究所に保存されている10A型RE。2ローター2プラグという方式は現在も変わっていない。1967年にコスモスポーツに搭載されてデビューしたこのエンジンは、わずか982ccでネット110psを発生した。
現在のREと比べると、補機類も吸排気系もシンプルだ。市販車では、キャブレターの上にエアクリーナーが載る。円板状のものはフライホイールで、ここにトランスミッションが連結されていた。41年前のことだ。

 東洋工業がREに着目した最大の理由は、自動車メーカーとして生き残るためだった。試作エンジンが完成していたとは言え、REはまったく未知のエンジンだった。それをオーナー社長が自ら、パテント購入を決断した。1967年にマツダ初のRE搭載モデルが登場するまでの6年間の苦労は並大抵のものではなかったと思う。しかし、後発の自動車メーカーであるマツダが、政治的思惑も渦巻く国家の自動車産業政策のなかで存在感を主張するためには、前人未到の技術をモノにするしかなかったという事情もある。

 そして、マツダがRE開発に成功すると、マツダにいくつものオファーが舞い込んだ。当時を知るマツダOBで、元RE開発エンジニアだった室木巧氏にインタビューしたときに伺った話が興味深い。
「マツダには中国やソ連(当時)など共産主義国からのオファーが多かった。マツダのREを入手して基礎開発はやったものの、製造ノウハウがわからない。ぜひ技術移転をお願いしたい」
と打診されるケースが多かったそうだ。「飛行機エンジンとしてREを利用したい」という打診もあったと伺った。

 実際、旧ソ連時代から国営自動車メーカーのアフトワズ(VAZ)でREは生産されていた。マツダ製REをリバースエンジニアリングでコピーしたものだと思われ、部品は「共有できた」とロシアの愛好家からは聞いたことがある。21世紀に入ってからはオーストリアのエンジニアリング会社であるAVLが小型の発電用REを開発し、中国の独立系(非国営)自動車メーカーである奇瑞汽車が試作のレンジエクステンダーEVに採用していた。実際に市販されたかどうかは不明だ。

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