日産デザインのトップ アルフォンソ・E・アルバイサ氏に聞く / カースタイリング Vol.20 (2019年3月発売号)より ニッサン、インフィニティ、ダットサンに新たな息吹を。3ブランドに共通の「基礎(ファンデーション)」を採用
- 2020/06/09
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MotorFan編集部
日本の美意識に触れる。より深くその起源にまで戻り…
(アルバイサ)第一ステップとしてやらなければいけないのは、アジアの文化とも比較してなぜこれほどにも違うのだろうか、という理由を理解する必要があると思います。
そして我々は1万年前に遡りました。その時代にアジアから離れ日本列島に人が入ってきた。極めて美しい島ですが、生活は今でも大変です。つまり生活危険でもあり、地震、火災もある。それから農耕、酪農をするのも大変でした。したがって、社会でみんなが一緒に働くというように取り組んだ。つまり困難も共にして、そして変わりゆく変化、移ろいの中に美を見出すことを日本人は探り当てたのだろうと思います。
(松永)つまり環境の厳しさを克服していったことで、その変化の中に美しさを見出すことができるようになったということですね。
(アルバイサ)一つ素晴らしいことを思いだしました。変化を受け入れるということですが、これはアメリカ文化の方が容易ではないか、とも思われます。何故ならばアメリカ文化の方が歴史は短いので、変化を受け入れるということが容易にできるのではないかと思われるからです。ところが、日本ではそうではないと思います。
大好きな言葉に「お疲れさま」という言葉がありますが、人や自分がやっていることに対して、100%エネルギーを注ぎ込むのが日本人です。そういう気質があるとすると、変化を受け入れることは極めて難しいのではないか、と思われるわけです。100%エネルギーを注ぐことと、変化を受け入れることの間には矛盾があるのです。
(松永)これをデザインにどのように表現するかということですね。
(アルバイサ)形が非常に密でなければならないと思います。日本の文化のようにシンプルであっても密(インテンス)にフォーカスしたものでなければならない。なおかつ変化に対して寛容である、オープンマインドである。つまりなんらかの流動性が必要になります。つまり形式にとらわれないで、ある程度流動性を持っている。これが日本の文化だと思います。「侘び寂び」と「移ろい」はある程度重複する部分もあるかと思います。つまりすべてのことは、いつまでも永遠に存在するのではないということです。これは私にとって、これは予想外のことでした。
日本の同僚も本当に一生懸命に取り組んで、フォーカスしてやるのですが、弱音を吐いたり、疲れたということをいわないんですね。そして次の日にそれが終わりになったとしても、それでもいいんだと。これは西洋の文化ではあり得ないことだと思います。一生懸命やったことはいつまでも続いて欲しいと考えます。明日に終わりになるのであれば、それはいい加減にしかやらないですね。これは日本と他の国の違いだと思います。
(松永)それは理解していましたが、日本独特のものだとはあまり考えたことはなかったですね。
(アルバイサ)私はデザインやチームに本当にシリアスであって欲しいし、専心してやって欲しいと思っています。でも、もしかすると明日は違うことに刺激を受けるかもしれない。それでもいいと思うのです。その代わり明日はまた違う影響を受けたものに追っていって、そこでまたシリアスになっていくと。
(松永)確かに「形あるものは壊れる」とは日本人のだれしもが思っていることです。どこかで壊れてしまうことは、必ずあると。
(アルバイサ)また、日本の美学の一つに「好奇心」があると思います。
(松永)「好奇心」ですか。
(アルバイサ)第二次世界大戦前は日本人は一つの同じ方向に向かっていました。しかし大戦後はまったく違う方向に向かっても、それが無駄なく自然にできた。1950年代は戦後の復興の時期だったと思います。
そして60年代は世界を探索していこう、という時代に入り、日本のもの作りを変化させた。その結果がソニーであり、日本の自動メーカーだったと思います。そして海外にデザインスタジオを持ったのは、日本の企業が初めてでした。トヨタが初めてカリフォルニアにデザインスタジオをもち、それから1-2年おくれて1979年のことですが日産が2番手でした。
好奇心を持って外から学ぼうとする性格が、日本の力強い側面の一つであると思います。これもまた、変化を受け入れるということですね。
(松永)なるほどですね。面白いです。
(アルバイサ)しかし、今お話ししたことは、ほとんどがすでに歴史になっているということです。今後については、著しいムーブメントは中国にあると思っています。宇宙飛行士の精神といいますか、もはやアメリカやヨーロッパに行く必要はないと思います。今多くの日本企業が進出していますが、私も中国のことをすべて理解してはおりません。
(松永)確かに独特の価値観は、わかりにくい国なのかもしれません。
(アルバイサ)中国人のマインドセットと日本人のマインドセットには違いがありますが、これがどんどん開いて行っているように思います。非常に新しいエネルギーに溢れた力強い国です。これは日本にとってもいいことですので、多くを中国から学ぶべきではないかと思います。
ですから次の「移ろい」は中国ではないかと思います。
(松永)ところで、日本の好奇心の強さ、世界から学びたい気持ちの反面、日本人が日本の車に対して感じているのは個性がないということです。
(アルバイサ)なんとなくわかります、日本人は個性がないと感じるのはそうかもしれないのですが、もう一度考えください。240Z、300Z、GT-R、初代Murano、初代FX、インフィニティGクーペ、Gセダン、そして初代Q45など。これらはすべて、日本人のデザイナーがデザインしました。実際Muranoのデザインコンペでは、私はライバルに勝つことができませんでした、ナンバー2だったのです。しかしスタジオに入った時に私自身も自分のデザインを忘れてしまうほどに、目を奪われたのです。その時のことをよく覚えています。
99年、若林昇さんがデザインヘッドだった時に、Murano、Jikoo、Cube、Micraなどを手がけられた。あるいは89年には清水潤さんが指揮をとり、いわゆるパイクカーであるFigaroやBe-1、初代Cefiro、300Z。そうしたものを発明されたかたがいるのです。
私の仕事はとてもシンプルだと思います。あの時のマジックをもう一度探してみたいということなのです。
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