[毎週月曜日朝更新企画]自動車業界ウラ分析「スバルの次世代パワートレーンはどうなるのか? トヨタ、マツダ、スバルでアイシンを使う?」 電動化を見据えてスバルのリニアトロニックCVTはどうなる? 水平対向を縦置きするスバル、トヨタ、マツダのFR用縦置きAT=アイシン製を3社で使う?
- 2020/07/06
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牧野 茂雄
現在、マツダは横置きFF(フロントエンジン・フロントドライブ)用スカイアクティブATを自前で生産しているが、一部の部品はアイシン・エィ・ダブリュ(AAW)から供給を受けている。AAW はトヨタグループ企業だ。おそらく、2023年に登場するであろうFRのマツダ6には新生アイシン製のトランスミッションが搭載されているだろう。これが筆者の予測である。
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来年3月、アイシン精機とAAWが経営統合する。AAWが携わってきたトランスミッションの開発・製造とカーナビゲーション事業は新会社である「株式会社アイシン」に引き継がれる。AAWは昨年4月にマニュアルトランスミッション(MT)専業のアイシン・エー・アイ(AAI)を経営統合しており、変速機全般の開発が可能だ。現在すでにAAWは世界最大の変速機メーカーであり、その製品はトヨタ、ドイツのVW(フォルクスワーゲン)、フランスのPSAなど世界のメジャー自動車グループに供給されている。
AAWは電動モーターと変速機構を一体化したHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=ハイブリッド車)ユニットでは、横置きFF用と縦置きFR用の両方で実績がある。最新作であるFF用1モーター2クラッチHEVユニットはフランスのグループPSAがファーストユーザーになり、初年度に年間5万基の採用を決めている。
AAWはトヨタグループ企業だが、同社のステップ(有段)ATはじつに多くの欧州メーカーが採用している。かつてGMグループだったオペル/ボグソールはAAW製の6ATを使っている。VWはゴルフやパサートにAAW製6ATを使ってきた。日本ではVWといえばDCTだが、欧州仕様には6ATがあった。中国で生産されるVW車は、じつにその半数がAAW製6AT搭載モデルだ。この流れから最新の8代目ゴルフにもAAW製8ATが採用された。PSAはプジョー/シトロエン/DSともにAAW製ステップATの大口ユーザーであり、PSAがオペル/ボグソールを買収した現在、PSAはAAWにとってさらに重要なパートナーになった。
ここに挙げた欧州メーカーのモデルは、たとえ同じAAW製ステップATを採用していても、変速プログラムや走りの味はまるで違う。ここはエンジンとの協調制御でどうにでもなる。社名をアイシンに改めたあとで登場するトヨタ/マツダ共用のエンジン縦置きFR用トランスミッションも同様だ。北米や中国で人気がある通常のステップAT(8速?それとも9速?)も開発されるだろうが、当然、EU(欧州連合)のCO2(二酸化炭素)排出規制に有利なPHEVトランスミッションが含まれるはずだ。
EUでは2023年にCO2規制スケジュールおよび規制内容のレビューが行われる予定だ。中でも注目されるのはECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル=外部から充電できる車両)の扱いだ。BEV(バッテリー電気自動車)とPHEVをEU委員会やACEA(欧州自動車工業会)はECVと呼ぶようになった。個別にBEV、PHEVという名称を意図的に使わないようにし始めたのだろうと筆者は考えている。
いま、EUのBEVはすべてCO2ゼロという勘定だ。発電方法が石炭火力でも風力でも同じ。とにかくゼロ。PHEVは電動だけの走行距離に応じてCO2排出は1/2、1/3、可能性としては1/4にもなるという計算式を使っている。超優遇PHEVである。しかし、これをしないと高級車メーカーが生きて行けない。欧州の高級自動車ブランドはEU経済にとっても財産であり、ぜひとも守りたい。だからPHEVのCO2カウント方法は特殊なのだ。
もし、BEVのCO2排出を発電方法を考慮したLCA(ライフサイクル・アナリシス)ベースにすると、ゼロではなくなる。しかしEU委員会はゼロ計算のままで通したい。これは筆者の憶測だが、2023年のレビューでドイツがLCAベースを主張したとき、EU委員会は「PHEVの恩典も薄れますよ」と脅したいがためにECVという表現を使っているのではないだろうか。何か裏の意図があるように思えてならない。
トヨタに話を戻すと、重量級FR車のPHEV化が当面の課題だ。トヨタはEU市場にHEVを多数投入しているが、FR車のPHEVがない。これを単独ではなくマツダとの相乗りで揃え、マツダもコストメリットを得る。そして、どこからともなく聞こえてくる「リニアトロニックはあと2年」というウワサもひっくるめて考えると、エンジン縦置きモデルのためのアイシン製新型トランスミッションをトヨタ、マツダ、スバルの3社が共有するというシナリオは、けして荒唐無稽ではない。
この新生アイシン製PHEVユニットには、現在のPHEVとは少し違った考え方が入るような気がする。BEVとしての航続距離が増えればCO2排出計算で有利になるPHEVだが、バッテリー搭載量を増やすと車両重量が重たくなる。ここを手当てできるようなPHEVを考えているような気がする。そしてスバルは、現在の「クロスバック」のために考えたPHEVユニットの次世代品として使う。たとえばトヨタが年間60万基、スバルとマツダが20万基ずつなら合計100万基だ。これから量産効果は十分に期待できる。
もちろん、すべては筆者の推測である、しかし、考えれば考えるほど、いろいろな発展系が頭に浮かんで来る。次世代パワートレーンはけして「電気一本足」ではない。VW「ID.3」の廉価仕様3万ユーロという戦略的価格には驚くばかりだが、VWはフォードとのBEVの相乗りでコストメリットを出しながら、一方ではSUV陣営の強化を進めている。VWは「電気でもエンジンでも、どっちへ転んでも対応できる戦略」を進めている。そのために量産数をそろえる。トヨタもまったく同じ考え方のはずだ。パワートレーンもプラットフォームも「数量」がますます重要になってくる。つい先日発表された「スズキ版RAV4」も、まさに数の戦術だと言える。
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