大規模リコール発展の可能性大。シートベルトでもデータ改ざん疑惑 タカタという会社はどうなっていたのか?
- 2020/10/19
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牧野 茂雄
欠陥エアバッグのリコール費用と賠償金によって経営破綻した旧タカタで、今度はシートベルトの試験データ改ざんの疑惑が浮上した。タカタの事業を引き継いだジョイソン・セーフティ・システムズ・ジャパン(以下=JSSJ)が現在、社内調査を進めている。発覚は「社内からの通報」だったというが、リコール(欠陥車の無償回収・修理)を行なわなければならない自動車メーカーが何社になり、その対象車種が何モデルになるのかは、まだわかっていない。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
この件が最初に報じられたのは10月13日だった。「法令で定める強度を満たしていないシートベルトを自動車メーカーに供給していたことがわかった。国土交通省によると社内検査でデータを改ざんして出荷していた」と日本経済新聞が報じた。以下、10月13日・20時03分の記事を引用する。
「関係者によると、JSSJの滋賀県彦根市の工場で製造したシートベルトの一部で、法令で定める強度に達していないのに、満たしていたかのように数字を書き換えて出荷していたという。こうした製品は現時点で数百万本にのぼる可能性がある。検査手法そのものも法令に従っていなかった。国交省は自動車メーカーにリコールの準備を始めるよう伝えた」
どのような検査データが社内で改ざんされていたのかは、まだ明らかになっていない。シートベルトの検査項目と試験方法は、JIS(日本工業規格)および自動車基準認証の国際調和によってECE基準が適用されている部分を合わせると多岐におよぶ。どの部分にせよ、乗員の安全を守る基本装備であり、同時に最後の防御システムでもあるシートベルトの検査・試験で改ざんを行なうとは、「呆れて物が言えない」を通り越して悲しくなる。
シートベルトを構成する素材は繊維、樹脂、金属である。見えない部分には電気回路やセンサーを内蔵したフォースリミッター、プリテンショナーといった機構が内蔵されたメカトロニクス・モジュールである。その中でベルト本体といえば、繊維でできたウェビングである。
ウェビングの幅は「直接乗員に接する部分は幅46mm以上」と定められている。かつてのタカタ時代(前述のようにタカタは経営破綻し、現在はJSSJが事業を引き継いでいる)は縦糸254本のものと312本のものを製造していた。ポリエステルの極細糸を使った織物である。ちなみに312本糸のウェビングはおもにモータースポーツ用であり、タカタの彦根製作所ではF1マシン用のウェビングも製造されていた。
写真(1)はウェビングの縦糸ぶんの数だけある糸巻きボビンから繰り出されるポリエステルの糸だ。この先が写真(2)であり、織り機の中へと糸が引っ張られる。ローラーの間を通過することで自然と糸と糸の間隔が整えられる。そして横糸と絡み糸が自動で繰り出され、写真(3)のように織物になってゆく。完成したウェビングは写真(4)のように糸の色そのままである。
このあとウェビングは約200℃に加熱され、写真(5)のように染料に浸される。タカタは400色というカラーバリエーションを持っていた。染色ののちに余分な染料を落とすため80℃のお湯や水、薬品を使って入念に洗浄される。それが終わると巨大なドライヤーの中にウェビングを通し、ゆっくりと乾燥が行なわれる。充分に乾燥させたあと、写真(6)のようにウェビング表面に樹脂がコーティングされる。リトラクター(巻き取り装置)および乗員の肌や衣服との間での「滑り」をよくするためだ。
これらの写真は2007年の取材であり、当時使っていた小さなデジタルカメラは500万画素くらいで感度もISO800が上限だったので、写真にたくさんのノイズが浮いているが、雰囲気はお伝えできると思う。あのころのタカタは、まさかSRSエアバッグの点火剤データを改ざんしているなどとは微塵も思えなかった。少なくとも、筆者が取材で接していた方々は真面目で実直だった。
乗用車の運転席/助手席には、1席ぶんで約3.5mのウェビングが使われる。これでどれくらい利益が出るかといえば、ごくごくわずかである。設備を無人で動かし続けないと利益は出ない。しかも製品の規格は厳しい。引っ張り強さは、JISでは22.3kN(ニュートン)以上が要求される。2万Nmといえば大型トラックのエンジントルクよりも大きく、ウェビング1本で車両重量2トン程度の車を持ち上げることができると言われている。法規(日本では「道路運送車両の保安基準」という国土交通省令)で定められた衝突試験を行なっても、絶対に切れないことが求められる。
ウェビングそのものの試験は、まず温度20±2℃,相対湿度 (65±2) %で24時間放置したのち試材を試験機に取り付け、引っ張り速度毎分100mmというゆっくりした速度で荷重をかける「伸び試験」だ。9.8kNの引張荷重に達した段階で試験機を停止させずに計測し、JISでは伸び率30%以下でなければならない。そして、最終的にウェビングがちぎれるまで引っ張り強さを測定する。タカタの社内基準はこの取材当時、たしか伸び率5〜7%だった。これは「世界のどこへ出しても基準を余裕で満たす」という、自動車メーカーが求める性能だった。
1980年代のウェビングは、衝突エネルギーによって通常の数十倍になった乗員の体重を受け止めるために「伸び」を許容していた。14〜18%伸びるウェビングが使われていた。人体へのダメージ、とくに胸に加わるGと腹部の圧迫を抑えるため、ベルトが伸びることで乗員の身体に加わる衝撃のピークを抑え込んでいた。つまり、ウェビング自体がフォースリミッターの働きをしていたのだ。
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