走ってもよし、眺めて愛でるもよし 世界一美しいコンバーチブル? アストンマーティンDB11ヴォランテに試乗
- 2018/06/17
- GENROQ編集部
アストンマーティンの次の100年の幕開けを飾ったDB11が、美しさを備えたグランドツアラーであることを疑う余地はない。そのオープントップ版のヴォランテが早くも日本に上陸。美しいコンバーチブルは走りも美しいのか──試した。
REPORT◎高平高輝(TAKAHIRA Koki) PHOTO◎森山俊一(MORIYAMA Toshikazu)
アストンマーティンの新しいオープンモデルはまさに「ヴォランテ」の名に相応しい。空気の壁を突き抜けるように疾走する姿はまさしく「空を飛んでいる」ようだ。今一番伊達でクールなコンバーチブル、いやヴォランテだろう。英国流にこだわるならばドロップヘッドクーペと呼ぶべきかもしれないが(実際昔はそう呼ばれていた)、その美しくクールな姿にはちょっと古風すぎる。
もっとも、アストンマーティンは1960年代からイタリア語のヴォランテの名称を受け継いでいるから、何が何でも英国風というわけでもない。というより外の血を巧妙に取り入れながら新しい伝統を生み出すのが昔から英国が得意としてきたことである。ちなみに、アルファ・ロメオのディスコ・ヴォランテ(空飛ぶ円盤)も同様の意味である。
新世代のアストンマーティンDB11シリーズに昨年秋、追加された最新オープンモデルがヴォランテだが、先にデビューしたDB11クーペ同様、新しい血は前ヒンジでガバリと開くアルミニウム製ボンネットの下に見つけることができる。バルクヘッドにめり込むようにフロントミドシップされた4.0ℓV8ツインターボエンジンはメルセデスAMGとの共同開発と言われている(今のところヴォランテはV8ツインターボのみ)。
Vバンクの谷間に2基のターボチャージャーが収まるエンジンのどの程度が共通なのかはつまびらかにされていないが、トランスミッションはZFの8速ATを例によってトランスアクスル配置していることもあり、独自の適合開発が行われたのは間違いないだろう。510ps(375kW)と675Nmを生み出すV8ツインターボが収まるエンジンルームの眺めがまた、私にすれば外観に劣らず魅力的だ。ボンネットはフェンダーもろとも(ちなみに英国流ではフェンダーではなくウィングと呼ぶが)開くため、フロントタイヤもほぼ剥き出し。
エンジンベイ前半分はかなり隙間があるせいで、接着剤を多用して組み上げられた新世代のアルミスペースフレーム、いわゆるVH(バーチカル・ホリゾンタル)プラットフォームのアルミ部材があちこちに覗き、ただモノではない雰囲気が横溢している。ストラットタワーとバルクヘッドを結ぶ三角形のブレースも含めて、迫力満点の光景はまるでレーシングカーのようだ。流麗なボディの下に、これほど逞しい機能美が隠されていることこそアストンマーティンの真髄である。ただ優美なだけでなく、単に野性的であるだけでなく、それらを融合した洗練された精悍さがアストンマーティンの醍醐味であり、さらにちょっとだけ鼻につく“気どった雰囲気”をトッピングすれば完成である。
そう考えると、ボンドカーとしてのアストンマーティンはジェームズ・ボンド役とともに実に的を射たキャスティングだったと改めて感心する。排ガス規制や安全性などを気にしなくてもよかった時代はショーン・コネリーが相応しかったが、現代は多面的で複雑で影のあるダニエル・クレイグがぴったりだ。ただ腕っぷしの強さを誇示するのではなく、紳士の教養と礼儀に野性味が程よく同居している身だしなみのいいクールな細マッチョが最新のアストンマーティンなのである。
部分的に8層構造というソフトトップを閉じた姿も非の打ち所がない。非常に小さなルーフを閉じた状態でも頭上のスペース(少なくとも前席は)には問題ないが、ただしリヤウインドウはまるで覗き窓のように細長く、トップを閉じた状態での後方視界は限られている。だがそのおかげでプロポーションは素晴らしく軽快である。“ヴォランテ”だもの、それはみなさん納得の上だろう。もちろんルーフはコンソールのスイッチひとつで作動し、およそ50km/hまでなら走行中でも開閉操作が可能である。
インテリアはザラザラした年輪の木肌をそのままに残す流行のウッドパネル(アッシュウッドというのだろうか?)と、しっとりした感触のレザーで覆われたさすがの仕立てである。ウッドトリムをシートバックレスト背面にもあしらっている点などはため息がでるほどだが、それに対してインストルメントはこれまでのアストン流にメルセデス譲りのコントロール類を加えたものだ。
使い勝手には不満はないものの、ただし、細かいスイッチ類や樹脂トリムなどについては、おや、と思うものも少なくない。Aクラスと同じパーツを使っていることはすぐわかる。そしてほんのちょっとだけど、がっかりする。今どきそれほど細かいところを気にするのは、ないものねだりかもしれないが、何しろアストンマーティンだからさらに上を求めたくなるのだ。せっかくのお揃いのレザーで覆われたステアリングホイール上のダンパー切り替え、パワートレインのモード切り替えボタンなどもちょっとお手軽な造りの樹脂製だ。ヴォランテならばそうそう頻繁に使うものではないので、どこかもっと目につかないところにまとめてくれたほうがアストンらしいのではないだろうか。
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