技術のニッポンはデザインも世界一をめざしていた! / 1983年 第25回・東京モーターショー 後編 【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】
- 2020/09/11
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荒川 健
80年代を迎えて、日本の自動車産業は大きく発展。まさに世界をリードする存在となった。その誇りにかけて、先進技術、安全意識を高く誇示する技術を多く提案するコンセプトカーが軒並み揃うのが、モーターショーの華となった。1983年は、とりわけそんな時代を代表するショーとなった。
アルミ記憶合金のボディスキンを採用したトヨタFX-1
ニッポンの自動車は性能やデザインだけでなく、多くの車種生産を可能にした効率の良い生産方式の拡充などでサプライヤー(協力会社)を含めた自動車産業構造そのものが世界一になった。
そうした状況を反映し、この年の東京モーターショーは海外6か国28社が出展、合計945台が展示され、なんと来場者数は120万人を超え、海外からも2万6000人が訪れたのだ。いよいよ「世界に胸が張れるニッポン!」がやってきたのであった。
特に花形のコンセプトカーは高いレベルの競演となり、前回ご紹介したニッサンNX-21、トヨタFX-1、マツダMX-02と、凄いのがいっぺんに登場してしまった。もったいない。それぞれテーマや力の入れどころも異なっていて凄い内容であった。
今回最初にご紹介するのはコンセプトカー・トヨタFX-1だ。
デザインはあくまでセリカやソアラの未来形、つまりトヨタのスポーティ&のラグジュアリーは「将来こんなスマートな感じになります」と、ものすごくまじめに現実味のあるデザインで可視化している。そして流麗で優しいシルエットにも関わらず、中身は最新技術が満載、ボディ外板の素材はなんとアルミ形状記憶合金! 外からは見えない内部の骨格や補強材は“エキゾティック・マテリアル”特殊素材となっていて、徹底した軽量化技術を提案していた。
注目すべきは、造形の基本が完全な3次元フォルムだということを指摘したい。ニッサンNX-21も美しいハイライトを実現しているが、トヨタFX-1はさらにコーナーに流れ込むボディ面が繊細に変化し、クレイモデルでの徹底したクルマとしての立体美が追求されている。1990年代の初頭にならないとこうしたコーナーの丸いデザインは現れないから10年進んでいたのである。
またボディ下部の前後に貫かれたくびれは、ウエッジスタイルを強調しているだけでなく空気力学的にも有利な形状で、空気抵抗の低減に加え泥はね対策にも有効であることが分かり、これも後年多くの車に取り入れられた。
そのほか、速度や道路状況を自動で感知しエアサスペンションの反発力が変化する電子制御ダンピングコントロールシステムの搭載やディスクブレーキのローター部分を熱に強いセラミック製に変更、インテリアでは世界初のカラー液晶スピードメーターを採用するなど可能性のすべてを投入した意欲作であった。
提案されたアイデアのほとんどが実用化されたマツダMX-02
次にご紹介するのがマツダのコンセプトカーMX-02 だ。
スタイルは3ボックスセダンのカテゴリーをしっかり踏襲しながら、マツダのセンスの良さと新しい時代のカーデザインを強く意識した意欲作であった。
フロント回りのデザインとの統一感が感じられるリヤコンビネーションランプの形状などきめ細かくデザイン処理がされていて、若手デザイナーとして燃えていた私は、晴海の会場で食い入るように観察し、そのセンスの良さに圧倒され、自分も早くこんなデザインがしたいと強く思った記憶がある。
特にインテリアは、シートの考え方やインストルメントパネルの形状、素材の斬新さはまさに最先端デザインのお手本であって、ステージ上のMX-02は私にとって素晴らしい教材だったのである。
しっかりとした塊を感じるシンプルな面造形は、どこから見ても完璧な安定感があり、付け入るスキがないのだ。これはジウジアーロの手掛けたモデルも同じであり、全周くまなくチェックし高いスキルを持った厳しい目で徹底して修正した証であり、高い完成度はこの作業抜きではあり得ないのである。
提案されているアイデアも現代ではほとんどが実用化されていて、その的確な先進性にも驚かされる。マツダの看板でもある超小型ロータリーエンジン搭載のFFレイアウト、2800mmという超ロングホイールベースによるリムジーン並みの居住性&最高の乗り心地の提案、その弱点である回転半径の増大を補う4WS(4輪操舵システム)で最小回転半径を通常の小型車レベルにし、おまけに滑りやすい高速道路での機敏で安全な走行をサポートするといった夢の技術にチャレンジしたことを付け加えたい。
現実社会での通常走行に必要な安全や便利さを最もリアルに提案したのが、このマツダMX-02だった。
注目モデルが目白押し!
発売されたばかりのニューモデルも特筆に値するすぐれものが目白押しであった。
1年前に発売された三菱パジェロや新登場のスズキ・マイティボーイは自然への憧れを上手くイメージしたプロモーションで新しいワイルドでお洒落なレジャービークルのジャンルを作り、ダイハツ・シャレードやスズキ・カルタスはきびきび走る1リッタークラスを定着させた。またFRにこだわったカローラレビン、スプリンタートレノが登場し、その後長きにわたり“走り屋”の定番となった。さらにはトヨタSV-3というミッドシップエンジン・スポーツカーの試作車が展示され、翌年MR-2として発売になっている。
こんなに一度に大量の花が咲いた百花繚乱のモーターショーは数少ない。その中でも最も中身が濃かったのが、この1983年であった。
おまけのまめ知識 by Ken
なぜニッポンの自動車産業が世界一になったか? それはトヨタが戦前から長年にわたり苦労して確立した効率的な生産方式のおかげなのです。サプライヤーを通してすぐに他社にも広がり、私が1975年に三菱自動車に入社した直後から、「改善提案」を毎週1件は出すよう総務から言われました。出さないと勤務評定にマイナスが付くと人事に脅されたこともあったなー。
1960年代にトヨタが確立した“カンバン”や1970年代の“カイゼン”はいまや世界中の製造会社の標準となっています。
ところで、1983年の消費マインドについて前回お話しましたが、この年は記念すべき世の中の出来事も多数ありました。東京ディズニーランドがオープンし、テレビの「おしん」が爆発的ヒットをし、元総理大臣の田中角栄が実刑判決を受け、中曽根内閣が解散総選挙した結果過半数が得られず大敗、連立与党が始まった年でした。
自動車業界のトップニュースはホンダが1968年以降撤退していたF1に復帰、第2期ホンダF1の黄金期が始まりました。
今と比べて、なんか元気いっぱいで明るい未来が感じられますよね。
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