マツダSISS(2007年):スターターを使わない画期的なアイドルストップシステム i-stopで上書きされてしまったマツダSISS(2007年)画期的なアイドルストップシステム
- 2019/08/14
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世良耕太
マツダのアイドルストップシステム「i-stop」の実現には、非常にユニークで革新的な技術「SISS」が寄与している。スターターモーターを使わず、再始動にあたっては一度クランクを逆回転させるというこのシステム、登場が待たれたにもかかわらず残念ながら世には現れなかった。(2009年11月執筆)
TEXT:世良耕太(SERA Kota) STORY:畑村耕一(HATAMURA Koichi)
【SISS(スマート・アイドリング・ストップ・システム)】
都市部の交通環境では、信号待ちなどで、アイドル状態で停止している時間頻度が多く、この間にエンジンを停止することで約10%(国内10・15モード)の燃費向上が期待できます。停車時にエンジンを自動的に停止させ、発進時にはエンジンを自動的に再始動させることで燃料の削減を図るアイドルストップ機構はエンジンを通常、モーターで再始動します。これに対して、マツダが開発を進めているSISSは、エンジンの直噴システムを活用するもので、停止中のエンジンのシリンダー内に直接燃料を噴射して爆発させ、そのエネルギーでピストンを押し下げて再始動させます。燃費の向上はもとより、静かで素早い再始動が可能になり、快適な運転環境を提供できます。
■ ピストン停止位置制御
燃焼始動を可能にするためには、圧縮行程と膨張行程のシリンダーにおいて、空気量のバランスがとれたストローク中間にピストンを停止させる必要があります。SISSでは、停止時の空気量を気筒毎に精密制御することで、エンジン停止時のピストン位置を確実にコントロールすることを可能にしました。
■ 燃焼始動技術
自動再始動時、最初から燃焼をさせるために記録しておいた停止位置から燃焼シリンダーを割り出し、着火させます。そして、極低エンジン回転速度でも気筒判別をして、連続して着火させ、迅速にアイドル回転速度にします。
(2007年東京モーターショー、マツダ資料より)
2005年の東京モーターショーに、マツダは『スマート・アイドリング・ストップ・システム(以下、SISS)』を出展した。このシステムを見たときには「おっ、久々にマツダがやったな」と思ったもんじゃ。直噴を利用し、スターターモーターを使わずにアイドリングストップ&スタートができとる。なにより、クランクを逆回転させる発想が面白かった。
ところが2009年、i-stop(アイ・ストップ)に名称を変えてアクセラとビアンテの一部車種に搭載されたアイドリングストップ・システムは、スターターモーターで始動をアシストする仕組みに変わっていた。確かに、アイドル停止時の静粛さは何とも言えん、「エンジンはないほうがええ」を実感する。再始動に一瞬の遅れを感じる場合もあるが、燃費が良いと思えば気にならん。ただし、スターターモーターを使わない方式を諦めたのが残念じゃ。
SISSの作動原理を簡単に説明すると、最初にエンジンを逆回転させるのがみそ。そのためには、逆回転のために燃焼させるシリンダーのピストンを停止させる位置がポイント。上死点および下死点にピストンが止まると再始動できんが、ATDC(圧縮上死点後)40°から100°(つまり、ちょうど真ん中くらい)の範囲では短時間で再始動できることを突き止めた。そこで、燃料カット後にオルタネーターによる発電負荷を調整し、ピストン停止位置を適正範囲内に収める制御を開発した。クランク位置を精密に制御するため、クランクアングルセンサーは逆回転を検出できるタイプに変更している。
エンジンを再始動させる際は、圧縮行程にあるシリンダーに燃料を噴射し、点火。すると、クランクは逆回転を始める。再始動する頃にはシリンダー内は大気圧に戻っているため、それほど強い爆発力は得られんが、それで十分。逆回転することにより、膨張行程にあったシリンダーのピストンが上昇し、圧縮を始める。すると、今度はそのシリンダーに燃料を噴射して点火。圧縮によって強い爆発力が得られるので、クランクは正回転に戻り、再始動が完了する。
マツダは当時、スターターモーターを使った再始動に0.7秒かかるところ、SISSでは0.3秒で再始動できるとしていた。エンジン本体にほとんど手を加えることなく、センサー類の追加とエンジン制御用コンピューターへの対応で、アイドリングストップを実現しておる。再始動時にスターターの音が聞こえん。感激に値する技術じゃ。
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