ボルグワーナー:ガソリン用の可変容量ターボは何が難しいのか[オートモーティブワールド2020]
- 2020/01/15
- Motor Fan illustrated編集部
オートモーティブワールド2020内「第11回 EV・HEV駆動システム技術展」のボルグワーナーブースに、過給機が3種展示されている。それぞれの役割とねらいを訊いてみた。
※ 本展は業界関係者のための商談展です。一般の方のご入場はできません。
ガソリンエンジン用VTG式ターボチャージャー
排ガスの流量が小さい運転領域ではタービンホイールを回転させるだけのエネルギーが足らず、そこで可変ベーンを用いて細い流路から排ガスが勢いよく流れるような仕組みを作るのが可変タービンジオメトリ:VTG式ターボチャージャーである。ディーゼルでは一般的なデバイスだがガソリンエンジンでの採用は稀有、その理由が排ガス温度である。ガソリンエンジンの排ガス温度は1000度近辺で、VTGターボを成立させるためには耐熱温度の高い素材を使用する必要があり、コストが非常に高くなってしまう。
先般、フォルクスワーゲンがTSIの世代交代を発表したときに「EA211:1.5 TSI evo」でこのVTGターボを採用したことがトピックになった。なぜそれが可能になったかといえば、フォルクスワーゲンとしては早閉じミラーサイクルなどを用いることで低温燃焼が実現、VTGターボが使えるようになったという言い方をしている。とはいうものの、パワーを絞り出したときなどは必ず高温排熱になるはずで、果たして本当だろうかというのはかねて疑問であった。
ボルグワーナーのブースにガソリンVTGターボが展示されていたので、そのあたりの疑問をぶつけてみた。ボルグワーナーとしては耐熱温度として950度、今後は980度、さらには1020度まで開発のめどは立っていて、社内の開発はすべて完了しているという。耐熱温度が高くなるにつれて素材の価格も上昇してしまうが、やはり温度耐性を高めていく方向で開発は進められている。
案の定、運転領域によっては1000度オーバーという排ガスが発生、とくに近年の排ガス規制を眺めたときには1020度、はては1050度というレベルまで考えなければならないという。ということからボルグワーナーとしては1050度までを見据えてロードマップを描いている。実際に、通常のウェイストゲートターボでの環境ではあるが1000度超えというエンジンもあるそうで、今後のガソリンVTG開発のポイントとしてはなお耐熱温度は避けられないようだ。
ところで、ガソリンVTGは高い耐熱温度特性が求められるというが、実際にはどこがシビアコンディションにさらされるのだろうか。
「温度が高くなると、部品の中での温度勾配が高くなるんですね。ベアリングハウジング側は水冷していて冷たいんですけどタービンホイール側には当然1000度レベルのガスが入ってきて、そうすると何が起こるかというと、この短い部品の中で1000度と水冷による100度くらいという温度勾配が生じる。ある程度温度が一定になればVTGのカートリッジもほぼ同じような温度で落ち着くんですけど、低い運転状況で冷えていたときに急に1000度超えの排気が入ってくると、一部の部品が熱膨張しているんだけどほかは追いついていないということになる。そういうときに、非常に狭いところに可動するベーンがあって、そこのクリアランスをいかに適正に保つかというのがひとつ難しいところです」(エミッションズ、サーマル&ターボシステムズ エンジニアリングダイレクター:林 祐吉氏)
電動ターボと電動コンプレッサー
タービン/コンプレッサーの間にモーターを挟み込んだ構成。近年はやりの「電動コンプレッサー」とも違うデバイスである。
モーターを介することでタービンホイールの回転アシスト=過給ラグの解消が実現するのに加えて、回生発電できるのも特徴。電動コンプレッサーがホイール径が小さくして過給ラグの解消にのみ特化しているのに対して、本デバイスはどの領域においても有用であることが両者の大きな違いである。
回生電圧に対しては現状48Vで進めているがフレキシブル。高電圧対応を含めて開発を進めている。
電動コンプレッサーも展示されていた。こちらは先述のとおり、モーターで直接コンプレッサーホイールを回転させることで過給圧をインスタントに発生させる装置。メインの過給機であるターボチャージャーの過給立ち上がりを補完する役目を担う。
展示品はダイムラー採用品。M256型直列6気筒に備わるもので、48Vシステムの一環としてエンジンの高効率化を図る。
自社開発によるバッテリーシステム
ボルグワーナーはロメオパワーテクノロジー社との合弁会社を昨年5月に設立、これによりバッテリーパックを製品ラインアップに加えることができた。昨年10月にはデモ車両を作成。電動車両としての理解を深め、システム開発を有益に進めるためのアプローチとしている。
その車両においては、従来他社のバッテリーを使っていたところ開発品の自社製を採用、同じスペースに2.6倍の容量を確保した。具体的には350V/30kWh。なぜ2.6倍もの容量増を実現できたのかという問いに対しては、パックとしてのパッケージングとセルのアップデートの両面から可能になったという答えがあった。これまでは汎用品を使用していたのに対して、合弁会社による開発品は円筒型セルを効率的に配置できることで冷却性能も向上、コンパクトかつ高効率なパッケージとすることができた。さらにセル自体も旧式のものから最新型に替えることで、出力密度を大幅に上げることに成功している。
さらに水冷サーキットシステムを効率的に付与した。キャビンを暖めるための熱源としてクーラントをユニットで加熱し、さらにバッテリーパックの保温と高効率運用にも役立てる仕組みとしている。てっきり冷やすためのサーキットかと思ったのだが、効率よくバッテリーを使うためにはある程度の温度が必要とのことで、しかしただ温めるだけではもったいないことから暖房用熱源としても用いることでシナジーを図った。
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