プジョー508SW 「一見クールで、その実ホット。そして、とことん乗員にやさしい」| プジョー508SW GT BlueHDi
- 2020/05/21
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世良耕太
個性的なルックスとi-Cockpit、ドイツ車とも日本車ともまったく違う乗り味。プジョーを選ぶ理由はそこにある。「合う・合わない」がくっきり分かれる最新プジョーの最上級車、508。ワゴン+2.0ℓディーゼルエンジンモデルにモータリングライター、世良耕太が試乗した。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
好き嫌いはあるだろうが、筆者はとっても「好き」
プジョーは2019年12月4日、2022年からル・マン24時間をシリーズの一戦に含むFIA世界耐久選手権(WEC)に参戦すると発表した。プジョーは直近では2011年まで、ディーゼルエンジンを搭載した車両でル・マン24時間レースに参戦しており、09年に3度目の総合優勝を果たしている。耐久レースの「顔」が帰ってくるわけで、これほど喜ばしいことはない。
ル・マン復帰発表に合わせて公開されたレンダリングを見ると、競技車両の「顔」は最新の量産車と同じで、攻撃的だ。ヘッドライトは3分割になっており、両脇に斜めのデイタイムランニングライト(DRL)が走っている。ライオンが前足の爪で引っかいたようなイメージだ。
3本爪のひっかき傷グラフィックはリヤコンビネーションランプにも反復されている。好き嫌いはあるだろうが、筆者はとっても「好き」である。運転中に前後のライティンググラフィックが眺められないのはなんとも残念で、信号待ちの際に前後の車両に映り込む光を眺めて楽しんだ。
最近のプジョーは、個性的であることに重きを置いているように感じる。前後ドアには窓枠がない(プジョーは「フレームレス」と表現している)が、これも個性的であろうと努めた策のひとつだろう。かつてのクルマのように、フレームレスだからといってドア開閉時にブルブル、ワナワナしたりはしない。
フレームレスのドアにしたのは「ローボディ」に貢献するためでもあるというが、乗り込んでみれば確かに、天井は低い気がする。ただし、身長184cmの筆者でも実用上の不都合は感じなかった。試乗車はパッケージオプション(66万2000円)装着車で、それゆえにパノラミックサンルーフを装備している。ルーフ中央部には、サンルーフ収納のための張り出しがある。後席に着座した際に頭部と干渉する位置ではないが、後席は前席よりも着座位置が高いこともあり、圧迫感は増す。
しかし、不快ではない。快適性は損なわれていない、と言い直したほうがいいだろうか。前席に着座した際にもあてはまることだが、ものすごく静かで、乗り心地がいい。
運転席に戻ろう。最近のプジョーにおなじみの、i-Cockpitが否が応でも目に飛び込んでくる。小径ステアリングの上からメーターを覗き込むスタイルだ。このスタイルの扱いが慣れてきたということなのだろうか、以前308に乗った際はなじまないまま試乗を終えたが、今回は「なじんだ」というより、最初から不都合を感じなかった。着座した際の目の位置とメータークラスター、ステアリングホイールの位置関係を改善することで、508はほどよいバランスを見いだしたということだろうか。
操作系で気になることがあるとすれば、ペダルの位置である。ホイールハウスの張り出しを避けるためか、アクセルペダルとブレーキペダルが左側に寄っているよう。それとも、アクセルペダルとブレーキペダルが近いのか、ブレーキペダルと一緒にアクセルペダルを踏みそうになる。実際、軽く触れてしまうことが何度かあり、注意が必要だった。
シートの柄(フルパッケージオプションに含まれるナッパレザーシート)も個性的だ。尻から腰、そして背中を深く包み込むような設計が長らくフランス車の伝統として語られてきた感があるが、508 SWのシートにステレオタイプなフランス車の伝統はあてはまらない。ナッパレザーシートは飛行場の搭乗ゲート前にあるベンチのように平板で張りが強く、よそよそしい(左右ともに電動調整式)。
しかし、クルマが動き始めると、印象は一変する。目の前で赤ん坊を放り投げられたら、腕と腰と脚の関節や筋肉をフル動員し、衝撃を与えないようにやさしく受け止めようとするだろう。508 SWの脚はまさしくそれで、たくましくもしなやかな腕で受け止められたかのような、心地いい着地感がある。ライト類のグラフィックと同様に508の個性のひとつだが、気を引くのが狙いではなく、むしろ哲学だろう。「いいクルマとは何?」という問いに対する、プジョーなりの回答と理解した。
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