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内燃機関超基礎講座 | なぜエンジンを多気筒化するのか ダウンサイジングのアンチテーゼ

  • 2020/08/31
  • Motor Fan illustrated編集部
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(PHOTO:BMW)

エンジンは、より高い出力を求めて、大排気量化、多気筒化を重ねてきた。V型12気筒エンジンは、その完成形のひとつであると言っていい。では、なぜ多気筒エンジンは高出力化できるのか? 基本中の基本である“燃焼”の面から考えてみたい。
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji) ILLUST:熊谷敏直

エンジンの進化におけるメインストリームは、今も昔も「高出力化」だ。その根幹を成すのは、同じ量の燃料により多くの仕事をさせる、つまり熱効率向上のための技術開発である。熱効率が高まれば、出力レベルを保ったままでエンジンの排気量(吸気量)を小さくできる。すると、重量や各種の損失低減などの好循環も生じる。これが過給ダウンサイジングの目指す方向性だ。

とはいえ、設計年代が近いエンジンの間で、熱効率に決定的な差が生じることは稀である。だとすると、より大きな出力を得るためには、より多くの燃料を燃やすことが要求される。そして、燃料が燃焼できる空燃比の範囲は決まっていて、それ以上に燃料を供給しても燃え残ってしまうだけだ。つまり、より多くの燃料を有効に燃やすためには、より多くの空気を吸い込まなければならない。エンジン大吸気量化は、そのための必然的な手段である。

レーシングエンジンのように、レギュレーションで吸気量が制限されている場合は「単位時間内に燃やす燃料の量」を増やす、つまり高回転化によって高出力化を図ることがセオリーだ。同じ時間でより多くの燃焼をこなすためには、燃焼1回あたりに必要な時間を短くしなければならないので、シリンダー1個あたりの容積をある程度の範囲に収めておきたい。すると必然的にシリンダーの数が増えていくわけだ。

ダウンサイジングやレスシリンダー化が進むなかで、V型10気筒や12気筒といった多気筒エンジンの“必然性”を判断するためには、このシンプルな原理を常に念頭に置いておくことが重要だと考えるものである。

乾燥した空気の重量は、0°C、1気圧の状態で1ℓあたり1.293gだ。窒素は約0.976g、酸素は約0.298g含まれる計算になる。燃料にガソリンを使う場合、完全燃焼に必要な最小空気量(理論空燃比:Stoichiometric Fuel / Air Ratio)は、重量比で空気14.7に対してガソリン1とされているが、一部に不完全燃焼が生じるものの出力は最大となる「出力空燃比」が12.5:1付近、燃料消費率が最良となる「経済空燃比」は17:1付近である。

仮に目標出力達成のために必要な空気の量を4000ccとした場合、理論空燃比で運転するなら一行程あたり4ℓ×1.293÷14.7=約0.351gのガソリンを供給すればいい計算になる。ただし、自動車用エンジンは700rpm程度のアイドリング回転数から回転限界まで、状況に応じて可能な限り短時間で回転数を変動させながら運転しなければならない。4000ccの単気筒エンジンは、構成パーツの質量からして、そのような運転に適する構成とは言いがたいし、耐久性・信頼性、振動の面でもネガが大きい。さらに、一度の燃焼で燃やす燃料の絶対量が多いので、回転数が高まると燃焼速度が追いつかなくなることも想像に難くない。では、どうすればいいのか?

「シリンダーを増やす」
空気を小分けにすることで、回転の増減要求や高回転へ対応する手法。容積1000ccのシリンダー4個で構成すれば、4000cc単気筒が抱えていた問題の多くが大幅に軽減される。ただし、部品点数、重量、各種損失の増大といったネガティブが生じることになる。

「“過給”で空気を押し込む」
各種の損失低減には、エンジンをなるべく小さくすることが有効。目標出力実現に必要な空気は、コンプレッサーで圧縮した状態での給気によって確保する。たとえば空気の容積を半分に圧縮すれば、シリンダーの容積も半分で済むので、重量や損失の面で有利となる。

「マルチシリンダー化する」
自然給気の場合、空気をなるべく小分けして扱うことが高出力化のセオリー。4000ccを12個のシリンダーで分担すれば、ひとつあたりの容積は333ccで済み、時間あたりの燃焼効率などが有利となる。代わりに増大する重量や損失とのバランスを考慮した構成が重要。

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