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内燃機関超基礎講座 | 多点点火の驚くべき実力:超高速燃焼で熱効率44%を目指す

  • 2021/02/04
  • Motor Fan illustrated編集部
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多点点火すれば、燃焼効率が飛躍的に上がることは、理論的にはこれまでも知られてきた。しかし「多点点火をどう行なうか?」という壁に実現を阻まれてきた。そこに挑戦したのが総合環境企業のミヤマである。
TEXT:高橋一平(TAKAHASHI Ippey)
*本記事は2011年6月に執筆したものです

火花点火を用いる内燃機関において、多点点火という技術概念は決して新しいものではない。しかし、問題はその実現性で、「それができれば......」という類の、発想はできても実現は難しいという「絵に描いた餅」的なものとされてきた。実際に、量産製品として存在していないのはもちろんのこと、実験的な試みとしても多くの目に触れる機会が得られるほどの成果を挙げた例はなかったといっていいだろう。苦労して形になったとしても、バルブ配置や燃焼室形状などに大きな影響を及ぼす複雑なものとなってしまうというのが、今までの「定説」であった。

しかし、ミヤマによる多点点火装置を目の前に
してみると、この「定説」が先入観というものに
囚われていたものであることに気付かされる。既
存型のスパークプラグを用いる発想では避ける
ことのできなかった、物理的なレイアウトの問題
を、ミヤマのそれでは「ヘッドガスケット型」と
も言える、革新的な「スパークプラグ」の発明に
よって極めてシンプルに解決。ひと昔前なら電極
の消耗などといったメインテナンス性が問題に
なったかもしれないが、21世紀を迎えた今、電極
の消耗については耐熱性の高い金属を用いるこ
とで、既に解決しているのだ。

多点点火装置本体。基本的にはヘッドガスケットの形状をほぼそのままに型取ったアルミ製プレートだが、ボア部分には複数の放電部が設けられ、インテーク側(写真下側)には、点火用の高電圧を印加するためのターミナルが並んでいる。

燃焼室外周上に複数の点火装置を配置するという、火花点火式の内燃機関としては革新的といえる点火環境を、複雑な機構なしに実現。点火装置の数や形状は、試行錯誤の結果、得られたノウハウからきている。その汎用性の高さを生かし、現在は既存型エンジンを用いた実証実験を行なっており、ここに紹介しているSR20DE型エンジンで、すでに44%というディーゼルエンジンに迫る熱効率を実現している。

ボア部分の内側に並ぶ放電部(点火ギャップ)。白い部分は絶縁体で、一般的な点火プラグのそれと同様のセラミック系素材が用いられる。装置の厚さはわずか6mm。上死点ではピストンのトップランドがこの装置の内側に収まるかたちとなる。
装置に高電圧を印加し、放電する様子を捉えたもの。放電部は1気筒あたり12カ所。放電部は並列ではなく直列配置の回路となっているため、配線はプレート端部のターミナルからボア部分に向かって伸びる1本のみ(1気筒あたり)と極めてシンプル。

既存型エンジンの構成要素を大きく変えることなく、最小限の加工で組み付けが可能というこのシステムは、すでに熱効率44%を超えるという驚くべき結果を得るに至っている。しかも注目すべきは、この数字が1点点火型の既存型エンジン(現在はSR20DE型を使用)をほぼそのままに用いて達成されているということ。そこには多点点火を前提とした専用エンジンを用いるという、さらなる向上の余地がまだ残されているのだ。「コロンブスの卵」的な発想が可能としたミヤマの多点点火装置は、誰も見ることのできなかった内燃機関の新境地を切り拓こうとしている。

シリンダーヘッドとブロックの間に挟み込むかたちで多点点火装置が組み込まれたSR20DE型エンジン。シンプルな構造故に既存型エンジンへの追加が容易な点も大きな特徴のひとつだ。
多点点火装置の収まるシリンダーヘッドとブロックの間を目指し、4本のハイテンションコード(黄色の配線)がスロットル裏側へと伸びる。ブロック上面には面研加工を施し、装置の厚み分(ガスケットの厚みも含む)の寸法を調整している。
理論空燃比のLPG混合気を用いた定容燃焼室における可視化燃焼実験の様子。多点点火(外周部10ヵ所と中心1ヵ所の計11ヵ所)は一般的な1点点火の半分程度の時間で火炎が行き渡っていることがわかる。中央に加えて外周部からも素早く火炎が広がることにより、燃焼がより均一な状態となっている点も興味深い。
多点点火では、上死点後のより早い時期に急速に燃焼を終えるため、設計上の容積比をより有効に利用することが可能となる。実験では高圧縮化(13.4〜14)されていることもあり、最大筒内圧力(Pmax)は86%も向上している。
左グラフと同様の実験データを、運転中のシリンダー内の圧力(筒内圧)とその容積(つまりそこに収められる気体の体積)の変化を表すP-V線図によって比較したもの。圧力のピークが大幅に高くなり、曲線部分内の面積も大きくなっている。
最上段の左から2番目に熱効率が表示されている。写真では43.53%を示しているが、この日も最高で44%半ばを記録(3000rpm/空燃比21.3)。点火時期はBTDC16度と、通常ではまともに回らないレベルまでリタード(遅角)していた。

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