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【海外技術情報】ハーレーダビッドソン:久々の新エンジンは水冷Vツイン! レボリューションマックス1250エンジンに迫る。

  • 2021/03/15
  • 川島礼二郎
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先日、ハーレーダビッドソンが同社初となるアドベンチャーツアラーモデル『パンアメリカ1250』・『パンアメリカ1250スペシャル』を発表した。ここでは、両車が搭載する完全新設計のVツインエンジン「レボリューションマックス1250」の技術詳細について、公式リリースを翻訳・要約してお届けしよう。ハーレーらしからぬ、と言っては失礼だが、先進技術をふんだんに取り入れていることが分かるはずだ。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

「レボリューションマックス1250」エンジンは完全新設計である。幅広いパワーバンドを有するがレッドラインまで軽快に吹け上がり、優れたパフォーマンスを示す。そしてアドベンチャースポーツモデルである『パンアメリカ1250』『パンアメリカ1250スペシャル』に望ましい出力特性を提供するように設定されている。つまり、オフロードライディングにも適用可能な低速域でのスムーズなトルク特性と低速スロットル制御とに重点が置かれている。ハーレーダビッドソンのチーフエンジニアであるAlex Bozmoski氏は以下のように述べた。

「ハーレーダビッドソンというブランドの伝統を尊重しつつ、技術的な進化を続けることで、ライダーを満足させるパフォーマンスを発揮するエンジンを生み出してきました。その流れを汲むレボリューションマックス1250エンジンは、信頼性、効率性、エキサイティングなパフォーマンスを提供することで『パンアメリカ』のライダーを新しい地平に導きます。そのために真っ新な状態から始められた高度な設計の成果です」

パフォーマンスと軽量化に重点を置くことで、車両とエンジンの両方の構造、材料の選択、それにコンポーネントの最適化が推進された。モーターサイクル全体の重量を最小限に抑えるために、エンジンはシャーシの強度メンバーとして車両に統合されている。望ましいパワーウェイトレシオを達成するため、軽量素材も積極的に使用している。

■ レボリューションマックスエンジン
排気量:1250cc
ボア×ストローク:4.13インチ(105mm)×2.83インチ(72mm)
最高出力:150hp
最大トルク:94 ft lbs@9500
圧縮比:13.0

レボリューションマックス1250エンジンの技術的特徴

レボリューションマックスエンジンはVツインである。パワートレイン本体がコンパクトかつスリムであるため、ハンドリングを良化するのに必要なマスの集中化を実現し、同時にライダーに十分な足・脚のスペースを提供することもできる。V型に配置されたシリンダーの挟角は60度である。エンジンをコンパクトに保ちながら、シリンダー間に適切なスペースを確保できる。これにより空気の流れを最大化して、パフォーマンスを向上させるためのデュアルダウンドラフトスロットルボディを搭載できる。

軽量化のための最適化された設計

パワートレインの重量を減らすことは、モーターサイクル全体の重量を減らすことを意味する。重量を減らすことで、燃費、加速、ハンドリング、ブレーキングなど、モーターサイクルのパフォーマンスのあらゆる側面を向上させることができる。

エンジン設計段階における有限要素解析(FEA)と高度な設計最適化手法の適用により、鋳造と成形部品の材料質量を最小限に抑えた。例えば、設計が進むにつれて、スターターギアとカムシャフトドライブギアの材料を削減することで、コンポーネントを軽量化した。また、ニッケルシリコンカーバイド表面ガルバニックコーティングを施した一体型アルミニウムシリンダーは、軽量設計の象徴である。ロッカーカバー、カムシャフトカバー、プライマリーカバーは軽量マグネシウム製だ。

パワートレインを車体のストレスメンバーとして活用

レボリューションマックス1250パワートレインはシャーシの構造コンポーネントとして活用される。エンジンは動力を供給するだけでなく、シャーシの構造要素として機能する。従来のフレームを排除することで車両重量は大幅に削減され、シャーシは強固になる。フロントフレームエレメント、ミッドフレームエレメント、テールセクションはパワートレインに直接ボルトで固定されている。パワートレインは、シャーシコンポーネントとして効果的に機能するように、高剛性となるように設計されている。ライダーは、大幅な軽量化、高剛性なシャーシ、それにマスの集中化により、最適化されたパフォーマンスを享受できる。

水冷方式の採用

エンジンが発生させる熱は、エンジンの耐久性とライダーの快適性に対する敵である。エンジンを水冷とすることで、安定した制御可能なエンジンとオイルの温度を維持。変化する環境やライディング状況に対しても、一貫したパフォーマンスを発揮できる。
パワートレインの性能は、エンジン温度を最適に制御できるため金属部品の膨張と収縮が少なくなるので、より厳しい部品公差によって強化されている。またエンジン由来の騒音は水冷システムにより低減されるため、より望ましいエンジン音(排気音)が優勢になる。水冷式であるため、エンジンオイルは過酷な条件下であっても、オイル性能と耐久性を維持できる。

冷却システムは、見た目に美しく、保守が簡単で、丈夫であるように設計された。クーラントポンプは内部にあり、耐用年数を延ばすための高性能ベアリングとシールを備えている。クーラント通路は、重量を減らし、かつパワートレインの幅を減らすため、複雑なステータカバーキャスティングに統合されている。クーラントドレンプラグは、オフロード走行における損傷への対策のため凹んでおり、フットペグで保護されている。

オフセットコネクティングロッドジャーナル

2つのクランクシャフトのコネクティングロッドジャーナルは30度オフセットされている。これには、ハーレーダビッドソンのフラットトラックレースでの豊富な経験が活用されている。
30度のオフセットにより、90度の点火順序となり、特に高回転域でスムーズな出力供給が実現する。シリンダーは、このクランクシャフトに対応するため、わずかにオフセットされている。リアシリンダーはクランクケースのライダーの左側に配置されている。幾つかのオフロード走行状況下では、90度の点火順序のパワーパルスがトラクションを向上させるため、ライダーは適切なコントロールを確保しやすく、安心感を得ることができる。

鍛造アルミピストン

ピストンクラウンは、圧縮比を正確に制御するため機械加工されている。13:1の圧縮比により、すべての速度域でエンジントルクが向上する。この高圧縮比は、高度なノック検出センサーによって可能となる。エンジンは最高出力を発揮するためにプレミアムグレード(91オクタン)のガソリンを必要とするが、低オクタン価の燃料でも動作し、ノックセンサー技術により保護される。
ピストンのベースは面取りされているため、取り付けにピストンリング圧縮ツールは必要ない。ピストンスカートには低摩擦コーティングが施されている。また低圧ピストンリングは摩擦を減らし、性能を向上させる。トップリングランドは耐久性を高めるために陽極酸化されている。そしてオイル冷却ジェットは、燃焼熱をより放散させるために、ピストンの底に向けられている。

4バルブシリンダーヘッド

4バルブシリンダーヘッド(2つの吸気と2つの排気)により、可能な限り最大のバルブ面積が可能となった。排気バルブは、熱をより良く放散するためにナトリウムで満たされている。高度な鋳造技術によりヘッド内のオイル通路を吊り下げ、ヘッド壁の厚みを最小限に抑えることで軽量化を実現した。シリンダーヘッドは高強度の354アルミニウム合金から鋳造されている。シリンダーヘッドはシャーシの取り付けポイントとして機能する。そのため取り付けポイントは柔軟に設計されているが、燃焼室は高剛性である。これは対象を絞った熱処理により達成されている。

ダブルオーバーヘッドカムシャフト(DOHC)

レボリューションマックスエンジンでは、シリンダーごとに個別の吸気カムシャフトと排気カムシャフトが装備されている。DOHCの設計により、フロントシリンダー用とリアシリンダー用とに最適化されたインテークカムとエキゾーストカムの独立した可変バルブタイミング(VVT)により、パワーバンドを広げることができた。
ドライブ側のカムシャフトベアリングジャーナルはドライブスプロケットの一部であり、カムシャフトドライブを分解することなく、サービスまたは将来のパフォーマンス向上のためにカムシャフトを取り外すことができるように設計されている。
カムシャフトドライブチェーンガイドとスプロケットは、可能な限り質量を減らすように最適化された。チェーンテンショナーは内部に取り付けられており、起動時のガタつきを最小限に抑える設計機能が組み込まれている。

油圧ラッシュアジャスター

レボリューションマックスエンジンは、油圧式ラッシュアジャスターを備えたローラーフィンガーバルブ駆動である。この設計により、エンジンの温度が変化しても、バルブとバルブアクチュエータ(フィンガー)が常に接触する。油圧ラッシュアジャスターはバルブトレインをメンテナンスフリーにして、時間とコストを節約する。この設計により、特にコールドスタート時のバルブトレインノイズ低減が実現する。

可変バルブタイミング(VVT)

レボリューションマックス1250エンジンは、吸気カムシャフトと排気カムシャフトの両方に、コンピューター制御の可変バルブタイミング(VVT)を備えている。VVTはコンピューター制御により、クランクシャフトが40度回転する範囲で、排気カムシャフトと吸気カムシャフトのタイミングを個別に進めたり遅らせたりする。VVTは、VVT不採用の同エンジンと比較して、全体的なパワーバンドを広げ、トルク管理を容易にし、効率を向上させる。VVTは燃料効率を改善する。タイミングフェイザーは、カムドライブスプロケットとカムシャフトの間に配置されており、ソレノイドプランジャーを使用してカムタイミングを変更するポート付き油圧を制御する。エンジンが停止すると、VVTはインテークカムをフルリタードに、エキゾーストカムをフルアドバンスに設定することで圧縮を減らし、始動を容易にする。

デュアルスパークプラグ

レボリューションマックス1250エンジンは、シリンダーごとに2つの点火プラグを装備している。デュアルスパークプラグは、このワイドボアエンジンの点火・燃焼を改善する。装備しているのは、標準のスパークプラグよりも燃焼室内の高温をより適切に管理するように設計されたデュアルサイドストラップスパークプラグである。

デュアルダウンドラフトスロットルボディ

シリンダー間には個別のスロットルボディが配置されており、これが乱気流と空気の流れに対するインピーダンスを最小限に抑える。燃焼室への高速の空気流は、性能を向上させるために最適化されている。燃料供給はシリンダーごとに個別に最適化できるため、経済性と航続距離とを向上させることができる。エアボックスはガラス繊維入りナイロンでできている。内部にリブが組み込まれているため、共鳴を抑え、吸気音を消すことができる。

堅牢なオイルシステム

オイルシステムは、困難な状況でも十分に機能するように調整されている。ドライサンプシステムを備えており、すべての回転部品の下のクランクケースキャスティングにオイルリザーバーが組み込まれている。これにより回転部品がオイルバスを通過するときに発生する損失を減少させるため、パフォーマンスが向上する。
トリプルオイルスカベンジポンプは、クランクケース、ステーターキャビティ、クラッチキャビティの3つのエンジンキャビティから余分なオイルを排出する。

完全にバランスの取れたパワートレイン

内部バランサーはほとんどのエンジン振動をキャンセルして、ライダーの快適性を高め、車両の耐久性を向上させる。プライマリバランサーはクランクケースに配置されている。スパイラル形状のチェーン駆動バランサーは、クランクピン、ピストン、コネクティングロッドによって発生するプライマリ振動に対抗する。二次バランサーは、カムシャフト間のフロントシリンダーヘッドに配置された。この小さなバランサーがプライマリバランサーを補完し、振動をさらに低減させる。それでいてバランサーは、モーターサイクルが「生きている」と感じるのに十分な振動を保持するように調整されている。

クラッチとトランスミッション

レボリューションマックスエンジンはユニット化されたパワートレインである。つまり、エンジンと6速トランスミッションは一つのケースに収納されている。クラッチは大径ケーブルで機械的に作動する。クラッチアシスト機能は、フルトルクとパワーをトランスミッションに伝達する能力を維持しながら、クラッチレバーの軽い操作感を提供する。クラッチは、クラッチの寿命を通して最大トルクで一貫した係合を提供するように設計された8枚の摩擦プレートを備えている。クラッチリミッター機能を搭載しており、ライダーはエンジンの速度を上げすぎたり、後輪を滑らせたり、あるいはホッピングしたりすることなく、滑らかにシフトダウンできる。

6速トランスミッションシフトシステムは、シフトドラムをサポートするローラーベアリングとテフロンコーティングされたシフトシャフトサポートブッシングを備えており、摩擦損失を最小限に抑え、シフトの操作感を最適化する。

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