内燃機関超基礎講座 | 初の横置きロータリー車:水素とのデュアルフューエル[マツダ・プレマシーハイドロジェンREハイブリッド]
- 2020/11/30
- Motor Fan illustrated編集部
水素を燃料として燃やして走る。そのためにマツダが採った手段はシリーズハイブリッド、そして虎の子のロータリーエンジンだった。
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji) FIGURE:MAZDA
水素RE(ロータリーエンジン)の開発においては、「どんな水素を用いるか?」について検討を重ねた。結果、現時点では圧縮水素を選択、RX-8ハイドロジェンREでは35MPa(350気圧)の圧縮水素を採用している。水素のみによる航続距離は10・15モードで約100km。デュアルフューエルなので実用上の問題はないとはいえ、けっして十分とはいえない。
マツダのプログラム開発推進本部 開発主査(取材当時)の柏木章宏さんが取り組んだ課題は、水素による航続距離を2倍に伸ばすことだった。たとえば70MPa圧縮水素を使えば、航続距離は30〜50%伸ばせるはずだ。液体水素なら、さらに体積あたりのエネルギー密度が高まって航続距離が伸びる。しかし、エネルギー効率の観点からすると、高圧化や液化のためにエネルギーを費やすのはナンセンスだ。そこで選択したのが、電気モーターを組み合わせたハイブリッド・パワーパッケージ化である。
2005年の第39回東京モーターショーに、マツダは「プレマシーハイドロジェンREハイブリッドコンセプト」と称するショーモデルを出展。この時点では、具体的なシステム構成などは明示されなかったのだが、2007年の第40回東京モーターショーで公開された「プレマシーハイドロジェンREハイブリッド」のパワーパッケージ構成は、意外さに満ちていた。
13B-MSPベースのデュアルフューエル対応エンジンは、マツダのRE史上初の横置きとなった。ハイブリッドと称してはいるものの、軸出力がそのまま駆動力として用いられることはない。同軸上に配したジェネレーターを駆動して発電、インバーターを介してモーターを駆動する、いわゆるシリーズ・ハイブリッド・システム用の発電機に徹する。
さらに、通常、シリーズ・ハイブリッドの発電機は、最もエネルギー効率の高い領域で定常運転される。しかしプレマシーが搭載する水素REは、アクセルペダルの踏み込み量に対してリニアに回転数が上下する、というのだ。ショー会場で柏木氏にその点を質問した際、「ハイブリッドでも、Zoom-Zoomな走りの味を大事にしたいので……」との答が返ってきた。しかし、後でよくよく考えると納得がいかない。効率向上のためのハイブリッドなら、定常で運転するに越したことはないはずだ。
あらためてその点を質問してみた。「たしかに究極の効率を求めるなら、通常のシリーズ・ハイブリッドのように定常で回すのが手でしょう。しかし、それは“レンジエクステンダー付EV”でしかない。バスならそれでもいいが、個人が所有するクルマとしては、それでは面白くない(柏木氏)」との思いが、発想の原点にある。ショー会場での発言は、それを簡略化したものだったわけだ。
さらに「機械屋から見ると、電機系は信じられないようなスピードで進化し続けています。シリーズ式であっても、もうすぐ効率面でプリウス型パラレル・ハイブリッドに追いつくでしょう(柏木氏)」との読みもある。また、効率向上という観点からすると、発電した電力をいったん電池に入れてから取り出すというムダも省けるに越したことはない。
電機系の進化によってパラレル式と同等の効率が実現できるなら、あとはRE以外の部分を“電気式無段変速機”扱いにすれば、制御しだいでどんな味付けにもできる……という発想を具現化したカタチが、このシステムなのだという。
「たとえ化石燃料が自由に使えなくなった時でも、内燃機関の“味”を水素で味わえるようにしておきたい。そのために、こういうアプローチも試みておくに越したことはない(柏木氏)」との思いから生み出された水素REハイブリッド。技術開発の長期ビジョンである「サスティナブルZoom-Zoom」の息吹がしっかりと感じられる、いかにもマツダらしいチャレンジである。
プレマシーハイドロジェンREハイブリッド主要諸元
全長×全幅×全高(mm):4665×1745×1615
ホイールベース(mm):2750
乗車定員:5名
エンジン:RENESIS 13B水素ロータリー
燃料:ガソリンおよび水素
モーター種類:交流同期電動機
最高出力:110kW
ジェネレーター種類:交流同期電動機
バッテリー種類:リチウムイオン
タイヤサイズ:195/65R15
タイヤ種類:DUNLOP ENASAVE(石油外天然資源タイヤ)
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