アンモニアから高純度の水素を高効率で生成する「H2ハーモニー」の技術を披露。「空飛ぶクルマ」への言及も!! 【東京モーターショー】澤藤電機 「空飛ぶクルマ」と「H2ハーモニー」
- 2017/11/07
- Motor Fan illustrated編集部
2017年3月にアンモニアから高純度の水素を生成する装置を発表して(岐阜大学との共同開発)注目を集めた澤藤電機。創業から百年以上の歴史を持つ同社の核となるのは、創業のきっかけとなったガソリンエンジン用の点火装置、マグネトーの主要部品であるコイルを形作るための巻線技術。東京モーターショーへの出展は13年ぶりだ。
TEXT & PHOTO:高橋一平
スターターモーターやオルタネーター、HEVやEVの駆動用モーターなどといった車載向けの電装品を手がける澤藤電機。1909年にガソリンエンジン用の点火装置、マグネトーの生産を製造から始まったという、百年以上もの歴史を持つ老舗だ。
その核となるのは、モーターの主要構成部品であるコイルを形成するうえで欠かすことのできない巻線技術。近年ではエネルギー効率が重要視されることから、長年培ってきた経験とノウハウを基に、磁界解析技術の分野にも精力的に取り組んでいる。モーターや発電系という、電力を扱う技術を活かすかたちで、ポータブル冷蔵庫も手がけており、これらは海外でも高い評価を得ている。
10月26日に行なわれたプレスカンファレンスでは代表取締役専務の内野直明氏が登壇。その内容は、自動車業界で電動化が加速するなか、加速度的に存在感の増しつつある同社の立ち位置を固めながら、未来のモビリティ社会に貢献する新技術の開発にも積極的に取り組んでいくという堅実な決意表明であったが、その静かな語り口のなかで興味深かったのは「空飛ぶクルマ」への言及だ。
産業用ドローン向けに開発された、発電用エンジン。空中に浮かぶドローンは振動の影響を受けやすいため、エンジン両端にそれぞれクランクを持つ2クランク対向ピストン式の単気筒で、排気量は350cc。気筒あたり4つのバルブを持ち、サイドバルブのようにシリンダーの横にバルブを配置する。
左右クランクは写真左側のカムシャフト(クランクとはギヤにより連結)と写真右側のクランク軸を結ぶベルトによって連結。二本のクランクそれぞれに発電体が取り付けられており、この部分を澤藤電機が手がけている。エンジン本体は石川エンジンリサーチ社の開発によるもの。
上記発電用エンジンに用いられる発電体。従来の同体格品と比べ、20%強の軽量化と二倍以上の発電能力(従来品1.9kW→開発品2.4kW)を実現。重量あたりの出力で表す出力密度では実に三倍近いものとなるという(従来品0.81kW/kg→2.27kW/kg)圧倒的な性能だ。
産業用ドローン用に同社が新たに開発した超小型モーター。ステーターコイルの外側にマグネットを配置するアウターローター式、このローターハウジングにはマグネシウム素材を採用、ステーターコイルもアルミニウム巻線という軽量素材が用いられ、従来のものと比べると約35%もの軽量化に成功。その出力も従来品の0.45kW(定格)に対し開発品では1.4kW(定格)と、これまた圧倒的。最高出力は2.2kWだ。
同社が開発した産業用ドローン向けの発電体とモーターは、どちらも単位重量あたりの出力が既存の従来製品を数倍単位で上回るという画期的なもの。モーターの制御応答性はドローン技術になくてはならないものだが、これだけ性能が向上してくると有人の飛翔体、つまり「空飛ぶクルマ」も視野に入ってくる。
そして同社の新技術といえば忘れてはならないのが2017年3月の発表で広く注目を集めたアンモニアから水素を生成する技術だ。「H2ハーモニー」という名で展示されていたこの技術は、岐阜大学との共同開発で、革新となるプラズマ放電を発生させるための高電圧のパルス電流発生装置をはじめ、その電装部分を同社が担当している。高電圧を生み出すうえでもっとも重要な役割を果たす、トランス部分は同社の得意とする巻線技術の結晶だ。
可搬性に優れるアンモニアの分解による水素生成は、燃料電池に用いる水素を確保するための手段としてこれまでも検討されてきたが、従来の触媒反応法では高価な貴金属や、反応に必要とされる400から800度という高温とそのためのエネルギーなど多くの問題が存在していた。
澤藤電機が岐阜大学・次世代エネルギー研究センターと共同開発した「H2ハーモニー」はプラズマ放電を用いてアンモニアを分解することで99.999%という高純度の水素生成を可能としたもの。高純度ゆえに従来の触媒反応法で問題とされていた未反応の残留アンモニアによる燃料電池の劣化という問題も解決。
その鍵となったのはパラジウム合金を電極として使用する「プラズマメンブレンリアクター」、澤藤電機が共同で開発にあたったのは当技術の核心ともいえるこの部分で、高電圧の昇圧や狙った周波数で波形を形成させるための制御部分などまでを担当している。8.6気圧で液化するというアンモニアの特性を活かせば、水素ステーションへの運搬手段として期待できることはもちろん、この技術が車載可能となれば、アンモニアを燃料とするモビリティの実現にもつながるはずだ。
HEV/EV向けの駆動用モーターは同社が得意とする品目のひとつ。写真は日野自動車向けに同社が手がける製品で、ハイブリッド仕様の路線バスに搭載されているもの。同社が長年にわたって培ってきた巻線製造技術に加え、最新の磁界解析技術などにより、高効率高出力を実現。
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