〈試乗記:新型ダイハツ・タントカスタムRS〉DNGAの高い潜在能力を感じさせるハンドリングとシートの一体感。だがパワートレインと快適性、ADASの制御には今後の洗練を期待
- 2019/12/30
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遠藤正賢
では、肝心の走りはどうか。車庫を出た瞬間に感じ取れるのは、超背高軽ワゴンとは思えないほどの安定感と、レスポンス良くリニアなハンドリングを、高いレベルで両立していることだ。
DNGAのアンダーフロアは、着力点間の断絶をなくしスムーズにつなげることで、ボディのねじり剛性を高めつつ、高張力鋼板の使用部位を拡大し、さらにボディ・サスペンションとも構造を合理化して軽量化するという、スズキの「ハーテクト」と同様の考え方に基づいて設計されている。
その結果、タントでは先代に対しねじり剛性が30%アップしながら、車両全体で80kg軽量化。装備増加分を相殺してもなお40kg軽量に仕上がっている。そしてロール慣性モーメントは約12%、ボディの上下曲げ変位量は約22%、シートロール角は約9%低減された。またサスペンションも、安定感と乗り心地を最優先にしたジオメトリーを新たに設計し直している。
これらの効果は絶大で、従来の超背高軽ワゴンでは無意識に強いられていた、急激な挙動変化が起きないようすべての操作をゆっくりと行い、かつその先に遅れて現れる挙動を先読みして身構える必要が、この新型タントカスタムRSではほぼ必要ない。
だからタイトなコーナーが続くワインディングや首都高で旋回しても恐怖感は皆無。そのうえ、首都高速湾岸線のように海風の直撃を受ける場所でも直進性は極めて高い。この点に限っては、超背高軽ワゴンという前提を抜きにして見ても秀逸なホンダN-BOXを凌駕しているとさえ言える。
だが、乗り心地や静粛性もN-BOXを超えているかといえば、さにあらず。特に低速域では路面の凹凸や荒れを拾い、突き上げとロードノイズを少なからず乗員に伝えてくる。高速域ではさらに、Aピラー頂点付近から発生する風切り音も盛大になるため、快適性ではN-BOXに一歩譲る印象だ。
しかしそれ以上に気になったのは、大幅に改良されたKF-VET2型エンジンと、スプリットギヤを用いた新開発の「D-CVT」、そして「次世代スマートアシスト」のマナーである。
D-CVTには高速域でエンジントルクをベルトと伝達効率の高い遊星ギヤとの双方に分割しタイヤに伝えるスプリットギヤを採用したことに伴い、変速比幅はロー側、ハイ側ともワイド化。全体では従来の5.3から6.7(タントの場合。他の車種では7.3まで拡大可能)にまで拡大している。
これが燃費には有効でも、加速のリニアリティには少なからず悪影響を及ぼしている。発進時は、レスポンスに優れると言えば聞こえは良いものの率直に言えば過敏で、ギクシャクしやすいのが目に付いた。
その後負荷を上げ回転を高めていくと、今度はトルクが急激に立ち上がる。このドッカンターボ的なフィーリングは、先代のターボエンジンに対し圧縮比を下げる(9.5→9.0)一方で過給圧を上げ、最大トルクを92Nmから100Nmに高めたことによるものだろう。
そして最大の難点は、高速域でアクセルオフから再加速した瞬間、決して小さくないショックが乗員にもたらされることである。この際にD-CVTが、ベルトのみでエンジントルクをタイヤに伝える「ベルトモード」から、ベルトと遊星ギヤを併用する「スプリットモード」に切り替わるようだが、トルクの伝わり方が全くシームレスではない。
それは副変速機付きCVTが変速する時のトルク切れというよりもむしろ、パラレル式ハイブリッドがモーター単独走行からモーターとエンジンの併用モードに切り替わる際にクラッチがつながることで「ドン」と伝わってくる衝撃によく似ている。
なお、個体差による不調を疑い、ダイハツ広報を通じて開発部門に確認してもらった所、「スプリットギヤによりこうしたショックが発生することは把握しており、今後改善を図っていきたい」という回答が得られた。
また、新型タントよりADAS(先進運転支援システム)が「次世代スマートアシスト」へと進化しているが、今回ターボ車に「スマートクルーズパック」としてメーカーオプション設定された、全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)とLKC(レーンキープコントロール)についても言及しておきたい。
今回は晴天に恵まれ見通しが良く、白線もキレイな湾岸線で試したものの、ACCは車間距離を取り過ぎるうえに加減速のタイミング・量ともに遅く、これに任せて運転するのはかえって危険なレベル。LKCもほとんど仕事をしておらず、白線をはみ出しそうになって初めて車線中央へ戻るよう操舵アシストする車線逸脱抑制制御機能とほぼ変わらない印象だった。
ダイハツは2002年10月発売の3代目ムーヴカスタムRSにレーダークルーズコントロール、2006年10月発売の4代目ムーヴカスタムRSにプリクラッシュセーフティシステム、2012年12月発売の5代目ムーヴ後期型より「スマートアシスト」を採用するなど、ADASの展開にはかねてより積極的だ。
しかしながら、ことこうした高速道路向けの運転支援技術に関しては、制御の進化が17年前より止まってしまっているように見受けられる。本来こうした技術は非力なNA(自然吸気)エンジンを搭載する軽自動車にこそ欲しいものだが、この出来ならばターボ車のみメーカーオプションで正解、そして装着する必要はないだろう。
なお、市街地を中心とした今回の試乗での総合燃費は14.8km/L。限りなく実燃費に近い傾向にあるWLTC市街地モード燃費17.5km/Lとの乖離は大きく、それだけ加減速のコントロール性に難があることの傍証と言えそうだ。
新型タントカスタムRSは、初採用となったDNGAの高いポテンシャルを随所に感じさせてくれたものの、まだまだブラッシュアップが必要な点は多い。そして、「良品廉価」の御旗の下、コストカットのため明確に割り切ったと思われる所も散見される。
これはスズキにも共通しているが、ダイハツは軽自動車とそのユーザーを知り尽くしているが故に、従来の価値観のまま「この辺は頑張る必要はないだろう」と割り切ってしまう傾向にある。だがそれは、その点を頑張ったホンダや日産との差を自ら広げ、首を絞める結果につながっている。
今後タントが進化していくうえでまず必要なのは、技術の研鑽ではなく、企画・開発・販売・宣伝に携わる人の意識改革なのかもしれない。
【Specifications】
<ダイハツ・タントカスタムRS(FF・CVT)>
全長×全幅×全高:3395×1475×1755mm ホイールベース:2460mm 車両重量:920kg エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ 排気量:658cc ボア×ストローク:63.0×70.4mm 圧縮比:9.0 最高出力:47kW(64ps)/6400rpm 最大トルク:100Nm(10.2kgm)/3600rpm WLTC総合モード燃費:20.0km/L 車両価格:178万2000円
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