「一発タイムはDCT、ロングランならMT」ニュル最速男、ロラン・ウルゴンが明かすルノー・メガーヌR.S.トロフィーのすべて
- 2020/03/17
- ニューモデル速報
驚異の走りと快適な日常遣い。この二律背反の両立がR.S.モデルの真髄といえる。サーキット志向を強めたトロフィーや、最強版のRでも、そこに目をつぶりはしなかった。その開発の過程を、メガーヌR.S.シリーズの味付けを担うトップガン、ロラン・ウルゴン氏に語ってもらった。
TEXT : 佐野弘宗 (SANO Hiromune)
PHOTO : 花村英典 (HANAMURA Hidenori) / Renault
トロフィーの要件も満たしたシャシー・カップの完成度
ルノー・スポール(以下、RS)でテストドライバーをつとめるロラン・ウルゴンは、先代から2世代にわたるメガーヌRSの開発(と、同車によるニュルブルクリンクでのすべてタイムアタック)を担当してきた。メガーヌRSに新たに追加されたトロフィーと、聖地ニュルブルクリンク北コースで量販FF最速の称号を奪還した限定モデルのトロフィーRは、ともに彼の仕事である。
2019年11月下旬に行った今回の取材は、タイムアタックを兼ねたトロフィーRの鈴鹿テストのために来日したタイミングだった。彼はテストやプロモーションなどで頻繁に来日しており、19年は日本で限定販売(本国ではカタログモデルだが)されたメガーヌRSカップの発売に合わせた2月に続き、今回が2度目の来日だった。
「トロフィーはメガーヌRSでも最も多用途なスポーツカーです。シャシー・カップをベースとしながら専用の300㎰エンジンを搭載して、よりサーキット向けの位置づけですが、公道での乗り心地にも配慮しています。現在のRSにおけるフラッグシップということになります」。
弟分のルーテシアRSトロフィーは専用サスペンションを与えられていたが、今回のトロフィーのシャシーはウルゴンもいうようにシャシー・カップと基本的に共通だという。そこにバイマテリアル・フロントブレーキや19インチタイヤなど本国ではオプションの装備を標準化した点がトロフィーの特徴なのだが、結果的には先に日本で限定販売されたカップとほぼ同じ内容でもある。
「トロフィーのシャシー内容を最初から決めていたわけではありません。現行メガーヌRSではまずシャシー・スポール(=日本での標準仕様)とカップを明確に差別化することを意図して開発しました。
その結果として、今のシャシー・カップはサーキット走行でも十分使えるものになって、トロフィーでもエンジンとタイヤのグレードアップだけで対応できたと理解してください。その前のルーテシアRSではスポールとカップの差が小さかったので、トロフィー化にあたってチューニングの余地があったんです」
サーキット志向のマシンでも快適性を確保するのがRS流
先ほどのウルゴンの言葉にもあるように、サーキット志向モデルであるトロフィーであっても、一般道での快適性に配慮するのがRSの流儀である。
「トロフィーRを例外として、メガーヌRSの開発では6〜7割の比率をオープンロードで行いました。細かく言うとスポールが7割、カップ/トロフィーが6割です。この比率は開発前の仕様書段階で基本的に決めます。いずれにしろ、日常域でも使えるスポーツカーが、RSのコンセプトですから」
というわけでトロフィーのシャシーは、結果的にシャシー・カップのフルオプション仕様といえる内容になっている。だが、実際の走りに多大な影響を与える変更点も見られる。デュアルクラッチの6速EDCにもトルセンLSD(6速MTはカップでもトルセンLSDが標準装備)を備えるのが、トロフィーのドライブトレインの大きな特徴だ。
「サーキット走行が頻繁ではないと想定するシャシー・スポールでは、日常の使い勝手に優れるRSデフ(電子制御トルク配分システム)で十分と判断しました。ただ、出力が300㎰になり、サーキット志向を強めたトロフィーでは、やはりトルセンLSDは不可欠でした。
そのトルセンLSDですが、MTとEDCでトルクバイアスレシオも微妙にちがいます。というのも、両者で最大トルクが異なりますし、また変速スピードも大幅に差があるからです。EDCはMTより20㎏ほど重いですが、最大トルクが20Nm大きく、トルセンLSDも専用セッティングにできたことで、サーキットでの純粋なパフォーマンスはEDCのほうが高いと言えます」
ウルゴンには19年2月のカップ限定車の発売時にもインタビューしているが、そのときは「シャシー・カップではコースや状況によってMTとEDCの優劣は変わります」と語っていた。
「対するトロフィーはどのサーキットでもEDCのほうがラップタイムは速いです。ただ、同じコースでも周回を重ねるごとに20㎏の重量差が効いてきます。タイヤやブレーキへの負担はEDCのほうが大きいのは事実なので、周回数が増えるにつれて、MTとのタイム差が縮まり、周回数によっては最終的にMTが上回ることもあるでしょう。ただ、一発のラップタイムは変速スピードが速いEDCが明らかに上です」
走りを極めたRSモデルにはトップガンの意見が随所に
ウルゴンが直接担当する開発分野はシャシー部分である。エンジンやその他の装備品の開発は別部隊が責任をもって行っている。
「例えばエンジンサウンドについても私に責任があるわけではありません。ただ、開発初期段階で実際にドライブするのはほぼ私だけ(笑)なので、当然ながら意見は聞かれます。今回は新しいアクティブバルブ付スポーツエキゾーストが装着されたので、どういう場面でどういう音がほしいのかは私も意見を出しました。最終的なサウンドマッピングは私も満足のいくもので、高速巡航ではほどほど静かで、本当に必要なときだけスポーツカーサウンドが楽しめるようになっています。
アルカンタラを使ったステアリングホイールやレカロシートについても同様で、これらの部分は試作品もないデザイン段階から私も意見を出しています。ステアリングなら直径からグリップの素材、太さ、形状、握り心地、剛性にいたるまで細かく意見を出します。シートも同じで、私たち開発ドライバーの意見は実際にもかなり反映されています。
こうした部分は私が最終的な決断を下すわけではないですが、どんな細かい改良についても、開発のすべてのマイルストーンごとに私も呼ばれて、意見を求められます」
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