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トヨタグループの底力:トヨタと他の赤字自動車会社とではどこが違ったのか? 危機対応能力の高さを支えているの背景を分析する

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では、トヨタと赤字組とではどこが違ったのか--

ダイハツがインドネシア市場専用車として2013年9月に現地生産を開始したアイラ(Ayla)。LCGC(ローコスト・グリーンカー)としての認定を受けるため燃費に重点を置いた設計だ。トヨタ・ブランド向けのアギラもダイハツが生産する。写真は2017年4月にマイナーチェンジされたモデル。

地域別で見ると、トヨタにとって最大のマーケットである北米での販売台数は2020年度(つまり前年度)Q1が74.4万台で2021年度Q1(ことし4〜6月)は28.5万台。台数落ち込みが大きく、営業利益も赤字だった。欧州は2020年度Q1が29.7万台だったのに対し今年度Q1は14.1万台であり、営業利益も赤字だった。欧米はかなり不調だったといえる。

半面、アジアは好調だった。トヨタの連結決算に含まれる東南アジア諸国を中心に428億円の営業利益だった。日本国内での営業利益は774億円。ほかの地域は軒並み赤字だった。また、中国の一汽豊田汽車、広州豊田汽車、四川豊田汽車を合わせた業績も堅調で、販売台数は2020年度Q1比で14%増だった。中国はCOVID-19(新型コロナウィルスによる感染症)からのリカバーが早かったことが影響した。

ASEAN(東南アジア諸国連合)は日本車のシェアが90%を超えており、日本の自動車産業にとっての絶対国防圏的な位置付けだが、トヨタはダイハツ設計のA/Bセグメント・モデルで低価格帯を押さえている。日本で販売されていないインドネシア向けのLCGC(ローコスト・グリーンカー)であるダイハツ・アイラ/トヨタ・アギラ、ダイハツ・シグラ/トヨタ・カリアなどが売れている。ダイハツのASEANでの販売台数は約80万台を数える。

LCGCとしては珍しい3列シート7人乗りのダイハツ・シグラ(Sigra)もインドネシア専用モデル。このほかダイハツのインドネシア工場ではセニア、シリオン、テリオス、グランマックス・バン(日本向けにタウンエースとして出荷させている。マツダ・ボンゴも同車)などを製造する、年産能力は53万台。

欧州では、COVID-19蔓延で都市封鎖が相次いだイタリアとスペインでフィアット・パンダ、ルノー・クリオ、プジョー208といった売れ筋モデルがことし上半期(1〜6月)は軒並み前年比50%以上の減だったが、トヨタは欧州全体で見ればヤリスが36%減、C-HRは37%減と一部車種で持ちこたえた。カローラは14%増だった。これにはモデルチェンジのタイミングも影響したが、欧州勢のなかではモデルチェンジ後1年程度のモデルでも40%以上のマイナスという車種があることから見れば、トヨタの販売実績は、ライバルとの比較では悲観するほど悪くなはい。

いっぽう、日本国内では774億円の営業利益を挙げたが、これは「身を削っての利益」である。値引きと販売店向けインセンティブ(販売奨励金)も利益を圧縮した。トヨタ販売会社のほとんどが直営であり、その意味ではメーカー主導の販売支援はやりやすい。いま、トヨタは直営販売会社の持ち株を地場資本の販社に売却する活動を進めており、今後は「地域ごとの特性に合わせた販売を行なう体制が整う」という。同時に全車種を全店舗で扱う。地場資本に販売会社の経営を委ねることで、店舗ごとの商圏の調整をスムーズに進め、生産体制に影響を与えない「売れ筋の分散」を狙っている。

通期の業績見通しは、 連結販売台数の増加を見込んでいる一方、 今後の新型コロナウイルスの感染拡大や 収束の状況等によって、経営環境が大きく変動する可能性があることなどを踏まえ、 トヨタは営業収益および営業利益については、5月時点の見通しを変えていない。税引前利益8900億円、当期利益7300億円 を見込んでいる。

2021年3月期(2020年度)の今後についてトヨタは、通期の販売台数見込みを830万台としている。前年同期に対しQ1は大幅マイナスだったが、Q2では前年同期比15%減、Q3は同5%減、Q4は同5%増を見込んでいる。Q5の前年同期比5%増という見込みは、前述の国内販売体制再編の効果にも期待した数字と思われる。通期の連結決算見通しは売上高24兆円、営業利益5000億円、最終利益7300億円との見通しだ。

そして、利益目標達成には「原価低減努力」が必須である。2020年3月連結期決算でトヨタは、為替変動により3050億円、COVID-19の影響で約1600億円の営業利益マイナス要因に見舞われたが、原価低減努力で1700億円をリカバーした。これにはトヨタ社内での生産方法工夫や省人化の努力だけでなく、サプライヤーが協力した原価低減が含まれる。

ジェイテクトが担当するコラムタイプ電動パワーステアリングの減速ギヤ部分。樹脂製のギヤと金属製のギヤが噛み合い、半永久的な寿命を持つ。電動パワーステアリングの分野ではトヨタ・グループのジェイテクトがグループPSA(プジョー、シトロエン、オペル)などに供給を行なっている。FF用では世界のトップシェアを誇る。
変速機の図面。「なぜ、ここはこうなっているのか」と尋ねると、すべての部分できちんと理由が返ってくる。ギヤの精度も高い。中国の自動車メーカーにも日本製変速機を採用するところは少なくない。「ドイツ製より安いのに性能は変わらない」ためだ。トヨタ・グループの変速機では、旧アイシン・エーアイ(現在はアイシン・エィ・ダブリュが吸収)製MTは一時ポルシェが採用し、現在はBMWが採用している。アイシン・エィ・ダブリュ製のステップATはVW、プジョー、シトロエン、オペルなどが採用している。
精密かつ複雑形状のアルミ鋳物といえば、このようなトランスミッションケースが代表格だ。担当はアイシン・エィ・ダブリュ。設計は緻密で、かつ将来の展開に幅をもたせているが、製造時間は驚くほど短く加工部分も少ない。しかし過剰な部分はない。過剰を作りたがる(それも要求のひとつ)ドイツ製とは傾向が異なる。
THS II(トヨタ・ハイブリッド・システムII)に使われている回生協調ブレーキユニットはアドヴィックス(ADVICS)が担当する。上下に並んだシリンダーンのうち、上側はブレーキペダルとつながっている油圧ピストンで下側は作動油圧を発生させるピストン。金属製巻きバネとシール材と油路を開けた金属で構成されるが、これをコピーしようと考えた中国企業は、公差管理の難しさから断念した。

トヨタグループのサプライヤーの製造現場を取材すると、さまざまな工夫を目にする。いわゆる「カイゼン活動」の成果だ。たとえば、鋳物部品を作るときには、溶けた金属素材を鋳型からほとんどこぼれさせない。ほぼピタリで作る。だから後工程で削り落とす素材の重量が減る。まるで人間が目で見ながら手加減するような動作を機械が行なうのだ。複雑な形状のアルミ鋳物でも驚くほど短時間に成型する。しかも内部に空洞ができない。

日本の「ものづくり」は、かつて礼賛されたほどの優位性をすでに持たない。欧米勢の追い上げはすさまじく、すでに日本が「負け」の領域も少なくない。それを知らないのは現場を見ない経営陣だけだ。日本は相変わらず「現場力」だけで耐えている。しかし、トヨタグループのサプライヤーはいつ見ても凄いと感じる。筆者は過去、全世界で部品から車両まで300カ所以上の工場を取材してきたが、これ見よがしの先端マシンを並べた驚くほど綺麗で静かなドイツの工場に対し、日本のサプライヤーは「よくもこの古い設備と床面積でこなしているなぁ」と思う。その最右翼がトヨタグループのサプライヤーである。

部品設計も担当するサプライヤーは、じつに小型で簡素な機械を作る。しかも安い。ドイツのサプライヤーは機械のレンタル代まで原価に乗せるが、日本ではそれは許されない。ある面でこれは悪しき慣習であり、産業ピラミッドの頂点に位置する自動車メーカーだけはつねに儲かる仕組みでもある。しかし、自動車メーカーが要求するそこそこの性能の部品(その多くはけしてダントツ性能ではない。過剰な品質や余計な飾りのない、必要十分な性能という意味での「そこそこ」である)を、驚くほど安く、しかも安定した品質で大量供給できる点は日本の強みだ。

トヨタの2021年度Q1連結決算の黒字。それはグループの総力である。その点を心に留め置いていただきたい。

可変スタビライザー、エアサスペンションなどを備えたリヤサスペンションモジュール。担当はアイシン精機。これはまったくの私見であり、なんの意図もない記述として捉えていただきたいが、トヨタ自動車が存在しなくても「自動車メーカーとしてのトヨタ・グループ」は成立する。それぞれのパートにその分野のエキスパートであるサプライヤーが存在するからだ。しかし、トヨタ自動車が中心にいて求心力を発揮しているからこそ、サプライヤーは力を発揮でき、他流試合(トヨタ以外への供給)もできる。だからトヨタの存在が重要なのだ。

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