海上自衛隊:海軍統合射撃管制-対空(NIFC-CA)を搭載予定の新鋭イージス艦「まや」型 | 自衛隊新戦力図鑑
- 2020/09/19
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貝方士英樹
陸海空3つの自衛隊の装備と能力を合わせ機能することを「統合防衛」という。そのなかで海上自衛隊は新世代の艦艇整備を進めている。今回は、最新鋭イージス艦「まや」型を解説する。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
海上自衛隊は新世代の艦艇整備を進めている。それは日本の領域(領海と領空、領土)防衛能力を向上させる狙いがある。陸海空3つの自衛隊の装備と能力を合わせ機能することを「統合防衛」というが、海自の新世代護衛艦は統合防衛のための洋上対応能力を前面に押し出すコンセプトで計画される。
その具体例のひとつが、護衛艦いずも型を航空母艦へ改修し、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)が可能な最新鋭ステルス戦闘機F-35Bを艦載、運用する計画。ホットゾーンである日本の南西諸島海域へ『空母いずも×F-35B』を展開させれば、国籍不明機等による領空侵犯などへの対応が、現在の陸上基地から発進するスクランブル対応よりも格段に早くなる。実効力が高められる策だ。東シナ海での抑止力効果ももちろん期待できる。
『空母いずも』は海自が操艦し、艦載する航空部隊のF-35B飛行隊は空自が担当することになるのだろう。陸自で米海兵隊のような能力を持つ「水陸機動団」の人員と水陸両用車は現状、輸送艦おおすみ型が要所へ運ぶ。
仮に、日本の離島へ侵攻・占拠等の兆候が見られた場合、島嶼防衛の陸上戦力は「おおすみ」型や輸送ヘリなどで島々へ前進展開し、水際防衛線を築く。さらに奪われた島々の奪回が必要な局面となった場合には、陸海空各々の装備・戦力を投入して奪い返す統合戦を行なう。だから、「おおすみ」型以上の揚陸・上陸行動を行なえる揚陸艦の整備も必要との見方もある。
いきなり島嶼防衛の話にしてしまったが、離島の奪回という局面の前に、相手の侵攻や攻勢を防ぐことが先だ。洋上防衛力向上のために海自は最新鋭の護衛艦を整備し、新たな体系を作ろうとしている。
そのひとつが、新型イージス艦「まや」型だ。本艦は「はたかぜ」型(「はたかぜ」「しまかぜ」)の後継だ。「はたかぜ」型は冷戦時代にミサイル護衛艦として艦隊防空を担っていた。
新型護衛艦「まや」は2020年3月19日に同型1番艦として就役している。第1護衛隊群第1護衛隊(横須賀)の配備だ。2番艦「はぐろ」は2019年7月17日に進水し、洋上試験等を行なっており、2021年3月に就役予定だ。「はたかぜ」型は練習艦へ艦種変更、イージスシステムを持たないミサイル護衛艦は現役引退となる。
海自は「まや」型2隻の整備に加え、現用の「こんごう」型4隻(こんごう、きりしま、みょうこう、ちょうかい)と、同じく現用の「あたご」型2隻(あたご、あしがら)と合わせ合計8隻のイージス艦を保有することになる。これは米海軍に次ぐ隻数で、8隻のローテーションで投入される実働数ならば日本全土を弾道弾や巡航ミサイルなどから守ることもできる。
イージス艦が積む「イージス武器システム(AWS:AEGIS Weapon System)」は主要武器体系の名称で対空戦闘重視の艦載武器システム全体を指し、艦隊全体をカバーする防空能力を持つ。開発は米海軍とロッキード・マーチン社による。
システムはレーダーとセンサー、制御装置、武器(ミサイル)の3分野で構成される。探知の中核となるのはSPY-1多機能レーダーだ。外観は艦橋構造物などに設置された平坦・多角形の物体で、長距離・広範囲を探ることのできるレーダーである。制御装置は高性能コンピュータ群を指し、攻撃相手の脅威度を自動判定し射撃(反撃)も自動制御で行なう。反撃手段となる武器は「スタンダード対空ミサイル(SM-2、SM-3)」などだ。システムには弾道ミサイル防衛能力(BMD)も加えられている。現代の海洋戦闘、なかでも高速化するミサイルや戦闘機を相手にする対空戦闘はレーダーとセンサー、コンピュータ、通信・情報共有それぞれの高速性・高信頼性等で優劣が決まり、勝敗が決まる。相手より早く見つけ、叩く。ワンサイドゲームなどと言われ、互角の戦いは発生しない様相になるという。
米海軍はイージス艦のシステムを順次アップグレードさせ続け、変動する安全保障環境に合わせ続ける体系をとっている。システムは、「ベースライン」と呼ばれる仕様で表される。海自の「まや」のシステムは米海軍のベースライン9Cに相当する「J7」と呼ばれる最新版だそうだ。弾道弾迎撃システムのバージョンは「BMD5.1」にアップされているという。「こんごう」型や「あたご」型は、就役年の差異により「まや」より旧型のベースラインとBMDバージョンだったが、各々更新し、アップグレードが図られている。つまり、ひとくくりにイージス艦と呼ばれるなかでも能力には差があるということになる。
「まや」型で期待される特徴はネットワーク戦闘能力の具体化だ。戦闘情報を共有する共同交戦能力(CEC:Cooperative Engagement Capability)を備えている。加えて、海軍統合射撃管制-対空(NIFC-CA:Naval Integrated Fire Control-Counter Air、ニフカ)能力を実装する予定だ。ニフカとは、艦艇では捉えきれない水平線の向こうの脅威情報を獲得するもの。地球が丸いことにより艦艇レーダーでは角度的に探知外となる水平線以遠から高速飛来するミサイルや戦闘機を「別の手段」で早期探知し、情報処理を行なって取得するものだ。
別の手段とは、空自の早期警戒機E-2Dや戦闘機F-35A、さらにはF-35Bを水平線以遠へ先行展開させ、哨戒(パトロール、監視、索敵)して脅威となる目標(ミサイルや戦闘機)を発見させる。その情報を「まや」は受け取り、対空ミサイルを発射するものだ。E-2DやF-35を「まや」の遠隔センサーとする仕組みである。味方他者が探知した目標情報を、あたかも自らが捉えた目標として照準し、射撃するシステムというわけだ。
また、CECの実装と、ニフカの実装予定に加えて防衛省は、統合防空ミサイル防衛(IAMD:Integrated Air and Missile Defense)能力も持たせる予定だ。これは弾道ミサイル迎撃に専念しているイージス艦はそのとき、戦闘機などによる航空攻撃に弱かった。僚艦防空艦「あきづき」の開発導入動機はこの辺りにある。また、海面スレスレを飛行し発見しにくい巡航ミサイルへの対応も同様。IAMDはこれらに対応しようとするものだ。洋上の防衛活動はネットワーク化がさらに進む様相となってくる。
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