マツダMX-30のフリースタイルドアの秘密「ロータリーとフリースタイルドアは定期的にやって、技術が切れないようにしていかないと」
- 2020/10/19
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世良耕太
マツダMX-30の最大の特徴は、フリースタイルドア(観音開き)である。RX-8以来の採用となったわけだが、格段に厳しくなった側面衝突の安全基準をクリアするのは容易なことではない。マツダ技術陣はどうやってフリースタイルドアを成立させたか? 開発者に訊いた。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎山上博也(YAMAGAMI Hiroya)/Motor-Fan
マツダMX-30を特徴づけているポイントのひとつはフリースタイルドアだ。リヤドアは通常センターピラー(Bピラー)にヒンジを持つが、MX-30はこれをなくし、リヤドアのヒンジを後方に移した。その結果センターピラーを持たなくなったので、前後のドアを開けると大きな開口が生まれる(フロントから先に開けないと、リヤドアは開かない)。
センターピラーは側面衝突の安全基準をクリアするのに重要な役割を果たす。前席乗員をどこに座らせるかによって、センターピラーの位置を決めるほどだ。しかし、MX-30にはセンターピラーがない。では、どのようにして衝突安全の機能を確保したかというと、リヤドアにバーティカルレインと呼ぶ高強度材を配置することで対処した。このあたりの事情について、車両開発統括の立場でMX-30の開発に携わった森谷直樹氏(マツダ株式会社 車両開発本部 車両開発推進部 副主査)に話を伺った。
──MX-30のフリースタイルドアを見たとき、単純に側面衝突対応に苦労しただろうなと思いました。
「弊社にはRX-8というクルマがありました(2003年発売)。このクルマもフリースタイルドアを採用していましたが、あの頃に比べると衝突基準は厳しくなり、車体に求められる強度は上がっています。強度はBピラーで確保するコンセプトで作っていますので、Bピラーがない状態でいかに求められる強度を確保するかが課題でした」
──ドライバーをどの位置に座らせるかで、Bピラーの位置は決まってくると思うのですが。
「そうです。マツダの場合はコモンアーキテクチャーの考え方で、MAZDA 3もCX-30も人の位置を決めています。MX-30はリヤドアの中にバーティカルレインという補強を入れて強度を確保していますが、その位置はコモンアーキテクチャーで決めた位置に合わせています」
──MX-30の外形寸法はCX-30とほぼ同じですが、人の座らせ方もCX-30と同じですか?
「ほぼ一緒です。まず、ドアの位置関係を一緒にしています。次にエネルギー吸収ですが、Bピラーがないぶん、車体の開口部で受けることで同体質にしようとしています。コモンアーキテクチャーの応用です。フロントドアの考え方は一緒で、リヤドアにはBピラーの代わりになるバーティカルレインが入っている。これは、1500MPaのホットスタンプ材です。現状手に入るもっとも強い高強度材で、エネルギー吸収を行なっています。ドアラッチはRX-8と同じで、上下に設け、車体に結合させる構造です」
──上下のドアラッチを通じて、衝突エネルギーが車体に伝わる。
「はい。基本的にはBピラーの代わりにバーティカルレインで受けるのですが、車体とは(ドアラッチ部での)ピン結合になります。そのため、伝達効率はかなり落ちることになります。そこで、バーティカルレインそのものを大きくしてBピラーよりエネルギー吸収を増やすと同時に、ドアの開口を固め、そこに分散させて力を逃がす考えを取り入れました」
──ドア開口部を固めたのもポイントなのですね。
「ヒンジを取り付ける部分を強くするのは当然ですが、そうすると、その間をつなぐAピラーとルーフサイドが弱くなってしまう。MX-30ではAピラーとルーフサイドにも1500MPaのホットスタンプ材を採用して、強力な枠を作りました。Bピラーに1500MPaを使う例は多いのですが、Aピラーとルーフサイドまで使うのは観音ドアならではです」
──設計したものを作れるかどうかは、また別問題のような気がします。
「ホットスタンプ材はかなり成形性が悪いので、サプライヤーさんに協力いただきながら開発を進めました。デザインさんにも協力いただいた。設計とデザインと生産、ものづくりの総力戦でやりました」
──バーティカルレインの制約から、あまり凝った形状にはできないように思えますが。
「そうですね。例えば、マツダ3やCX-30のドアは開口をえぐっていますが、あれをやるとサイドレインやバーティカルレインの断面が取れなくなります。そんなこともあり、デザインさんにはなるべくプレーンな面にしてもらうことを、一緒にやってもらいました。いろんなところがピンポイントで成り立っています」
──そうまでしてフリースタイルドアを成立させたかった。
「それだけのことをしてでも、このクルマは新しい価値をださなければならぬと、総力戦でやりました」
──シートベルトのアンカーをドア側に持たせるか、車体側に持たせるかも議論になったことと思います。
「MX-30ではドア側に入れました。RX-8のときはアンカーがクルマ側にあり、ドアを開けた際にベルトがクルマ側に残って乗り降りしにくいと。そこで、今回はドア側に入れました。乗員位置や室内幅は基本的にCX-30と同じなので、ドア側にアンカーを付けようとすると、すごく限られたスペースしか残りません。そこもそれなりの苦労を重ねて成立させています。クルマの丈があったから成り立っているところはあります。RX-8のように車高の低いクルマだったら、成り立ったかどうか分からないですね」
──ボディ剛性についてはいかがでしょうか。
「Bピラーがないぶんを取り戻してやれば同体質になるはずなのですが、実際はねじり剛性も曲げ剛性も上がりました。エネルギー吸収をやるなかでまわりを固めると、本来のピラー付きよりかなり余剰的になるので、余裕のある車体ができました。その結果、乗り心地は全体的にしっとりし、角のとれたフラットなライド感がさらに良くなっていると思います。そうした、二次的な効果がありました。開口部の剛性が上がり、しかも上下のラッチで引き込んでいるので、遮音性も結果的には上がっています」
──質感も結果的に上がったと。苦労した甲斐があったということですね。
「私もそうなのですが、社内にはRX-8を開発したメンバーが残っています。そのときの経験を生かしながら、若手のエンジニアにアドバイスすることで、彼らが新しい発想でいろんなアプローチができるようになりました。今回は一度まっさらな状態にし、ドアやピラーレインの機能を考えてみたのです。それが若手エンジニアの訓練になり、スキルを上げる効果につながったと感じています」
──できあがったものを見てしまうと、どうしてそういう設計になっているのかわからないままやり過ごしてしまう。
「元から考えることをせず、最適化設計しかしないので、最近はとくにそうです。そういう意味でも、フリースタイルドアの設計はいい刺激になったと思っています。マツダは20年に一度くらい観音ドアをやって技術伝承しないといけないねと、冗談半分で言い合っています」
──では、ロータリーエンジンのもやらないといけないですね。
「そうですね。ロータリーとフリースタイルドアは定期的にやって、技術が切れないようにしていかないと」
──ありがとうございました。
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最高出力:6.9ps(5.1kW)/1800rpm
最大トルク:49Nm/100rpm
トランスミッション:6速AT
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市街地モード 12.3km/ℓ
郊外モード 16.1km/ℓ
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トランスミッション:6速AT
車両本体価格:242万円
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