【アーカイブ・一世一台】偉大な先駆か、空前の失敗か? ホンダ・ロゴとJムーバーの光と影(その2・「Jムーバー」キャパ&HR-V 編)
- 2020/11/01
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MotorFanアーカイブ編集部 高橋 昌也
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ライフスタイル&ステージにあわせたロゴ派生車種群、その名は「Jムーバー」
ホンダCAPA(キャパ) Cタイプ 主要スペック
「Jムーバー」第二弾登場、そして再びロゴへ
ホンダHR-V JS4 3ドア 主要スペック
「Jムーバー」第二弾登場、そして再びロゴへ
「Jムーバー」第二弾である「HR-V」は、ある意味、ロゴのアドバンスド・モデルといった感のあった「キャパ」に対し、「若者をターゲットに置いた、街乗りからレジャーまで楽しめるカッコよくて面白いクルマ」=「Jムーバー」としての本命車だったと言える。これは「Jムーバー」始動前のかなり早い段階から、ロゴにまつわる一連の計画全体を統括していた黒田RADが、このクルマのことを盛んに「ハイライダー」という仮称で呼んで発売予告していたことからも伺える。
車名の「HR-V」とは「Hi-rider Revolutional Vehicle(ハイライダー・レボリューショナル・ヴィークル)」の略。「ハイライダー(Hi-rider)」とは主にカスタムカーの用語で、車体高を高くせずに乗車位置を高くしたスタイルデザインを指し、主に大径タイヤの装着やサスペンション高の調整といった手法で実現される(この逆に低くしたスタイルデザインのことを、カスタムカー界隈では「ローライダー(Lo-rider)」と言う)。一般に日本では「ハイライダー」と言うと「高所作業車」のことを指すが、こちらは英語では「High Rider」となる。つまり「HR-V」とは「革新的ハイライダー車両」という意味だ。
面白いことに、「HR-V」の狙いのポイントは、なんとSUV仕立てでありながらも「街の中」であり、「スポーティにハンドリングも楽しむこともできるクルマ」、しかも「カッコ良く街でも目立つ存在でありたい」であった。要するにSUV的な外観はカッコ良く街中で目立つための手段であって、実際にはRV的なオフロード走行の楽しさを目指したものではなく、街中でのスポーティな走りを意図した全天候・全地形スポーツカー的なクルマだったのだ。CR-Vの小型版ではなく、むしろコンセプトはスバルのアウトバック(この当時の日本名はレガシィ・グランドワゴンやランカスター)に近い。また、意外にもCR-VではなくSM-Xの客層を狙っていたという。当初はスポーティな3ドア版のみだったが、すぐにファミリー向け(?)の5ドア版が加わった。
エンジンはロゴと同じくD型で、ロゴより大きな1.5ℓを積んだキャパよりさらに大きい1.6ℓのD16A型の1種類(ただしハイパー16バルブの105ps仕様とVTEC装備125ps仕様の2種がある)。これはSUVライクなスタイルゆえに4WDを設定したことやスポーティな動力性能を実現する狙いもあったが、「ジワッと力強いトルクを確保するには排気量は大きい方がいいから」という判断だった。ロゴとJムーバーは乗りやすさを第一に、常にトルク重視のエンジン選択をしていた点が特徴と言えるかもしれない。
このエンジンに組み合わされたのが、5速MTと「ホンダマルチマチックS」と呼んだプロスマテック(PROSMATEC)制御を織り込んだCVTだ。プロスマテック制御とは、シフトパターンに「平坦路」「登坂(3パターン)」「降坂(3パターン)」を持ち、シフトコントロールを綿密に自動制御することで登降坂路において最適な変速特性を選択するホンダ独自の変速スケジュールシステムだ。これにより登降坂路での頻繁なアクセル&ブレーキ操作を抑制、スムーズな走りを実現しようとしたものである。この「ホンダマルチマチックS」は、「HR-V」において、リアルタイム4WDとの初の組み合わせとなった。5速MT仕様を設定していたこととあわせ、「HR-V」が快適な走りを意識した車種だったことがわかる。
サスペンションの基本ジオメトリーはロゴやキャパと同様だが、キャパに比べ、相対的な意味でエンジンとサスペンションの組み付け位置を低く抑え、大径タイヤをはかせることでロードクリアランスを190mm確保した形である。フロントサスはおなじみのマクファーソンストラット式だが、ロゴではなく、一つ上のクラスの初代ステップワゴンやS-MXの物に則った改良版で、サス剛性を高めるストレートビームが入っている。リヤサスは2WD版には5リンク式が、4WD版にはド・ディオン式5リンクアクスルが採用された。ホンダが得意のダブルウィッシュボーンをロゴや「Jムーバー」のリヤサスにあえて投入しなかったのは、ラゲッジスペースを満足させるためだった。
キビキビした走りを求めたため、「HR-V」の試作車はサスペンションを固め過ぎて乗り心地が悪くなってしまった。それを直すとロールが大き過ぎてしまい、また戻すという繰り返し…。さらに海外輸出も想定していたため、イギリスやドイツの一般道や高速道路もかなり走り込んだ。足まわりの開発には相当の苦労があったという。無論、これは「HR-V」が「走り」を魅力に掲げていたクルマだからに他ならない。
逆に使い勝手に関しては、これと言って特筆すべき点はなかったし、取り立てて悪い点も存在しなかった。見た目の通りに後席は「+2」の範囲内では十分なものだったし、ラゲッジルームの広さも特に狭いこともなかった。フロア地上高が高い分、重量物の積載には少し苦労するが、SUVだと思えばこんなものだ。
かくして1998年4月の「キャパ」に続き「HR-V」も9月に発売となったが、話はさらに続く。「HR-V」発売の2ヶ月後となる11月、ロゴが1996年10月に発売されて以来、二度目となるマイナーチェンジを敢行する。この目的は主に強化される排ガス規制と衝突安全性への対応のためだったが、「Jムーバー」開発の知見も取り入れられ、ほぼフルモデルチェンジに近いものとなっていた。特筆すべきは4WD仕様が設定されたほか、ホットモデルであるスポーティグレードの「TS」が加わったことだ。
この「TS」には同じD13B型エンジンでも、6代目EK型シビックに搭載されたものと同じ16バルブ仕様が搭載されて出力は91ps/6300rpmとなったが、半面、11.6kgm/4800rpmと最大トルクはわずかに増大したものの、発生回転数が高くなってしまっている。また、サスペンションがローダウンされ、フロントサスにはφ24mmのスタビライザーが装着されたが、これは「TS」がロゴの中でも「走り」に特化した特殊な仕様であるためで、一般グレードには頑なにスタビライザーは装着されなかった。ここに「やはりロゴは"街乗りベスト”が基本なのだ」という、開発陣の意地と言うか強固な意志を感じざるを得ない。2000年4月の三度目のマイナーチェンジにおいて、「スポルティック」グレードの追加に伴い、この「TS」は「スポルティックTS」へ改変され、前後サスにスタビライザーを備えるに至るが、やはり一般グレードは最後まで「街乗りベスト」を貫いたのである。
実は1998年のジュネーブショーに「J-DX」の名で(欧州)輸出仕様のロゴ--日本の2000年マイナーチェンジ版と同様の外観を持つ--が参考出品されており、記者会見のスピーチで当時の川本信彦社長が「Jムーバー」と呼んでいるため、ロゴ自身も「Jムーバー」であるとする見解がある。だが、「J-DX」とはこの「TS」グレードのことを指していたのではないだろうか? つまり「走り」を意識したロゴの「TS」グレードは、後に「インサイト」となる2ドアクーペの「J-VX」が「Jムーバー」のラインからはずれた事で生じた穴を埋めるスポーツ車種として企画されたのではないか。そもそも「街乗りベスト」のロゴとは別車種として企画された…。そう考えると標準のロゴが最後までサスペンション仕様を貫いた事は辻褄があう。あくまで筆者の妄想に過ぎないが…。
結果としてロゴも「Jムーバー」も販売は低空飛行、計画数を大きく超えることもなくその生涯を終えた。販売期間が短かったということもあるが、海外での販売も決して好調ではなかった(キャパのみ国内専売)。しかし、販売期間が短かったものの、ロゴは欧州で2001年12月の顧客満足度調査でトップを記録した。少なくとも「わかる人にはわかった」クルマだったのだろう。それは日本でこそ「ヴェゼル」になったが、海外では「HR-V」の名が受け継がれていることも一つの証明になるかもしれない。日本でもその名を残すのは、皮肉にも「Jムーバー」からはずれた2ドアクーペの「J-VX」、つまり「インサイト」だけである。
昨今、「ロゴとJムーバーはフィット登場までの中継ぎだった」という言説を目にするが、それはいささか乱暴に過ぎないだろうか? むしろロゴと「Jムーバー」の早過ぎるとも思える退場は、燃費や衝突安全性への社会的要請が、いささか想定以上のスピードで急激に変化した背景を無視してはならないように思う。実際、ロゴは発売からわずか2年でフルモデルチェンジに相当する大規模マイナーチェンジを敢行、主に燃費と衝突安全性を根本から向上させている。その方が異例と言っていい。フィットはセンタータンクレイアウトなど、ある意味、「奇策」を用いることでその「想定以上」に先行して開発され、市場投入されたと考えた方が自然ではないか。ロゴが中継ぎに見えるのは、あくまで結果論であろう。
ロゴと「Jムーバー」は販売台数こそ低迷したが、決して失敗作というわけではなかった。販売低迷--特に国内市場--については、一つにクルマのコンセプトが世間に正しく伝えられなかったことが挙げられる。これには将来展開を秘匿するという開発側の姿勢--企業としては当然だが--や、筆者も含む自動車マスコミやジャーナリズムの分析不足や理解・説明不足にも責任の一端はあったように思う。が、それ以上に、燃費や衝突安全性への社会的要請が急激に高まったことが大きい。タイミングとして、それらの新基準が固まる前に開発がスタートしてしまったことがすべてのように思える。それゆえに、筆者は今般のホンダF1撤退の裏にある「ホンダe」が、決してホンダEVの本命とは思えないのだ。必ず「次」がある。ろくな根拠ではないが、そんな気がしてならないのだ。
ホンダHR-V JS4 3ドア 主要スペック
全長×全幅×全高(mm):3995×1695×1590
ホイールベース(mm):2360
トレッド(mm)(前/後):1465/1455
車両重量(kg):1190
乗車定員:5名
エンジン型式:D16A型(125ps仕様)
エンジン種類・弁機構:直列4気筒SOHC16v
総排気量(cc):1590
ボア×ストローク(mm):75.0×90.0
圧縮比:9.6
燃料供給装置:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
最高出力(ps/rpm):125/6700
最大トルク(kgm/rpm):14.7/4900
トランスミッション:CVT(マルチマチックS)
燃料タンク容量(ℓ):55
10.15モード燃費(km/ℓ):13.6
サスペンション方式:(前)マクファーソンストラット/(後)ド・ディオン式5リンク
ブレーキ:(前)ディスク/(後):リーディング・トレーリング
タイヤ(前/後とも):195/70R15
価格(税別・東京地区):162.8万円
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