ホンダ・シビックタイプRの開発責任者が自らレースで戦う意味。「ホンダの魂、開発者たちのマインドを、ちゃんと若い人たちに見せてあげなくちゃいけない」
- 2020/11/30
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MotorFan編集部 鈴木慎一
今年もホンダ社内有志チーム「Honda R&D Challenge」がシビックタイプRでスーパー耐久に挑んだ。4人のドライバーのうちのひとりは、チーフエンジニアの柿沼秀樹さんだ。なぜ、チーフエンジニア自身がレースを戦うのか? ツインリンクもてぎで、レースでの走行直後に訊いた。
PHOTO●小野田 康信(ONODA Yasunobu)/Motor-Fan
「レース活動はやめたら終わりです。なんとしても続けていかないと」
2019年に続き、2020年もスーパー耐久シリーズのツインリンクもてぎ戦にホンダの社内有志チーム、「Honda R&D Challenge」が参戦した。ホンダ社員が中心となって活動する自己啓発活動である。
5時間の耐久レースを戦うドライバーのひとりに、シビックタイプRの開発責任者である柿沼秀樹がいた。量産車のシビックタイプRの開発責任者自らがステアリングホイールを握ってレースに参戦する理由を、パドックで訊いた。
レースの模様はこちらの記事をご覧ください。
ホンダ・シビック タイプRでスーパー耐久に挑戦するホンダ社員チーム。2020年仕様のタイプRでどう戦ったのか?
2020年11月22日、栃木県ツインリンクもてぎで開催されたスーパー耐久第4戦に、ホンダ社員有志チーム「Honda R&D Challenge」...
今年のレースを振り返ってどうですか?
柿沼:まず、レースは過酷だ、というか、ホントにずっとクルマの限界、そのときに出せる限界で走り続けるのが耐久レースです。今年もその厳しさを私自身が身をもって感じた。まずはいい時間を過ごすことができましたね。
今年、市販車のタイプRがマイナーチェンジを受けました。それがレースカーにも反映されているんですよね?
柿沼:レースカーにもマイナーチェンジで施した2020年モデルのタイプRの改良を入れ込んであります。同クラスの他のクルマが履いているサイズに合わせて、あえてタイヤサイズを昨年から2サイズ上げています。そうすることでより車体側に対する入力が厳しくなります。あえて自分たちに厳しい負荷を増やして、それをどうバランスさせるのか、そして全体のペースを上げていくのが、今年自分たちに課した課題です。
マイナーチェンジ時には多くのテストを重ねて開発をされると思います。今回ご自分がレースに参加する時は、自分がやった改良の方向は「なるほど正しかった」という検証はできるわけですよね。
柿沼:そうです。もちろんです。もちろん量産車の開発上でも、私が乗って検証します。それをもっと厳しいこのスーパー耐久というレース車両でも、どれほどの効果、進化が得られたのかを私がまた確認をして次につなげていく機会でもあります。
タイプRを買ってくださるお客さんにとっては、チーフエンジニアが実際レースで同じクルマを走らせているっていうのはずいぶんうれしいと思うんです。走れるエンジニアが作ったタイプRを実証しているわけで。お客さんに対して意味のあるレース活動という気がします。
柿沼:そうですね。タイプRはホンダの商品で直接お客様にお渡しできる商品です。そのなかで、やっぱり「よりホンダらしさ、ホンダスピリットを体現したモデル」になりますので、名ばかりというか生半可なものではあってはならないですし、そんなものをお客様にお渡しするわけにはいかない。ですから当然タイプRというブランドの商品に込めた想い。その想いであえてマイナーモデルチェンジであそこまで進化させました。そして、それでレースで、あえて厳しい領域、フィールドで検証して、さらに次につなげていく。そういうことを、そういうさまをお客様に伝えて見ていただいたほうが、お客さんとの距離が近づくというか、我々開発者の想いがお客さんに直に伝えられると思います。そういう場にぜひしたいな、と思って臨んでいます。
でもとはいえ、レースは楽しいんでしょ〔笑)?
柿沼:レースは楽しいですよ。楽しいですけど、大変ですよ(笑)。
「Honda R&D Challenge」は、プライベーターです。お金もかかるだろうし、タイプRの主査としては……。活動を継続するのはなかなかハードルが高いですよね。
柿沼:(キッパリ)やめたら終わりです。ゼロです。止めてしまったら、すべてがゼロになってしまいます。せっかく足がかりだけは会社に手伝ってもらって数年前に作ることができので、いまは苦しい時期ですけど、我々想いがあるメンバーたちが細々とではあるけれど、自己啓発っていうカタチでその原資をしっかり磨き続けていく。それをつなげていくこと、途切れさせない。続けることが、まずはいま大事だと思っています。
そういう意味ではいい仲間に恵まれていますね?
柿沼:本当にそうですね。僕はタイプRの開発責任者をやっていますけれど、そこはタイプRっていうブランドのカリスマ性ですよね。会社のなかの開発者たちもタイプRってなると目の色が変わりますからね。タイプRのためにっていうところに響く人たちが、まだホンダにはたくさんいるんですよ。
柿沼:それがいなくなったら終わりでしょうね。だけど、まさに終わらせてはだめだし、それこそがホンダです。僕が会社に入った1991年、上原さん(NSXのチーフエンジニア)たちがまさにNSX-Rの開発をしているのを目の当たりしました。95年にインテグラ・タイプRを作った、まさにその光景を僕は見て育っているわけです。その現場にあった、なんていうか魂というか、開発者たちのマインド、血潮みたいなもの、それをちゃんといまの若い人たちに見せてあげなくちゃいけない。世界状況も自動車をめぐる環境も昔に比べたらどんどん厳しい時代になってきていますけれど、うん、ホンダとしてね、これを途絶えさせたらなにが残るんだっていうくらいに思っています。
まぁ電気になろうと何になろうと、4輪のクルマを作っている限りは、そこに脈々と不変のスピリットというか……そういうクルマをお客様が乗ったときに、笑顔になる、身体で感じるスピリット、そこは変わらないと思います。まさにそれをカタチにしているのがタイプRです。自分が会社に入った若い頃に見てきたそういうものを、いま僕が背負ってやっていますし、その背中をちゃんと次の世代の人たちが見て、すでにそういう想いをもった若者たちが、まさにこの場に一緒にいます。若手にもそういう人がいます。ちゃんと次の世代を任せられるっていう若手たちがいまこの場にも来てくれているんです。
そういうのをちゃんと続けていけば、ホンダのスピリットは繋がっていく感じはしているわけですね?
柿沼:そうです。そうです。量産車の開発はもちろん一緒にやっているけども、そことまたちょっとフィールドの違うこういう取り組み、でもちゃんと同じメンバーっていうかな、両方の意義を一緒になって体現・経験している、まぁそれがあれば、僕がああだこうだ言わなくたって、次の人たちは自分たちで考えて、ホンダをどうするんだ、ホンダ・スポーツをどうするんだ、タイプRをどうしなきゃいけないのかってみんな自分たちで考えていってくれます。
みんな楽しそうですしね。
柿沼:そう。生き生きしていますよ。みんなやりたいって立候補してきてくれているメンバーです。みんな仕事ではなくボランティアとして来てくれるんですから。そことちゃんと業務というか商品というか会社というか、そこを繋げていくことが一番大事なんじゃないかな。仕事は仕事、レースはレースってなっちゃダメ。ちゃんと繋がってないといけない。私がここにいることの意義というか、そこを繋げるのも私の役割です。タイプRの開発側がここにいなくなっちゃうと、チームはただの同好会になっちゃう。2016年の活動のスタート時には、僕はメンバーに入っていなかったんです。でも、こういう活動があるのは知っていました。会社のサポートがなくなったとき、このまま絶やしてはいかんと思って、僕が入るよ、と。僕が入ればなにかしてあげられることがあるかもしれないし、せっかくのマインドを会社のサポートがなくなったから、終わりって途切れさせるのはダメって思ったので、一緒にやることに決めました。
そういうことなんですね。今年のレースは残念ながらリタイアとなってしまいました。来年はどうしますか?
柿沼:この想いに賛同いただける方にぜひ、協力をしていただいて、一緒に前に進んで続けていきたいです。来年も続けたいです。
「Honda R&D Challenge」と柿沼さんを取材して、このチームが来シーズンもレースで戦えること、それはタイプRの進化のためにも必要だし、ホンダがホンダらしくあるための必要なことのように思えた。
「次の展開」をサーキットでぜひ見てみたい。
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