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陸上自衛隊:長距離阻止砲撃! 遥か遠方の目標を粉砕する地対地ロケット弾「多連装ロケットシステムMLRS」

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陸上自衛隊「多連装ロケットシステムMLRS」。車体背部に立ち上がっているのが多連装ロケット発射機だ。写真/陸上自衛隊

陸上自衛隊の火砲・ミサイル部隊である野戦特科職種が装備する長距離砲撃装備が「多連装ロケットシステムMLRS」だ。当初、日産がライセンス生産していたMLRS。日産が軍事部門が閉じたあとは、IHIエアロスペースが引き継ぎ、生産を担当した。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

陸上自衛隊の火砲・ミサイル部隊である野戦特科職種が装備する長距離砲撃装備が「多連装ロケットシステムMLRS」だ。MLRSとは「Multi Launch Rocket System」を示す略称。ベースというか中身は米軍のM270地対地ロケットの自走発射機で、イラク戦争でも投入された装備だ。陸自内では「多連装」や「MLRS」、あるいは「エムエル」などと略して呼ぶことが多いようだ。1992年の導入当時は一般公募で「マルス」との愛称に決まったが、他の装備の愛称と同様、そうしたニックネームで呼ぶ隊員はほとんどいない印象だ。

自衛隊観閲式で朝霞訓練場を行進するMLRS。写真/陸上自衛隊

MLRSの特徴は巨大な227㎜対地ロケット弾を12発、まとめて装備することにある。それをブラッドレー歩兵戦闘車の車台上に載せた支援砲撃兵器である。ロケットは長距離を飛ぶ。つまり自身は目標から遠距離の間合いを取っていながら圧倒的な火力で相手を粉砕、瞬間的に撃破することが可能。大量のロケット弾を一斉射撃することで目標地域を広範囲に、面的に制圧することもできるわけだ。相手からすれば突然、巨大なロケット弾が大量に降ってくるのだから堪らない。

発射機には合計12発のロケット弾を搭載できる。再装填には時間がかかるらしい。写真/iyoupapa

当初、ロケット弾にはいわゆるクラスター弾(M26)がラインアップされていた。この弾体には644個の小弾子が内蔵されており、12発のロケットを合計すると8000個にも迫る小型爆弾を相手の頭上にバラ撒くことになる。しかし、クラスター弾に関する国際条約に日本も2008年に署名したことでクラスター弾は廃止された。以降はGPS誘導による精密誘導ロケット弾(M31)などに切り替えている。

MLRSの射撃、ロケット弾が発射される瞬間だ。これは米国アーカンソー国防軍第142野戦砲兵旅団の装備。同州バーリングという町の近郊にあるフォートチャフィー合同操縦訓練センターでの射撃訓練のようす。写真/Arkansas National Guard

MLRSに標準で搭載されるロケット弾の射程は約30㎞。さらには、ATACMSと呼ばれる戦術地対地ミサイルを装備すれば最大射程は160㎞にまで延伸されるという。ちなみに映画「シン・ゴジラ」では御殿場に置かれたMLRSが武蔵小杉のゴジラへ向けて射撃したシーンがあった。御殿場から武蔵小杉までの距離は直線で約90㎞だ。MLRSの射撃とはこうしたスケール感のものになる。

また、ロケット弾には、対戦車弾や地雷散布弾などの各種弾頭(陸自は未装備)がオプションとして存在する。幅広い作戦に対応できる能力があり、汎用性も高い装備といえる。

射撃直後。巨大なロケット弾体が見えている。ご覧のように噴進煙が大量に発生する。ロケット弾は噴進煙を曳きながら飛翔するので非常に目立つ。写真/Arkansas National Guard

一方、射撃時の轟音と噴煙は凄まじく、それは結果的に自位置を暴露することにつながり、相手からの反撃を受けやすいという短所もある。しかし大量射撃装備のニーズは変わらずあるので、諸外国軍では改良を重ね世代を改めた射撃装置を装輪(タイヤ式)車両に搭載した高機動大量射撃装備を開発、導入してもいる。

MLRSは、開発国のアメリカ以外にイギリスやドイツ、イタリアなどのNATO加盟国やイスラエル、韓国でも採用されている。しかし、いかんせん古びてもいる。開発時期は米ソ冷戦の時代で、開発動機は大軍で侵攻してくる旧ソ連軍勢を一気に制圧したいというもの。冷戦時代の日本の脅威対象にコレがマッチし、導入に踏み切った。北海道などに配置して主に北方の脅威に備えたのだ。

時代はめぐって、GPS誘導の精密誘導ロケット弾を装備するようになると、南西諸島の島嶼防衛のため、海上自衛隊輸送艦「おおすみ」型の甲板にMLRSを乗せ、離島を占拠した相手に向けて射撃する試み(模擬射撃訓練)なども行なわれるようになった。陸自の地対艦誘導弾のように運用するための試験だ。島嶼防衛では使えそうなものは使ってみるというものである。

当初、MLRSは日産がライセンス生産していた。が、同社の軍事部門が閉じると、そのあとをIHIエアロスペースが引き継ぎ、生産を担当した。

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