スプラッシュとよく似たプロポーションだが中身は似て非なる存在 スズキ・イグニスハイブリッドMF試乗インプレ:街乗り特化の小型車という本質は変わらず。クロスビー&ジムニーシエラとの違いは…?
- 2020/07/25
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遠藤正賢
2016年1月に誕生したスズキのAセグメントクロスオーバーカー「イグニス」が、20年2月にマイナーチェンジ。ラインナップ全体でSUV色を強める中、専用の前後バンパーとオーバーフェンダー&サイドスカート、ルーフレールを装着したほか、室内にもレザー調シートや防汚タイプラゲッジフロアを採用するなど、より一層SUVらしさを強調した新グレード「ハイブリッドMF」を追加している。
この「ハイブリッドMF」に、都内および神奈川県内の市街地と高速道路で試乗した。なお、今回のテスト車両には、全方位モニター用カメラパッケージ(5万5000円)、スタンダードプラス8インチナビ(16万5605円)など31万695円分のオプションが装着されており、車両本体価格183万9200円と合わせて総計214万9895円の仕様となっていた。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、スズキ
現行モデルのデビュー当時に「イグニス」という名前を聞いて「懐かしい」と思った人は、なかなかのスズキ通もしくはラリー好きと思われる。というのも、2000年発売の初代「スイフト」が国外では「イグニス」を名乗っており、2001年よりこれをベースとしてJWRC(ジュニア世界ラリー選手権)に参戦していたからだ。
筆者個人としても、国産新車誌の編集部に入った当時、そのJWRC参戦車をイメージして2003年に発売された初代スイフトスポーツ(海外名イグニススポーツ)が、長期レポート車としてガレージに収まっていたため、若かりし頃の記憶に強く残っている。
そんな初代スイフト=初代イグニスの販売終了から10年の空白期間を経て復活した現行二代目イグニスは、初代と同じくAセグメントの、それもSUVというより背高ワゴン寄りのクロスオーバーカーとして生を受けた。ただし、軽自動車の「Kei」と外板を一部共用して低価格を追求した初代とは打って変わり、上質かつデザインコンシャスなコンパクトカーに大きく舵を切っていたが。
そして、今回のマイナーチェンジでは全車に5スロットグリルを採用し、さらに「ハイブリッドMF」には冒頭の通り専用アイテムを数多く装着することで、従来よりもSUV色を強める方向にシフトしているのだが、依然としてイグニスの内外装は極めて個性的だ。
とりわけリヤまわりの造形は「なんだこれは!?」と驚かせるもので、特に上側の絞り込みは、2008年から2014年にかけてハンガリーから輸入されていたAセグメントの背高ワゴン「スプラッシュ」を彷彿とさせる。
だが、バックドア上側の傾斜が前後方向にも強く、リヤドアのガラス面積も小さくされたイグニスではこれらの代償が大きく、斜め後方の死角が大きい。そして、ヒップポイントが高めに設計されているのは、見晴らしが良くニークリアランスも15cm程度確保されているという点では好ましいが、身長176cm・座高90cmの筆者が座ると、後席のヘッドクリアランスは上下にも左右にもほぼゼロだ。
しかもリヤシートは小ぶりなうえ平板でクッションの弾力も弱く、これにハイブリッドMF専用の固く滑りやすいレザー調生地が、ただでさえ乏しいホールド性を限りなくゼロに近づけてしまっている。なお、この傾向は残念ながら、フロントシートも全く同様だった。
加えてラゲッジルームは奥行きが少なく、前述の通りバックドア上側の傾斜が前後左右に強い。そのためこの時点で、アウトドアレジャーを楽しむのに人と荷物を満載して遠くまで出掛けるのには不向きと直感したのだが、一方でサブトランクは深く、日常の買い物では非常に使い勝手が良さそうに感じられた。
そうした試乗前の直感は、幸か不幸か完全に当たってしまう。
実際に走らせてみると、小柄なボディに4.7mという最小回転半径の小ささ、180mmの最低地上高も手伝って、狭い町中での取り回しは抜群。また、新車装着タイヤがラフロードの走行を想定していないごく普通のサマータイヤだったこともあり、速度域を問わず乗り心地は良好だった。これにはもちろん、イグニスが初採用となったAセグメント車用の新世代「ハーテクト」プラットフォームも貢献していることだろう。
また、新たにWLTCモード対応が図られたK12C型直列4気筒NAエンジン+CVT+マイルドハイブリッドの組み合わせは必要充分なパワー・トルク。ISG(モーター機能付き発電機)によるモーターアシストにクセがなく、アイドリングストップからの復帰時を含めて騒音・振動が少ないのも好印象だった。
だが、粗粒路ではロードノイズが大きく、静粛性の高いパワートレインがかえって徒になっている印象。そして、電動パワーステアリング(EPS)のフリクションが大きいためか、中立付近の遊びが大きくインフォメーションも乏しく、旋回の際にどの程度舵角を当てればよいのか非常に読みづらい傾向にある。
880kgという軽さでキビキビとしたハンドリングが味わえるうえ、旋回中に大きなギャップを乗り越えても挙動が乱れにくいのだが、操舵機構の不味さがそうしたボディ・シャシー性能の高さを台無しにしているとさえ言えるだろう。
また高速道路では、無風に近い状態では安定しているものの横風には煽られやすい。しかも中立付近の遊びが大きくインフォメーションも乏しいステアリングのおかげで、進路の修正は困難。さらにはホールド性皆無のシートが、疲労の増幅に拍車を掛けていた。
実はこうした傾向は、現行イグニスのデビュー当初から、何ら変わっていない。そしてスズキ広報によれば、今回テストしたハイブリッドMFも、ただ単にワイドフェンダーで全幅を拡大しただけで、最低地上高はおろか前後トレッドやタイヤサイズ、サスペンションのセッティングさえ、従来のイグニスや他のグレードと共通なのだという。だから、短距離短時間の街乗り・買い物に特化したコンパクトカーという本質的な性格も、従来と全く同じだ。
さて、ここで一つ、大きな問題がある。それは、今やスズキの中にさえ、AセグメントのSUVは他に選択肢があるということだ。具体的には、2017年12月にデビューした「クロスビー」、2018年7月にフルモデルチェンジされた「ジムニーシエラ」がそれにあたる。
特にクロスビーはイグニスのロング版というべきもので、パワートレインも1.0L直3ターボ+6速AT+マイルドハイブリッドとするなど、イグニスに勝る点は少なくない。ジムニーシエラも新型になって舗装路でのハンドリングと乗り心地が大きく改善され、悪路以外でも問題なく使える本格オフローダーに進化した。
そこに来て、SUV色を強めた今回のイグニスのマイナーチェンジは、これら二車にキャラクターを近づけ、差別化どころか共食いを誘発する自殺行為に等しい。スズキの通例からすれば、さらなる改良はフルモデルチェンジまで待たねばならないだろうが、もし次の世代があるならば、スプラッシュのように実用的かつ、長距離長時間高速道路を走行しても快適なコンパクト背高ワゴンに回帰することを、心から願ってやまない。
■スズキ・イグニスハイブリッドMF(FF)
全長×全幅×全高:3700×1690×1605mm
ホイールベース:2435mm
車両重量:880kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1242cc
エンジン最高出力:67kW(91ps)/6000rpm
エンジン最大トルク:118Nm/4400rpm
モーター最高出力:2.3kW(3.1ps)/1000rpm
モーター最大トルク:50Nm/100rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前/後:ストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ:175/60R16 82H
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:19.8km/L
市街地モード燃費:15.9km/L
郊外モード燃費:20.5km/L
高速道路モード燃費:21.6km/L
車両価格:183万9200円
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