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よくわかる自動車技術:第9号 ターボラグと最大トルクのマジック 2秒間はあるはずのターボラグはどこへいった?──ダウンサイジングパワートレインの制御方法

  • 2018/07/16
  • Motor Fan illustrated編集部
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筒内で燃焼したガスが排気ポートを通りタービンへ流入して同軸のコンプレッサホイールを回し、するとそこで圧縮された空気はインタークーラで冷却されたのちに吸気管で合流してポートを通じ筒内へ──即座に過給圧が立ち上がらないのも道理である。

ターボ過給花盛りの昨今、かつてのようなドッカンターボというエンジンはすっかり見られなくなっている。小径高応答のターボチャージャを用いていることもありターボラグは極少、素早いレスポンスが得られるようになった──というインプレッションが多く見られる。しかしターボを用いるならその構造上ラグがなくなるということは考えられず、だからこそ電動スーパーチャージャーなどのデバイスが提唱されている。では、果たしてラグはどのように解消されているのか。
TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

 ターボラグがほとんどない、と言われるダウンサイジングターボだが、実際に乗って見るとラグはある。1970~80年代のターボ車や、ビッグタービンに交換したチューニングカーのように「ドッカーン」ではないけれど、明らかにある。
 空いた道路を30㎞/hくらいで走っていたとする。クラスにもよるがギヤは4速あたり、回転数は1200~1300rpmくらいか。そこで変速機をマニュアルモードにしてギヤを固定し、30~40%くらいのスロットル開度で加速を始めると、ダウンサイズターボ車の加速は案外トロい。回転数が1500から2000rpmくらいではターボが効いている感じがしない。2000rpmを超えて大体2300~2500rpmに至ってグッと加速度が上がるのが体感できる。2300~2500rpmというのは現在の2ℓ以下のターボ車にとって体感できるラグのしきい値のようで、どんな車種でもほとんど変わらない。「ドッカーン」とこないのは、既にこの回転数で過給圧がサチュレートし、加速度自体も飽和して一定加速になっているからだ。

(image)自動変速に頼らず、ギヤ段ステイで加速を試みると──(PHOTO:VOLVO)

 ターボが効きはじめる時、エンジン排気量を超える空気とそれに応じた燃料がシリンダーに送り込まれる。その瞬間、ピストンも車体もそれまでより早く速度を上げようとして加速度に変化が生じる。加速度に加速が生じるから「加加速度(躍度とも言う)」が発生して、ドライバーはいわゆる「加速感」を覚える。それが過ぎればそれまでの加速度との落差によって人によっては粗暴と感じるし、温和であれば気にならない。問題は加速度変化の立ち上がり量と、それ以前の加速度との差なのである。それは概ねトルク発生の推移とリンクする。

(image)加速度の変化に人間は案外敏感である。(PHOTO:JAGUAR)

 メーカーの公表値ではほとんどのダウンサイズターボエンジンの最大トルクは1500rpmあたりで発生していることになっている。だから1000rpm台前半でクルージングしているところから加速しても、すぐに最大トルクに達して「加速のラグ」がない、という。
 これは一種の数字のマジックである。
 公表・届出される最大出力とトルク、そして性能曲線というのは、エンジン単体にプラス必要な補記類を付けて計測したもので、完成車体の車輪軸で発生する数値ではない。つまり無負荷、しかも全開なのだ。
 実際の運転では出力軸から先の出力にはあらゆる負荷がかかる。駆動系の引き摺り抵抗にタイヤの転がり抵抗、多少の空気抵抗と、何より車体と乗員の重さだ。加速指令を受けたエンジンは、車体を実際に加速させる以前に、まずこうした種々の負荷/抵抗に抗わなくてはならない。かと言って、高速合流でのダッシュでもない限り、加速時にスロットル全開にすることなどそうそうない。部分負荷、部分スロットルで、抵抗勢力との闘いにターボチャージャーが打ち勝って実際の加速に反映するのに、ざっと1000rpm分の回転数とそれに要する時間がかかるのである。

VW/AUDIの1.4ℓガソリンターボエンジンのトルクカーブ。これらが示すのは無負荷全開領域での性能だ。(FIGURE:AUDI)

 昔のターボはターボ自体のサイズが今より大きかったし、効率もそれほどではなかったから、排気を受けて実際にタービンの速度が上がるまでに時間がかかった。けれども現在のターボは効率重視で最大出力を狙っていないからとても小さく、効率もよい。それなのにラグが出るのにはもうひとつの理由がある。
 現在のターボは普段は寝ている。定常運転ではウェイストゲートが開きっぱなしでターボに排気をほとんど導いていないからだ。理由もちろん燃費である。いくら改良されたと言っても、ターボを効かせるとてきめんに燃料を食う。今どきのエンジンはターボ付でもそこそこ圧縮比が高いし、可変バルブタイミング機構を駆使すればNA状態でもトルクを出せる。だから低負荷でスロットル開度が小さい時はターボ車といえど自然吸気エンジン同様なのだ。だが、加速となると排気量を減らしている上に、NAより圧縮比が低いから力が出ない――ターボでバキューン……。寝ている子を叩き起こすのだから、当然寝覚めは悪い。
 スズキの新スイフト・スポーツは、レスポンスの悪化を嫌って時勢とは逆に普段からウェイストゲートを閉じている「ノーマルクローズ制御」を行っていると、プレスリリースに明言している。メーカーだってターボラグがあることを承知しているのだ。

ノーマルオープン制御の概念図。タービンを回すときにだけ、ウェイストゲートを閉じる。(FIGURE:SUZUKI)

 あるサプライヤーに訊いたところでは、ターボ車のラグは少ないものでも大体2秒はあるという。そのラグを感じさせないようにするため、ダウンサイジングターボ車は必ず多段変速機とセットとなって、ターボが効き出すまでは瞬時のシフトダウンで加速をサポートする。先ほど「ギヤを固定して~」と書いたのは、ターボラグをあぶり出すための意地悪であって、変速機が存分に働いている時ターボラグは僅少になる。ところがギヤのステップ比はあらゆる運転状況にマッチするわけではないし、クルマによっては協調制御のモードを切り替えないと、ギヤをなるべく高い位置に保とうとするためにターボラグが却ってあぶり出されることもある。
 別にダウンサイジングターボが悪いわけではない。ただ「ターボラグがない」というのは、正しいとは言えない。

フォルクスワーゲンは、TSIとこのDSGを組み合わせることで高いドライバビリティを実現している。ターボラグ対策も含め、1速〜2速のギヤ比は3.500と低めに設定される。(PHOTO:VOLKSWAGEN)

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