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メカニズムに注目して新型プジョー508を試乗する──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第21弾

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桜が咲く季節に雪の中の試乗という、希有な体験である。

新型プジョー508の試乗会に参加した。御殿場での開催、箱根方面でのボディ/シャシー性能を存分に試せると思ったが——あいにくの荒天。しかしそのシチュエーションだからこそ得られるものもある。ディーゼルとガソリン、それぞれの特徴を探ってみた。
TEXT:安藤 眞(Ando Makoto)

 プジョーのフラッグシップサルーン「508」がフルモデルチェンジした。フラッグシップと言っても、価格帯は417万円〜492万円とリーズナブル。直接のコンペティターとしては、フォルクスワーゲン・パサートが挙げられるが、正統派4ドアセダンでプレーンなデザインのパサートに対し、508はフランス車らしい小洒落たデザインと、5ドアハッチバックによる多用途性を持ち味とする。
 搭載されるエンジンは、2.0Lディーゼルターボと、1.6Lガソリンターボの2種類。まずはディーゼルモデルから試乗してみよう。ただし、季節外れの雪に見舞われたため、ハンドリングが試せるようなコースは走れなかったことを、最初にお断りしておかなければならない。

508 GT BlueHDi。2.0Lのディーゼルエンジンを搭載。

 乗り込む際にまず気付くのは、サイドシルの太さと着座位置の低さ。まるでアウディA4の……というより、スポーツカーに近い。路面にカント(横傾斜)が付いている場所では、小柄な人は乗り降りが大変かも知れない。
 着座した雰囲気もスポーツカー風。スカットルもベルトラインもフロアコンソールも高く、バスタブに沈み込んだようだ。小径&異形のステアリングも、スポーツカー的なイメージを際立たせている。

 エンジンを始動しても、非常に静かだ。走り始めても、それは変わらない。音質はディーゼルっぽい低音ではあるが、音量も振動も極めて小さい。感心したのは、アイドルストップからの再始動。燃料を噴射すれば即始動するディーゼルとは言え、セルモーターの音が聞こえる間もなく滑らかにエンジンがかかる。
 8速化されたトランスミッションのマナーも上々だ。日本の市街地走行ではシフトアップポイントが少し遅く感じられるのは、かつてのフランス車の名残か、それともターボラグ対策か。意図的にターボラグが生じそうな走りかたをしても、間髪入れずにダウンシフトして回転を上げてくれる。
 乗り心地もまずまずのフラットライド。カタログには「アクティブサスペンション」と表記されているが、能動的に油圧を出し入れするのではなく、バネ上加速度とサスストロークをもとに、減衰力をリアルタイム制御する方式だ。ダンパーはKYBヨーロッパ製とのことなので、三重管の外側に付けたバルブをリニアソレノイドで制御するタイプだと思う(トヨタのAVSと同じ)。操舵応答性に過敏感はなく、素直で扱いやすい性格だ。

コックピットはスポーティ。i-Cockpitもすっかりプジョーのイメージとして定着した。

 少し気になるのが、サスが動き出す際の微妙な渋さと、突起乗り越し時のリヤの横揺れ。リヤサスのダンパーが大きく内側に傾けられているため、作動効率の点で不利なのに加え、バンプ入力時に横方向に反力を生じるのが原因ではないかと思われる。ダンパーのタワーを室内に張り出させず、ラゲッジの幅を広げるためのレイアウトであり、多用途性も欲張るために、あえてそうしているのだと思うでが、後席は居住性も含め、大人の「うるさ型」を乗せるのは推奨しない。
 パワーステアリングの制御も気になった点。パーキングスピードでは過剰なほど軽く、車速が10km/hを越えた辺りから、センターを締めに行こうとする傾向がある。低速域の操舵力を重くしてでも、もう少し「つながり」を滑らかにしたほうが良いのではないか。

508 GT Line。1.6Lのガソリンエンジンを搭載。

 続いてガソリンエンジン車に乗り換えてみよう。PSAグループではお馴染みの、1.6Lダウンサイジングターボだ。250Nmの最大トルクを1650rpmから発揮するだけあって、力強さは十分。絶対値的には自然吸気の2.5L相当だが、自然吸気では最大トルクは3000rpmぐらいにならないと出ない。これが1650rpmから使えるのだから、体感的には3.0Lぐらいの力強さがある。ディーゼルモデルほどではないにせよ、これで不足に感じるシーンはまず無いだろう。
 ディーゼルモデルとの大きな違いは、操安性・乗り心地と静粛性だ。サスチューンは「重量差を補正しただけ」とのことで、ノーズの動きはガソリンモデルのほうが圧倒的に軽快。その反面、乗り心地にはディーゼルほどの重厚感がなく、ピッチング挙動が硬く感じられるシーンが何度かあった。
 静粛性はガソリン車のほうが上……とはならず、ロードノイズ系のこもり音は、ディーゼルモデルのほうが車内に響かない。エンジン騒音を遮音するための対策が、その他の騒音にも効いているのだろう。と言っても、乗り較べたから気付くレベルであって、ガソリン車も単独で乗れば、前後の席で普通に会話できる程度には静かだ。

 なんだか欠点ばかり書いてしまったが、それは、ほかの部分が極めて自然だから。まるで国産車のようなまとまりの良さ……というのが、フランス車にとっての褒め言葉になるのかどうかはわからないが、デザインに惹かれて初めて輸入車に手を出した人でも、違和感なく乗り続けられるのでは無いかと思う。

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