次世代水平対向エンジンへの提言(6)水平対向エンジンへの期待
- 2020/05/23
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牧野 茂雄
スバルのエンジン工場を見学するとスバルのクルマが欲しくなる——これは事実だ。筆者が初めてスバルのエンジン工場を取材したのは1989年、EJ型が登場した直後だった。ほかの量産エンジンに比べて恐ろしく加工の手間をかけている様子を見て、こう思った。その23年後、FA/FB型の生産ラインを見たとき、89年当時の印象を思い出した。とにかく加工も組み立ても精緻なのだ。EJ型は量産品と同じエンジンブロックでWRC(世界ラリー選手権)マシンのエンジンが作られた。こんな芸当はなかなかできるものではない。スバルは水平対向エンジンを造り続けるべきだ。エンジンがすべて直列かV型になってしまってはつまらない。水平対向もロータリーも一目置かれる少数派であり続けて欲しい。スバルのエンジン工場を取材するたびに、筆者はこう思った。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
水平対向エンジンをOHV(オーバー・ヘッド・バルブ)化したらどうなるか――このテーマでMFiは「頭の体操」をしてみた。現在のFA/FB型エンジンは横幅が広くなりすぎた。そのため、スバル車のフロントサイドメンバーは前開きが著しい。(1)図がスバル・グローバル・プラットフォームの平面視であり、(2)図のフォルクスワーゲン・ゴルフ8代目、(3)図の現行マツダ3に比べて「前開き」の傾向が強い。MFiとしては、エンジンルーム内の冷却やサスペンションとの整合性、車種ごとのエンジン搭載位置の小変更なども考慮すると、左右平行メンバーのほうが(図中の破線のように)良いのではないかと考える。
フロントサイドメンバーは左右平行がいいのか、それとも前開きにしてエンジンルーム全体を台形にするほうがいいのか。ここは諸説あり、スバルのように台形にするメリットも衝突実験値として報告されている。米国の自動車保険業団体が検討している前方斜め35°のオフセット衝突試験の追加を考えると、ひょっとしたら「前開き」のほうが対応が容易かもしれない、とも思う。しかし、このフロントサイドメンバーの「前開き」がエンジン幅への対応だけのためだとしたら、やや本末転倒のようにも思える。エンジン搭載位置は現状で固定しなければならない。このプラットフォームを使い続けるかぎり動かせない。それでは商品企画への柔軟性が低い。
同時に我われは、クランク軸地上高を現在より低くすることも提案した。スバルの水平対向エンジンは、初代EA型の時代はのちのEJ型よりも搭載位置が低かった。EJ型では吸気/排気系が複雑化し、エンジンの下に収容しなければならない部品が増え、クランク軸の地上高は一般的な直列エンジンやV型エンジンより高い位置が自然と指定席になった。(4)写真は正面から見た現在のFB型だ。エンジン台座の部品に隠れて見えないが、奥にはオイルパンがある。シリンダーブロックがクランク軸と同じ高さにあるから低重心には違いないが、現在のFA/FB型は将来、GPF(ガソリン・パーティキュレート・フィルター)などの排気系デバイスが追加される可能性が高く、エンジンの下に排気系部品を押し込む方式では早晩、限界が見えてくるように思う。エンジン搭載高をかつてのEA型並みに下げたいとMFiは考え、オイルパン不要のドライサンプ化も提案した。
我われの提案の詳細は過去の記事をご覧いただきたい。提案といってもただの机上検討であり、検証不足で中途半端なままではあるが、エンジンの横幅縮小とクランク軸地上高低下という目的については充分な手応えを得た。じつは一時期、スバル自身もOHV化の検討を行ったことがある。この事実はエンジン設計部門責任者だった役員氏から伺った。どこまで検討したのか、詳細は不明だが、「エンジン幅の拡大を抑える手段」としてスバルもOHV化を考えたという点だけは間違いない。もしOHV化したら、おそらく開発と量産のための投資は莫大になるだろう。エンジン製造設備を変更しなければならない部分も多くなると予想する。OHV化は大きな経営判断である。
MFiはこの水平対向エンジンOHV化机上検討をこれからも続けようと考えている。スバル社内での次世代エンジン検討開始までには、まだ少し時間があるだろう。影響力を行使しようなどという動機は微塵もないが、スバルのエンジン設計者諸氏とともに、水平対向エンジンの将来を考える時間だけ共有できれば、と思う。
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